特集羽田に「まち」をつくる グランドオープン 日本の玄関口 , 東京国際空港 ( 羽田空港 ) の隣に昨年 11 月 , グランドオープンした大規模複合施設 「 HANEDA INNOVATION CITY(HICity R ) 」。「先端産業」と「文化産業」の 2 つをコアとして新たな価値創造にチャレンジした , 日本初の「スマートエアポートシティ」の誕生である。 HICity は鹿島が代表企業を務める「羽田みらい開発」が , 東京都大田区と公民連携で開発を進めてきたもので , 羽田というポテンシャルあるエリアに多様な人やものが集まる光景は , あたかも新しい「まち」が生まれたかのようだ。新春の特集は ,HICity の姿を通して鹿島の挑む「まちづくり」を伝える。 グランドオープン記念イベント「 Grand Opening Event∅ 」の様子 06 KAJIMA 202401

07 KAJIMA 202401

chapter 1 「まち」が立ち上がる 東京湾に注ぐ多摩川に面し , 羽田空港第 3 ターミナルからひと駅の「天空橋」駅に直結する HICity 。 敷地面積 5.9ha , 延床面積が 13 万 m 2 に及ぶ , 大規模複合施設をダイジェストで紹介する。 HANEDA INNOVATION CITY( 羽田イノベーションシティ ), 写真左手側にグランドオープンで完成した ZONE A から ZONE C 部分が見える * 羽田の新たなランドマーク HICityは , 羽田みらい開発が羽田空港跡地第 1ゾーン整備事業 ( 第一期事業 ) において , 東京都大田区からの 50 年間の定期借地により , 官民連携で開発を進める大規模複合施設。延床面積約 13 万 m 2 を超える建物に , 研究開発施設・オフィス , 先端医療センター , イベントホール , 宿泊施設 , 日本文化体験施設 , 飲食施設など ,「先端」から「文化」まで多種多様な機能が集積している。一部エリアは ,2020 年 7 月に先行オープンし , 昨年 11 月にグランドオープンを果たした 。先端医療拠点からホスピタリティまでの新施設グランドオープンに先駆けて昨年 10 月に開所したのは次世代医療・研究拠点「藤田医科大学東京先端医療研究センター」。 ZONE AのB1~4 階フロアに開設した同センターは ,3 階までが藤田医科大学羽田クリニックとして最先端の研究を進め , 先進医療などの幅広い医療を提供。 4 階では国内医療機器および創薬メーカーとの共同研究施設や細胞培養施設を設置するほか , 遠隔手術支援の実証実験施設も設置されている。日本の玄関口である羽田に先端医療の拠点がつくられたことで , 国内外からの注目を集める。 また ,ZONE C の 2,3 階に設けられた 「 terminal.0 HANEDA 」 ( ターミナル・ゼロ・ ハネダ ) は , 日本空港ビルデング社が取り組む , 空港の課題解決に取り組む研究開発拠点。多様なモビリティや , ロボット技術を用いた手荷物預かり , ノンストップ型保安検査など , 空港利用の利便性や機能・効率向上に向け , 羽田空港の様々な課題に対し , 異業種連携で研究開発を行っていくことのできるワークスペースだ。空港設備や航空機内設備のモックアップが設置されるなど , 専門性の高い実証実験ができることが強みである。 ZONE Aの5~10 階には「ホテルメトロポリタン羽田」が開業。羽田空港を一望できるエアポートサイドの客室など全 237 室。屋上には空港を眺められる展望デッキもあり ,360 度の視界を楽しめる開放的な空間だ。ビジネスとレジャーの起点に最適な場所にあり , 利便性とホスピタリティのあるホテルとなっている。 ZONE Bには国内外からのアクセス良好なビジネス拠点となる貸室総面積約 2 万 7,000m 2 のオフィスが入る 。約 5,700m 2 のセンターコア・メガフロアオフィスは , 多様な企業やワークスタイルを受け入れるフレキシブルな空間となっており , 空港を一望できる開放的な屋上テラスなどワーカーの感性を刺激する環境が整えられている。 「全ての人に , イノベーションを」 首都高速神奈川 1 号横羽線 先行オープン部分を含め ,HICity には ZONE A から ZONE L にいたるエリア内に , 8 つの先端産業分野と ,5 つの文化産業 分野の機能をもった施設があるほか , ロボッ トが調理・配膳を行う飲食店をはじめとして ライブホールなどの商業施設が入居する。 HICity のコンセプトは「このまちで過ごす 全ての人に , イノベーションを」 ― ― HICity でしか体験できない「先端」から「文化」まで , 多様な価値観が集い , 互いに刺激しあうま ちを目指すとともに , 羽田という希少な立地 を活かした設計や多様な活用が可能な空 間 , 連携を生み出す空間などを設えた。 関連記事および建物概要は 26 ページ参照 京急空港線 環状 8 号線 多摩川首整備場駅 穴守稲荷駅 首都高速湾岸線都高速1号羽田線京モノレール羽田空港 天空橋駅 キングスカイフロント 第 3 ターミナル 多摩川スカイブリッジ 首都高速神奈川 8 号川崎線東第 1 ターミナル ( 東京国際空港 ) 第 2ターミナル 08 KAJIMA 202401

羽田に「まち」をつくる――HANEDAINNOVATIONCITYグランドオープン水素ステーション ** ZONE A 藤田医科大学東京先端医療研究センター 最先端の医療・研究拠点 ZONE B 研究開発施設 / オフィス時間の移ろいを感じるオフィスエントランス * ZONE A ホテルメトロポリタン羽田 空港が目の前に迫る客室や展望デッキ PiO PARK 区施策活用スペース ZONE C terminal.0 HANEDA 空港課題の研究開発拠点 AI_SCAPE ロボットラボ・レストラン 先端モビリティセンター 足湯スカイデッキ Zepp Haneda(TOKYO) ライブホール ** ZONE C ZONE B ZONE A 多摩川 羽田空港 環状 8 号線 京浜急行線・東京モノレール 天空橋駅出口 ( 地下直結 ) ARTIST VILLAGE Photo: * FOTOTECA ** 石黒写真研究所 (P08-11)

「まち」の外と内側 HICityの施設外観は , 水平に広がっている空港島の景観に対峙するかのように垂直を強調する縦連窓のボリュームが , 航空制限の高さに沿って階段状にせり上がっているのが特徴だ。事業公募コンペから全体計画を練り上げた当社建築設計本部設計チームは「遠景からもわかるように新しいまちが立ち上がる躍動感を表現した」という。一方 , 天空橋駅を出てHICityにアプローチする広場から屋外階段を上ると , ヒューマンスケールのまちが始まる。「羽田空港として接収される以前, ここは江戸時代に新田開発が行われた土地でした。その地歴を参照し ,HICityに一本の道を蘇らせようと考えました。その湾曲した道に沿って建物を雁行させ , 先を期待させるような新しい “ みち ” 空間を計画したのです」。そこは「 INNOVATION CORRIDOR 」と名付けられ , 象徴的なメインストリートとなった 。 ZONEの各施設の入口はコリドーにつながる路地状の脇道に配置されている。「建物のボリュームに囲われた内側に , 建築的な操作として賑わいを生む仕掛けをつくりました」 ( 同チーム )。 多摩川対岸からの遠景。航空制限による高さ規制で外観の形状が設定された * 1945 年頃の羽田鈴木新田と呼ばれた村落に「みち」を再生するように , 多様な機能の建築あった「みち」群が一体的に配置された 「 “ みち ” を発見し “ まち ” の計画が はじまった」 空間に仕掛けた「交流」の設えまた , 先端産業と文化産業の交流というコンセプトに対応し ,HICityにはエリアの様々なところに人々の交流できる空間が設えられている。屋根の上の「足湯スカイデッキ」や ,3 階レベルで 4 つのZONEを結ぶ「 FORUM 」 , それぞれの ZONEにバルコニーやテラスなど屋外に出られる場所をつくり , 立体的な出窓空間を配置するなど , 交流の場所を意識した設計がなされている。設計チームの責任者である仙波武士本部次長は「事業企画と建築的な工夫やデザインが一体になることで , こうした大規模でいきいきとした複合施設をつくることができた」という。当社開発事業本部はじめ , デジタルシミュレーション協力を行った技術研究所や , 施工を行った東京建築支店に至るまで当社の総合力で連携できていることも今回の事業の大きな特徴である。 北 ( 環状 8 号線 ) 側からの外観。縦連窓で連続するファサード * ゾーン間の象徴的な交流空間である FORUM と大屋根 * 秩序立った外観とは対照的に , メインストリートである INNOVATION CORRIDOR を中心にヒューマンスケールなまちが広がる * 10 KAJIMA 202401

羽田に「まち」* をつくる――HANEDAINNOVATIONCITYグランドオープン人の動きや滞留を促すように配置された植栽やベンチ。床の上で小さく光るのは「花灯籠」と名付けた照明 オフィスワーカーが空港を一望できる屋上デッキ * リフレッシュの場となる ZONE B の専有部バルコニー ** 雁行する道は , 賑わいをつくり出すスケール感となるよう , 建物の間隔や庇の高さを調整し , 景物を点在させて見通しに変化をつけている * Computational Design HICity の「イノベーション」というコンセプトは一見 , 抽象的であるため , 具体的な設計に落とし込むにあ たっては , デジタル技術の解析や評価を多く用いて デザインを行った 。 INNOVATION CORRIDOR では温度・日射・風速 などを統合した体感分布に視環境解析を重ね , 人の 動きと滞留を促すよう , 緑陰やベンチ , サインが配置 された。 FORUM を覆う屋根のアルミルーバーは , 近くの 穴守 ( あなもり ) 稲荷の実際の「木漏れ日」を模し , 日差 しを和らげつつ , コリドーへ「きらめき」感が届くよう につくりこむことで , 自然現象を抽象化しながら原体 験の豊かさを再現する環境装置である。 ZONE B のエントランスホール壁面は , 自然界に 見られる「 1/f 揺らぎ」のパターンにより HICity のロゴ である「羽」型断面ルーバーが配置され , 歩みにつれ て移ろう光沢と奥行き感で来訪者を出迎える。 デジタルを通奏低音とした複雑な表現が各所で感 じられる HICity 。実際に行って , その精緻な美しさ を体験してほしい 。 特集「いきいきと賑わう “ まち ” を目指し , 心地よくとどまる場と “ みち ” のシークエンスをつくり込んできた」建築設計本部 Ⅱ 期工事建築設計担当。 ( 左から ) 直井功 CF , 湯川絵実担当 , 大橋隆男 GL , 仙波武士本部次長 , 須都信義 GL , 小林春香担当 , 山本裕一 CF 9 種類の角度の違いがあるアルミルーバーは , 近くの穴守稲荷 ( 上 ) 屋根からコリドーへ届く反射光の検証 ( 下 ) ルーバー断面。の木漏れ日のきらめきをサンプリングし , レイアウトのパターンを 9つの傾きの組み合わせでパターンが形成されている生成させたロゴから着想を得たルーバー断面任意の「 1/ f 揺らぎ」の波形を抽出。変化量に応じて二進法 (0 ,1) の数列を生成かつてこの地にあった松林をイメージさせる ZONE Bオフィスエ「 1/ f 揺らぎ」のアルゴリズムから生み出された「心地よい規則性」ントランスホール。天井部からの照明角度が時間変化し , サーカディアンリズム ( 体内時計 ) を体現している * 11 KAJIMA 202401 デジタルを介してヒューマンな環境を生成する

chapter 2 思いがけず出会う「まち」 ― ― 「 Grand Opening Event∅ 」レポート HICity が目指す , すべての人に開かれた「まち」。 A B C D テクノロジーからアートまで , 異なる領域の様々なコンテンツが集積した「 Grand Opening Event ∅ 」を通し , まちの目指す姿を探る。 A 屋外壁面に投影された「 Air Lines 」 B 最新技術を活用した MULTI PERSPECTIVE C 足湯 DJ NIGHT D ライフスタイル・マルシェ 約 18,000 人が「カオス」を楽しむ昨年 11 月 17~19 日の 3 日間 , 「 Grand Opening Event ∅ 」が開催された 。これは , テクノロジーからアートまで , 異なる領域の様々なパフォーマンス , 展示 , ワークショップなど合計 100を超えるコンテンツが集結し , HICityのグランドオープンを記念した大規模イベント。会期中は子どもから大人まで , 幅広い年齢層の延べ約 18,000 人もの来場者を集め , 秋晴れのなか活況を呈した。現代日本のライフスタイルが体感できるマルシェが並ぶ横を , 四足歩行のロボット「 Spot 」が闊歩。アート鑑賞後はグルメに舌鼓を打ち , 足湯につかって飛行機を眺める。ライブパフォーマンスによる最新の音楽を楽しんだ後 , 土地と歴史を学びにまちあるきに参加 …。一見, 混沌とした祭典だ。事業者である羽田みらい開発として , イベントの総合プロデュースを手掛けた開発事業本部谷口直輝担当は ,「多種多様なコンテンツのすべてが『メインコンテンツ』であり , それらが同じ場所・同じ時間に共存す る姿こそ , 表現したかったこと」だと。「 HICityは単純なオフィスでも商業施設でもありません 。施設を建てたというより , 様々な人や価値観が共存する ,『まち』をつくったと考えています 。この『まち』のコンセプトを体現したものが今回のイベントで , かなりカオスだったと思います 。カオスと聞くと , ネガティブに捉えられるかもしれませんが , カオスこそが狙いです 。普段なら交わることがないような分野の人やモノが同じ場に集まることで , 思いがけない出会いや , 新たな気づき =イノベーションが生まれると考えました。この出会いこそがイノベーションの原点であり ,HICityはそうした『思いがけない出会い』を生み出し続けるまちだと考えています。そうした出会いを生み出し , 様々な人に楽しんでもらえるようなイベントとすべく , このまちにご共感いただいた表現者の方々や様々な企業・団体の皆さまに , お声掛けし , ご一緒することができました」。長い年月をかけて取り組むまちづくりであるからこそ , このまちの想いを事業者自ら発信することが 大事であると語る。また , 「このイベントに来 て , 『へぇ』と何かに初めて出会ってもらえた ら成功」だと 。 「このまちで過ごす全ての人に , イノベー ションを」という HICity のコンセプトを体現し たイベントだったと言えよう 。 「 “ イノベーション = 思いがけない出会い ” を表現 。 想いを ∅( 空集合 ) に込めた」 開発事業本部谷口直輝担当。 Grand Opening Event ∅ を総合プロデュース。学生時代に HICity を訪れたが , そのグランドオープンイベントを自ら手掛けるとは当時思いも寄らなかった 12 KAJIMA 202401

羽田に「まち」をつくる――HANEDAINNOVATIONCITYグランドオープンINNOVATION IDOBATA とは ,Grand Opening Event ∅ のなかで , HICity を体現するイベント “INNOVATION IDOBATA” にてトークを行った 5 組の表現者へのインタビュー。 各コンテンツのレポートとともに ,HICity の魅力や可能性について聞いた。 photo: Honma Muryo photo: Miki Takahira 「 Pluri-City 多元都市のための音楽」をテー マに , 数々の演者がパフォーマンスを行い , 「新しいことに「 HICityは都市の挑戦できるハブ機能を実装できる」カオスな空間が面白い」 齋藤精一氏 we+ ( パノラマティクス主宰 ) ( コンテンポラリーデザインスタジオ ) 「表現する素材展」では , 大田区のまち工場で使われている道具や材料を蒐集し彼らの考え 特集HICity 内で参加者から “ 音 ” を集めるなど , 音 るストーリーとともに展示された。下町感と 13 KAJIMA 202401 楽を通じ都市を知る試みとして丸 1 日かけて 土着性の中に羽田空港がある特異性が面白 行われたが , 各所で活躍する齋藤氏によれ いというwe+ が , 地場の人と会話を楽しみ ば東京でこれだけの実験音楽をできる場所は ながら ,100 点近くを集めた。彼らと同じ視 「今やHICityしかない」とのこと。 HICityの魅力は新たなものと出会えることであり , 点 , 思考を追体験できる美しく丁寧な展示が魅力的で , 見た人が考えを巡らした先 まさに都市間のハブになりうると語る。 に新たなものが生まれていく , それがイノベーションにつながるのではと語る。 「騒音が騒音ではない。 これこそが表現の原点で , 「 HICityは イノベーション」 可能性の宝庫」 尾角典子氏 窪田望氏 ( アーティスト ) ( 現代美術家 ) 世界中の200 以上の国際空港の風向きをリ 幻想的な展示「生まれては消える , 消えては アルタイムで受信し , あらかじめ用意した 生まれる」は , 外から人が入ってきたときの気 東西南北の幻想的な4シーンが風向きに連 流や温度に応じて変形するシャボン玉を飛ば 動してランダムに切り替わる映像作品「 Air し , 羽田の立地を踏まえ , リアルタイムで生 Lines 」。テクノロジーは共通認識の道具であ 成される多言語の詩を朗読することで流動的 り , 制御できない自然と調和し共存する方法 な空間を表現した。もともと自動運転セキュ を再考する試み。羽田の夏の南風に圧倒され , そしてジェット音がいわゆる騒音で リティの研究者だったことからも HICityに興味をもっていたという窪田氏。 AIが除 はなく特別な体験として感じられ , この作品のインスピレーションになったという。 外する「外れ値」の考え方を大切にし , 参加者がいるからこそ成立するインタラクティ ブなアート作品を表現していきたいと語る。 HICityこそ , その可能性があると。 「カジュアルな 最先端が楽しめる HICityは好きな世界観」 川田十夢氏 ( 未来開発ユニット「 AR 三兄弟」長男 ) HICityの目指す姿を体現するシグネチャーイベントとして独自に企画された 「四足歩行のロボットが子供と並走して歩いて もの。 “ イノベーションとは何か ?” について参加者も交えながら考える , トー いるのが自然に感じる」。家族連れでスーパー クセッション ( 井戸端会議 ) を2 日間にわたって開催した。 に行く感覚で , カジュアルに最先端を楽しむ ことができる HICity 。日常と地続きの近未 来的なものを開発するのが好きだと語る川田 氏らのちょっと変わったイベントは自分の顔 が飛び出してくるかのような「 AR 名刺」。様々な参加者がワークショップをしている うちに仲良くなる場となった。いろいろな業態が集まって , 生活と未来が交わるよ うなイベントが風物詩のようになるとよいと語る。 Day1| 齋藤精一氏 , 尾角典子氏 Day2| 川田十夢氏 ,we+ , 窪田望氏

Grand Open Event∅ 開催期間中には , 定常運行してきた自動運転バス (ARMA)( 左 ) に加えて , 小型自動運転バス車両 ( 中央 ) と ,2023 年最新型自動運転 EV 車両 ( 右 ) をこの「まち」で初めてお披露目した。また , ハンドルのない自動運転バスが同時に 2 種定常運行されるのは国内初 (BOLDLY 調べ ) スマートシティ , 実装へ HICity は ,2020 年に国土交通省「ス マートシティ先行モデルプロジェクト」に選定 されて以降 , スマートシティの取組みを推進 している。羽田みらい開発が幹事を務める 「羽田第 1 ゾーンスマートシティ推進協議会」 では , モビリティ・ロボティクス・ツーリズム・ ヘルスケアの 4 つの分野を中心に ,HICity 内および羽田空港周辺エリアで様々な実 証実験を行ってきた。 例えばモビリティ分野では , 交通弱者の 移動支援やバスなどのドライバー不足に応 えるべく , 自動運転バスをはじめとした自動 運転技術の実証実験が進む。国内初の 恒常的な自動運転バスの導入を始めたが , 現在ではバスが 2 台に増え ,HICity 敷地 内でのレベル 4 の実装を達成。ロボティクス 分野では , 清掃や警備 , 配膳・配送業務 へのサービスロボットの導入に向けた , エレ ベーター連携などのインフラ整備 , 配送能力 向上のためのシステム検証などが日々行わ れている。なかでもフードデリバリーサービス についてはテナントオフィスまでの運搬 , 金 銭決済までが可能だ。 また , サービス高度化を目指し ,BIM モデ ルを用いたデータ連携基盤「 3D K-Field 」 を当社が開発 , 構築し運用する。 HICity HICity 内でフードデリバリーサービスを行う配膳ロボット。施設の付加価値創出のため , 国交省の補助対象事業として 2020 年から継続して採択されながら取り組んでいる 内のビーコンや映像解析 AI を用いて人流 データを取得し , 人流・モビリティ・ロボット などの施設内のリアルタイム情報の可視化 を推進している。データの可視化や活用に 向けた取組みを今後も継続する予定である。 新しい分野開拓への挑戦 開発事業本部徳光勇人主任は , 実証 事業の企画立案から社外との業務調整な ど , スマートシティの取組みにおけるプロジェ クトマネージャーとしての役割を担う。 「単なる実証実験ではなく , テナントや来 場者へのサービス向上 , 施設の運営コスト 削減などに向け , 機能性 , 経済性の観点 で合理的な技術を見極めるため試行錯誤 しています 。 建設もシステムエンジニアリングもものづく りですが , 考え方が異なります。建物には 壁や床がある , 扉は通れるなど , 確立され た共通認識がありますが , システムに関して はそうではありません。何を目的に , 何がし たいかという要件を定めてから仕様を策定 し , ときにはつくりながら仕様を見直します。 一方で , 目標を見失うと中途半端な成果物 になります 。そうならないよう , つねに不動 産事業という軸に立ち戻りながら取り組ん でいます 。 空間情報データ連携基盤「 3D K-Field 」と現実空間とのデータ収集 , 活用のイメージ 『スマートシティ』も確立された手法がある わけではありません。ただ , 技術を駆使 したまちづくりは今後当たり前になっていく はずであり , それを見据え , 「まち」として の競争力を向上させたいと思っています 。 HICity で推進しているような新しい取組み が羽田にとどまることなく , 鹿島の技術的 , 科学的なアプローチとして , 他のまちづくり にも広がっていけばいいなと思います」。 今回のイベントは入居テナントのショーケースの場としても機能。複数の自動搬送ロボットが協調して安全かつ効率的な配送を実現 食べ物のデータ転送を実現する 3D フードプリンタの展示も 。一般来場者に最新技術を伝える場としても機能した 「スマートシティには正解がない」 開発事業本部徳光勇人主任。学生時代のプログラミングに関する経験や自身のコンピュータに関する知識を活かし , システム構築やロボット・モビリティ関連企業との業務をスムーズに調整。まちのスマートシティに関する事業推進に貢献 14 KAJIMA 202401

ープン地元の方々と迎えられたグランドオープン chapter 3 鹿島が「まち」を開く Interview ――――― 加藤篤史開発事業本部事業部長 「先端」と「文化」の境界を越えた交流を誘発し , 新たな価値創造を実現する日本初のスマートエアポートシティが発進。ここに至るまでの道のりやこれからの可能性について , 事業統括を担う加藤篤史事業部長が語る。 グランドオープンを迎えることができ , 感無量です。東京オリンピックの延期や新型コロナウイルス感染症の蔓延など ,2020 年 7 月の「先行オープン」 ( 第 I 期完成 ) 以降 , 羽田空港からインバウンドの取込みを前提としていた当初の運営が叶わず , 厳しい影響を受けました 。そうした状況下で , まちの運営を支え続けて下さったのは , それまで厳しい意見もいただいていた地元住民の方々でした。まちでの取組みやイベントをお知らせしているうちに顔を覚えてもらえ , 積極的に足を運んでいただく機会が増え , このまちも少しずつ地 元に受け入れられるようになっていきました。 加えて , 国土交通大臣や東京都知事 , まちの入居企業・団体の代表や空港関係者など , 数多くの皆様にグランドオープン式典へお越しいただき , 開業をともに祝い , 嬉しそうに声を掛けてもらったときには , 本当に感極まる思いでした 。コンセプトの醸成羽田みらい開発は鹿島が代表企業を務め , 計 9 社でコンソーシアムを組みましたが , 他の企業とは業務内容も文化も違い , 新しい気づきがたくさんありました。例えば日 本空港ビルデングさんからは , このまちでは , 空港内ではなかなかトライが難しい , 省力・効率化に向けた自動化やAI, ロボットなどの新たな技術を用いた社会実験を実施するのに活用できるのではと示唆いただきました。同社のBtoCのノウハウやアイデア , また空港運営だけではなく , アートや音楽を積極的に発信していこうという姿勢には非 常に影響を受け , 我々もいろいろなことにチャても幅広く事業を展開しています。 HICity レンジするようになりました。先端技術だけはグランドオープンを迎え , 今後 , まちの安 でなく , 様々な分野のアーティストや表現者 定的な運営を進めていくフェーズとなりまし の方々にもこのまちの取組みに参画してい た。このまちならではの取組みを今以上に ただけるようになったのはその好例です 。こ充実させ , 魅力的なまちを目指していきたい ういった取組みから , イノベーションの原点と考えています 。「羽田にあるまち」といえ である「思いがけない出会い」や「全ての人 ばHICity, という代表的なまちへ成長でき に , イノベーションを」といった , まちのコンセればと考えています 。 プトを醸成してきました 。 新たなチャレンジとチームワーク「“ 羽田にあるまち ” といえば , HICityは , 鹿島の中でもかなり特殊な HICity , という代表的な存在へ」 開発事業です。立地の特異性だけでなく , このまちにはライブホールを運営する Zepp ホールディングスさんや , 藤田医科大学さん など , 異なる分野の方々に入居いただいて おります。多様な皆さまとの関係性の構築 は , 日々新たな学びとチャレンジの連続でし た。 加えて , コンソーシアム企業ほか 8 社にま ち全体や各建物のコンセプトや事業計画を 共有するには , 設計や施工担当に任せる 加藤篤史事業部長。羽田みらい開発 SPC 統括責任者を兼務。地元住民から官公庁 , 関連企業に至るまで , 約 7 年にわ のではなく , 開発担当である我々も , それ たる関係構築が実を結んだ らを深く理解し , 伝えていく必要があります。グランドオープンに向けては , 当社の設計 , column 「まち」を写す 施工 , 開発の三者のよいチームワークで進 キービジュアル めることができ , 鹿島グループ各社や部門 「このまちで過ごす全ての人に, イノベーションを」。 もそれぞれ緊張感をもって取り組んできまし この HICityのコンセプトを表現したキービジュアルが作成された。「自分の知らない価値観や発想との思い た。まちづくりは , まだまだこれからが本番 がけない出会いによって , イノベーションという一瞬 の気づきは生まれるという考えから , 一瞬の出来事 ですが , 空港の隣に位置する新たなまちの に出会うための「過程」 , 出会うまで気づくことができ 誕生は , 国内 , そして国際的にも珍しく , 様々 ないイノベーションの「曖昧 さ」 , イノベーションの先に な可能性を秘めていると考えています 。 訪れる未来の「期待感」を表 した」とのこと 。 既存のロゴとは別に , 各 「羽田」にあるまちとして 種のコミュニケーションメ 当社は建設業のみならず , 不動産業とし ディアで用いられる。 HICityのキービジュアル NC