20KAJIMA202404丹沢山地の急峻な谷を越える国内最大級のアーチ橋新東名高速道路河内川橋工事新東名高速道路は,神奈川県海老名市を起点とし,静岡県を経由して愛知県豊田市へ至る約270kmの高速道路で,東名高速道路と並走する本線の全線開通は,東京・名古屋・大阪の三大都市圏を結ぶ新しい大動脈として大きな期待が寄せられている。未開通区間の新秦野IC∼新御殿場IC間には,本線最難関と言われる松田町∼山北町の工事区域が位置し,丹沢山地の急峻な谷を越える国内最大級のアーチ橋の建設が進む。大規模かつ高度な技術を駆使し,厳しい地形に立ち向かう現場の様子を追った。最後に残された最難関工区     新東名高速道路は,2012年の御殿場JCT∼浜松いなさJCT開通に始まり,現在,2027年度の全線開通を目指し,未開通区間約25kmの建設が急ピッチで進められている。 「(仮称)河内川橋が位置する当該工事区域は,急峻な山岳地形で,山中をカーブで進む東名高速道路より高い位置を直線的に道路が通ります。険しい地形により区域内の他工事ともに進捗に苦労し,開通時期が度々見直されてきたほどです」。そう説明するのは工事を取り仕切る三浦信幸総合所長だ。 (仮称)河内川橋は,河川からの高さ125m,アーチスパン220m,全橋長771mを誇る国内最大級の規模で,高低差の著しい地形へ対応するため,鋼・コンクリート複合構造のバランスドアーチ橋を採用している。上部工はコンクリート部材のアーチリブ,鋼部材の補剛桁と斜吊材,そして鉛直材からなり,鉛直材は部材高がおよそ10m以上を鋼部材としている。アーチ部の施工は,これら4部材でトラスを形成しながら張出し架設を行う「トラス張出し工法」を採用し,橋脚を中心に当工法を左右同時に進める高難度工事だ。 本体工事着手前から難題に直面した。各橋脚は全て,急峻な崖や斜面に位置し,施工場所へたどり着くことができない。まずは,アクセスルートの構築が必要だった。「インクラインや工事用トンネル,桟橋など,本体工事に必要なアクセスルートを約4年かけて構築しました。隣接しているP3,P4間には特に急な崖があり,往来が不可能で,目の前に見えている隣の橋脚に直接行くことができない。最初にたどり着いた施工場所はP3でしたが,P4はA2側からの迂回が必要で,最後にたどり着きました」(三浦総合所長)。見えない壁が立ちはだかっている感覚だったという。強固な組織づくりと意識改革    山中に点在し,同時進行する多種多様な工事を安全確実に進めるため,工事エリアを①A1・P1ヤード=他社施工の工事用道路,②P2ヤード=インクライン,③P3ヤード=工事用トンネル,④P4∼A2ヤード=桟橋,工事用リフトに,アクセスルートごとで4分割している。現場事務所と広域な現場の移動時間短縮のため,エリアごとにサテライトオフィスを設置し,現場と事務所がタイムリーに情報共有可能な体制を整える。「工事エリアによって,それぞれ構築物,作業内容,進捗状況が異なります。JV組織もエリア単位でグループ化しているため,ひとつの現場としてどう一体感を持たせるか常に意識しています」。広域な現場だからこそ,連帯感が重要だと強調するのは,現場を統括する田中誠所長。協力会社の現場パトロールによる担当外エリアの巡回や,所長・副所長が日替わりで4つのエリアごとに行われる朝礼に満遍なく出席するなど,所員と協力会社一人ひとりに現場全体を把握することを促す。またJV社員含め,若手社員が多いのもこの現場の特徴だ。「昼の打合わせでは,翌日の現場をしっかりイメージできてい【工事概要】新東名高速道路河内川橋工事場所:神奈川県足柄上郡山北町発注者:中日本高速道路規模:鋼・コンクリート複合バランスドアーチ橋2連(上り線771.0m,下り線692.0m) PRCポータルラーメン橋1連(下り線22.5m)橋脚13基 橋台6基 ほか工期:2016年8月∼2027年8月(約定)(横浜支店JV施工)三浦信幸総合所長田中誠所長御殿場線東名高速道路新東名高速道路河内川橋工事現場河内川山北町山北町小川町神奈川県静岡県photo:takuyaomuraphoto:takuyaomura

21KAJIMA202404るか,若手社員を含む担当者に細かく確認して,常に万全な準備と安全意識向上を促し,リスクに備えるための意識改革と組織づくりを心掛けています。年次に関係なく,自分が工事を仕切るぞという気持ちで取り組んで欲しい」と語る。当事者意識を強め補剛桁斜吊材鉛直材アーチリブる地道な指導の積み重ねが,大現場の強固な組織体制と安全に繋がっている。合理化施工を追求した長大アーチ橋 現在最盛期を迎えているアーチの張出し架設工事。橋脚とアーチ全般の計画から施工まで担当する柑本慎一郎工事課長代理は,これまで,現場や管理部門などでキャリアの大半を橋梁工事とともに歩んできた。それでも,これほど大規模で特殊性のある橋は初めてだという。「施工の合理化のため,多くの新工法を採り入れています。橋脚では,埋設型枠と帯鉄筋をプレファブユニット化することで,従来工法の約2倍の急速施工と,橋脚上での高所作業の削減による安全性の向上を実現しました」。アーチの張出し施工では,当初の設計に対し,1ブロックの施工長を最大6.5mに大型化し,ブロック数を23ブロックから16ブロックに削減することで,コンクリート打設やPC緊張,移動作業車の前進など,ブロックごとに実施する作業の日数を減らしている。 また,橋脚とアーチの結合部分であるスプリンギング部は,橋脚とアーチリブの鉄筋P2サテライトオフィス。4つの工事エリアごとに設置されている工事全景(2024年1月撮影)。このほか,表紙・目次にも写真掲載現場を引っ張るエネルギッシュな若手社員たちphoto:takuyaomura

22KAJIMA202404の干渉や,大規模なブラケット支保工※を解消するために鋼殻コンクリート複合構造を採用している。コンクリート構造のアーチリブと鋼構造の鉛直材や補剛桁など,工種の異なる工事が混在するため,作業平準化のための工程作りにも工夫が必要だという。「見たことも経験したこともないような部材や工法が数多くあります。現場一丸で施工方法を検討していくのは,苦労もありますが大きな刺激になっています」。恐れずに立ち向かっていく姿勢を常に学んでいるという。設計と施工の連携で待ち時間短縮へ 複合構造では,設計検討も重要だ。設計検討を主業務とし,アーチリブや斜吊材の施工管理も担当する玉野慶吾工事課長代理は「複合構造は事例が少なく,現場独自の部材や工法も多いため,全て一から検討が必要です」と説明する。構造解析では,施工手順を一つひとつ確認し,その手順に沿って部材を追加する解析を実施していく。さらに当現場は大規模かつ部材数も多いため,解析上の施工ステップは200を超える。実際の施工も解析上のステップに沿って進めるが,設計時には想定していなかった待ち時間が生じるケースもあり,工程に影響を及ぼしかねない。これを解消するために施工ステップの変更可否を都度検討,確認し,調整することが円滑な施工に繋がるという。「鉛直材上に設置する支承には,アーチの出来形に応じて高さを調整するプレート(鋼板)が必要で,厚板を削って製作します。当初,鉛直材の架設後の高さ計測結果を基に調整プレートを製作,支承とともに設置し,その上に補剛桁を架設する手順としていましたが,調整プレー玉野慶吾工事課長代理コンクリート打設コンクリート打設軸方向鉄筋の挿入(接合・結束ほか)ユニット設置(4ユニット)コンクリート打設完了(前ロット)︵4ユニット分︶P3橋脚と左右に張り出したアーチ(2023年11月撮影)埋設型枠・帯鉄筋プレファブユニット化工法施工STEP図photo:takuyaomuraphoto:takuyaomura柑本慎一郎工事課長代理photo:takuyaomura※橋脚側面に取り付ける支保工

 23KAJIMA202404仮設斜吊材。橋梁完成時には撤去されるトの製作に想定以上の時間を要する結果となったため,調整プレート分の隙間を空け支承を仮置きし,補剛桁を架設して作業を進捗させ,調整プレートを後から挿入する手順を検討し,実現しました。これにより,工場での製作期間を待たずに次工程へ進むことができました」。設計を理解している人,施工を理解している人が連携を取れているからこそできた判断だったという。 現在は,山場であるアーチ部分に加え,側径間の3部材接合の準備に取り掛かっている。「コンクリート構造のアーチリブと鋼構造の補剛桁が,コンクリート構造のPC箱桁と接合されます。3部材接合は特殊な 現在建設中の新東名高速道路新秦野IC∼新御殿場IC間は,この区間の開通により新東名高速道路が首都圏から愛知県まで繋がり,東名高速道路とのダブルネットワーク化が達成されることで,交通の分散による渋滞緩和,渋滞中事故の減少が期待されています。また,災害時のライフラインとしても非常に重要な役割が期待されています。 (仮称)河内川橋はアーチ支間が日本最大級のバランスドアーチ構造となっており,その優れた景観から,橋梁が完成すれば周辺地域の代表的なランドマークになることが期待されます。施工中もその規模,迫力から非常に注目度が高く,多数の現場見学会の依頼に鹿島JVさんには,多大なご協力をいただいているところです。 施工においては,過去事例の少ない大規模なバランスドアーチ橋であり,また張出し架設時に使用した斜吊材の一部を本設部材として設計し,かつアーチリブ張出し施工と鉛直材・鋼補剛桁の架設を並行して施工するなど,非常に特殊かつ複雑な構造・施工手順となっています。各施工ステップにおける鉛直材の傾きなどの出来形を踏まえた調整や検討が必要となりますが,これらの事項に受発注者間で毎回議Messageスプリンギング部(P3)(2023年1月撮影)。鋼殻とコンクリートの合成構造を採用している全幅10.700m2.7m支承支承1.0m26.9m3.5m6.0m鉛直材上の支承構築。赤い部分が支承支承設置の様子(2023年2月撮影)。赤枠で囲った部分が,調整プレート論し,方針を定めていく過程を,事業者側の一人として悩ましくも面白いところだと日々感じています。 アーチリブ張出し施工は概ね中盤を超え,今後は閉合部の施工に向けた多くの検討が控えています。引き続き鹿島JVさんと施工面,安全面に関する前向きな議論を重ねながら,工事関係者全員が誇れる構造物を完成させていきたいと思います。補剛桁とPC箱桁が接合される箇所鋼部材とコンクリート部材の接合対象部位対象部位コンクリート部材同士の接合アーチリブとPC箱桁が接合される箇所中日本高速道路東京支社秦野工事事務所山北工事区 工事長秋あきやま山渉あゆみ氏photo:takuyaomuraphoto:takuyaomura構造で,現在施工試験の準備段階に入っています。夏以降に行われる閉合に向け,綿密に計画を立て,万全の準備で臨んでいきます」と玉野課長代理は意気込みを語る。 新東名高速道路全線開通を目指し,国内最大級のアーチ橋に期待が膨らむ。側径間3部材接合