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住友生命名古屋ビル第3期改修工事
居ながらリニューアル―人知れず「深夜・休日」大作戦

JRセントラルタワーズがオープンし,様変わりした名古屋駅。その駅前の一画に,
名古屋の超高層ビルの先駆けとなった,住友生命名古屋ビルがある。
名古屋の「顔」として機能し続けていくため,リニューアルが着々と進んでいる。

地図 住友生命名古屋ビル第3期改修工事
工事概要
場所:名古屋市中村区
発注者:住友生命
監修:日建設計
設計・監理:住友商事,当社名古屋支店建築設計部
施工:住友商事,当社名古屋支店
建物規模:S造 地下3階,地上26階 延べ49,489m2
改修内容:1階ホール改修,空調機新設,
受変電設備更新ほか
工期:2000年11月〜2003年3月(名古屋支店施工)

名古屋の「顔」をリニューアル
 東京から新幹線に乗り,名古屋駅に近づくと右手にスカイブルーの超高層ビルが見えてくる。このビルは当社が,28年前の1974年に設計・施工(日建設計監修)で完成させた住友生命名古屋ビルだ。すっきりとしたプロポーションのデザインは,新しささえ感ずる。
 しかし,建物は年月とともに,劣化が進み,諸機能が低下してくる。当ビルもリニューアル適齢期を迎え,1996年の第1期工事の各階便所・給湯室の改修をはじめ,第2期工事と計画的に行ってきた。今回の第3期改修工事は,ほぼ全館にわたる基準階22フロアの個別空調システムの新設をはじめ,設備機能の向上を図る工事がメインだ。

工期は「60時間」
 当ビルには通信機器メーカーなど約80社のテナントが入居しており,1日に約3,000人の来館者がある。その業務や利用に不自由を感じさせず,ビルオーナーも満足させる,いわゆる「居ながらリニューアル」で施工している。そのため,テナント内の空調工事は,金曜日の夜から月曜日の早朝にかけての集中作業となる。つまり,作業時間は60時間しかない。
 建築担当の粟津さんは,「テナントさんの工事日の執務状況によっては,予定時刻に着手できない場合があります。そのときばかりは焦りますね。どんな理由があるにせよ,テナントの方が月曜日の朝出勤されるまでに,工事を完了させなければなりませんから」と話す。新築工事の工程が日単位なら,リニューアル工事のそれは時間・分単位だ。

基準階(3〜24F)テナント内更新工程サイクル
基準階(3〜24F)テナント内更新工程サイクル
OAの電源の位置を確認する廣田さん 実作業直前に再度,打合せをする真野副所長と粟津さん
OAの電源の位置を確認する廣田さん 実作業直前に再度,打合せをする真野副所長と粟津さん

備えあれば憂いなし
 工事計画の悪さや事故は,即,テナントの方の業務に支障を来す。手戻りは許されない。時間がないからこそ,緻密な準備と計画が必要不可欠となる。
 このため,当現場では工事日の1ヶ月半前から,準備を始める。仮設計画など施工計画の基本となるのが,テナント各社の現状調査だ。天井を解体する足場計画を立てるため,備品関係の配置図を作成しなければならない。フロアの使用状況は様々で,天井を解体して作業する位置に,間仕切が設置されている場合もある。机の寸法や間仕切,OA電源の位置など,社員自らこと細かに,ひとつひとつ測っていく。また,竣工後30年近く経っているため天井内の現状も調査する。設計図だけに頼らず,実際に目で見て確認する。
 さらに,独自の調査だけでなく,テナントやビル管理会社からもヒヤリングを行う。その上で,全ての工事関係者出席の週例会議で協議を重ね,テナント毎の最適な施工方法を決定する。この地道な努力の結果,工事は昨年4月から1フロアの半分ずつ,毎週連続して行われているが,現在まで引渡しの時刻に遅れたことや,事故は一度もない。

リニューアル工事はプラス志向で
 当工事はテナントの方のいない週末に着工し完了する。また,天井内の設備工事の場合,新築工事の竣工と違い,その成果が人の目に触れることはない。それが「居ながらリニューアル」とも言えるが,もの作りに携わる者にとって「見てもらいたい」という思いはある。設備担当の廣田さんは,「その代わり,ビルの機能停止を回避するなど繊細が要求される工事を,それを周りに感じさせず完成させる達成感があります」と明るく話す。

 取材を終え事務所を出ようとした時,「リニューアル心得十ヵ条」のポスターが目に留まった。実践されている現場だった。

interview
高木郁男氏 矢田正春
スミセイビルマネージメント東海支店 所長
高木郁男
名古屋支店 住友生命名古屋ビル改修工事(事)所長
矢田正春
 1996年から行っているリニューアルは,テナント各社のご要望にお応えするものですが,一方,新幹線からもよく見える,名古屋の「顔」である当ビルを守っていく我々の使命でもあります。リニューアル工事は監修者・設計者・施工者との共同作業だと捉えています。テナント各社の立場を十分考慮し,事前に,工事に対してご理解をいただくことも大切ですが,工事終了後のフォローは,それ以上に重要です。協力会社さんに至るまで,我々と同じ認識を持って徹底して頂き,“さすが鹿島さん”ですね。  竣工まで仮囲いの中で,比較的,施工者側のペースで作業できる新築工事と違い,リニューアル工事はテナントさんやビルを利用される様々なお客様と直接向き合い,ご理解をいただき,工事を進めなければいけません。施工を担当させていただく立場で,失礼な言い方になりますが,私を含めて非常によい社員教育の場になります。ただ,正月,盆休み,ゴールデンウィークも工事があり,所員には苦労をかけています。

リニューアル工事取組み心得十ヵ条
第1条 「全ての居住者・利用者が顧客」との意識改革をせよ
第2条 広義なものの捉え方、起こりうる事態を予測できる先見性を持て
第3条 先ず計画、先手必勝によるリスク回避で「顧客の信頼」を得よ
第4条 施主・設計・施工が一体化したチームワークで臨め
第5条 スタッフ全員が同一の意識レベルに合せよ
第6条 連続・継続性が大事、引継ぎは慎重かつ丁寧に行え
第7条 周到な計画と細心の注意で顧客の理解を得る努力をせよ
第8条 小さいことでも大きく捉え、事前に手を打つ姿勢であれ
第9条 毎日の木目細かい報告・連絡・相談・確認を積み重ねよ
第10条 スタッフ全員が「鹿島の顔」であるという認識を持て

建築技術本部リニューアル室 発行