山中湖の小さな山荘で庭いじりをするのが唯一の趣味になりつつある。ほとんどが雑草とのイタチごっこに費やされるが、一二年前に植えた二〇株ほどのクリスマスローズの種を無造作に毎年繰り返し播いていたところ三〇〇〇株ほどが群生するようになった。四月から六月にかけて一斉に控えめな色とりどりの花をつけてくれるので、コロナ以前に開いていたクリスマスローズを見る会を今春から再開しようと計画している。 四、五〇人の友人や知人が来てくれる予定なのでその準備にとり掛かるつもりだったが、暮れから正月にかけて風邪をひいてしまい、松の内が明けてようやく始めることができた。とはいえ地面が凍結して庭仕事は無理なので、以前造った物置小屋をひと回り大きくする大工仕事から手掛けることにした。ツーバイフォーの材木とベニア板そしてネジで組み上げていたため、電動ドライバーを使えば容易に解体できた。幅八〇センチ、奥行き六〇センチ、高さ一八〇センチの小屋を、幅、奥行きとも二〇センチ増やす仕事である。 解体という作業を始めたために明らかとなったことがいくつかある。例えばネジの場合、骨格部分の結合にはネジ穴が四角の頑丈なネジを、ベニア板の固定には十字穴の細いネジを用いており、強度や板の厚さに応じてネジ穴や長さが異なる六種類ほどを前回は使い分けていた。しかし解体の過程ではネジ穴が四角か十字か、あるいは大きさの違いによってビットをその都度換える必要があり、ネジの種類を造作段階でもう少し限定しておけばよかったことに気づかされた。 しかも使用した部材のうち垂直材はそのまま使用することができたが、水平材は二〇センチ増にしたので半分しか再利用できなかった。次回は継ぎ手の一番簡単な相欠き程度は練習しておくことにしよう。 最も大きな問題は防水性の屋根材である。アスファルトを塗ったパネル状の屋根材なので、できるだけ再利用したかった。しかし、長さを合わせるために半分に切ったり三分の一切り落としたものもあり再利用できたのは八割強で、二割近くを廃棄しなければならなかった。 しかしながら、以上のように解体した部材全体の約八割以上を再利用することができたため、新しい建材だけでの造作よりも気は楽だった。新しい建材だけで造るとき、趣味のためなのでどこかに無駄遣いをしているような後ろめたさがあったが、ほとんどが再利用なのでその心配はなかった。これから新たに何かを造るときは、再利用のことを頭に描きながら造ることにしよう。34KAJIMA202403あおやぎ・まさのり 1944年大連生まれ。古代ローマ美術・考古学を専攻。東京大学文学部教授、国立西洋美術館館長、(独法)国立美術館理事長、文化庁長官などを務め、現在、東京大学名誉教授、山梨県立美術館館長、多摩美術大学理事長、奈良県立橿原考古学研究所所長、石川県立美術館館長、(公財)せたがや文化財団理事長、(公財)東京都歴史文化財団アーツカウンシル東京機構長他。50年にわたりイタリアの古代ローマの遺跡発掘に携わる。日本におけるポンペイ研究の第一人者。国内では、地中海学会賞(1978年)、毎日出版文化賞(1993年)、日本放送協会放送文化賞(2011年)など受賞の他、紫綬褒章(2006年)、瑞宝重光章(2017年)を受章。文化功労者(2021年)。著書に、『皇帝たちの都ローマ』、『ローマ帝国』、『文化立国論』、『興亡の世界史人類文明の黎明と暮れ方』他。vol.231提供:多摩美術大学