2022年の法務省発行の「犯罪白書」によると再犯者率は48・6%。この再犯者率とは検挙された者の中に、過去にも検挙などされた者がどの程度いるかを見る指標です。これは過去に犯罪歴のある人の半分近くが罪を犯して、また刑務所に戻っているということです。「そんなに多くの人が塀の中に戻るのか!」という声もよく聞きますが、半数の人は踏ん張って娑婆で生き抜いていると言えます。そんな中、私は「釈放」が決まった人たち向けの講義を塀の中で受け持っています。それは「釈放前指導導入教育」と呼ばれ、業界では「しゃくぜん教育」と言われています。私の願いは「二度と刑務所に戻らないこと」「二度と悲しむ人を作らないこと」の二つです。男子も女子も満期であれ、仮であれ、釈放日を前に、2週間から1か月間、社会復帰のための勉強をします。長い人だと十数年ぶりの娑婆への復帰ですので、実生活に必要な鉄道の自動改札、消費税率、スマートフォン、インターネット、マイナンバー、そして食品の価格などの環境が大きく変わっている情報を一気に伝えます。その中で私は「コミュニケーション能力アップ」という1時間の授業を毎月4コマ行っています。10 年と少し前、吉本興業在籍時、喧嘩の絶えないと聞く刑務所の講話で600人以上の受刑者を前に話しました。「喧嘩はいけません。男というもの、娑婆において男に惚れられ、尊敬される存在になってください。それを『オトコ』と言います。漢字の『漢』の一文字で『オトコ』と読みます」。そのせいでしょうか、その後、その施設では1年近く喧嘩がなくなったそうです。私は35 年にわたって吉本興業で「笑い」という形のない商品を作ってきました。私は受刑者を笑わせることなどはできませんが、「笑顔や笑い声が溢れる雑談」を中心に「娑婆で生き抜く力」を伝授します。科目は「自分自身を愛するために自分を知ろう」「コミュニケーションとは」「やわらか頭を作ろう」「巷溢れるハラスメントを知る」などです。そこで一番重要なことが「コミュニケーション」の力だと話します。「自分の思いを伝えること、相手の話すことが理解できるまで聞くこと。そんな言葉の話す・聞くのキャッチボールを上手に行いましょう」などと。そして彼らが実社会で生き抜くためには、娑婆の多くの人の理解と応援が必要であるということを皆さんにお伝えしておきたいところです。私は漫談家のように陽気な口調で、社会での復帰を期待し、「再犯者を作らない」という目的の講義を今月も続けています。28 KAJIMA 202402 たけなか・いさお謝罪マスター / 広報マスター / 著述家 1959 年大阪市生まれ。同志社大学大学院総合政策科学研究科修士課程修了、元吉本興業株式会社専務取締役。吉本興業では、「宣伝広報室」を設立。「マンスリーよしもと」初代編集長。タレント養成所「 NSC 吉本総合芸能学院」開校ほか制作、営業、劇場支配人、地域おこし、リスク・コンプライアンス委員などを務める。また沖縄映画「ナビィの恋」、香港映画「無問題」などの製作を担当。 2015 年退社後、謝罪関連から、広報、危機管理、コミュニケーションの専門家として多数執筆。また講演会やセミナーを通してビジネス人材の育成や危機管理、広報などに関するコンサルタント活動を行う。主な著書に『謝罪力』 ( 日経 BP 社 ) 、『広報視点』 ( 経済界 ) 、『最高の「共感力」』 ( 日本実業出版社 ) 、『吉本興業史』 ( 角川新書 ) 、『それでは釈放前教育を始めます ! 』 (KADOKAWA) 。社会福祉法人心愛会評議員、学校法人淑徳学園小鳩幼稚園理事。株式会社モダン・ボーイズ COO vol. 230