特集:これからの建築生産システム

Chapter4 次世代の建築生産を担うプロダクションセンターのこれから

プロダクションセンターは,昨年4月に設計エンジニアリング本部,建築技術本部,東京支店,関連会社に籍を置く社員37名でスタートした。
現在では,システムの運用も軌道に乗り,社員は精力的に業務をこなしている。
センター長である高木氏にお話を伺った。

高木 学 プロダクションセンター センター長
高木 学

Q プロダクションセンターの現状についてお聞かせください。
A プロダクションセンターは,この4月に設立後1年が経過しました。新しいシステムも順調に稼動しており,現在まで30件のプロジェクトが進行しています。そのうち18件は施工の段階に入っており,12件はプロダクションセンターでDB-CADによる入力を行っています。
 設立当初は,当社の建築設計エンジニアリング本部による設計で,東京支店管轄の物件が対象でした。最近では他支店での工事も扱っています。適用する物件の用途は,事務所,集合住宅,学校,倉庫商業施設など多岐にわたり,規模も1,000m2未満の物件から50,000m2を超える大型物件まで,バラエティに富んでいます。
 現在は,取り扱い件数を伸ばしながら実際の効果を確認しています。DB-CADと施工連携システムの改良・機能拡張を行い,システムの運用方法の改善や習熟度を向上させています。
 ところで,大手各社などでも,それぞれ独自のシステムを構築しているようです。しかし,各社とも設計段階で施工における情報を十分に取り込み,設計内容を確定させ,正確な情報を下流に迅速に伝えるという考え方では共通しています。
 その中でも,当社の優れたところは,見積前に躯体や設備などの積算数量が把握できるということです。設計段階において,3次元の建物情報をDB-CADにより入力するだけで数量の算出まで行えるのは当社のシステムだけです。従来,積算数量の算出は,主に積算事務所や協力会社が行っていました。これからは,見積前に正確な数量を知ることができますので,資機材の調達などの面でも素晴らしい効果を発揮することでしょう。
Q システムを導入する際に重要なことは何でしょうか?
A 何よりもシステムについての正しい理解でしょう。これが普及の第一歩にもつながります。それには,まず社員の方々に「できること」「できないこと」を知っていただかなければなりません。何らかのシステムができると,利点ばかりが先に取りざたされますが,いったん不便な部分が分かると,システムそのものまで否定するのは良くありません。
 もちろん,システム自体は完璧なものを目指しますが,開発ばかりに目が行き過ぎると,本来の目的を見失ってしまいます。システムを80%完成させるまでに費やした時間やコストと,それからの数パーセントを向上させるのにかかるものとを比較して,後者がいかに大きいことか…。その辺を見極め,柔軟さを持ったシステム運用が重要と思われます。
 このような理由により,システムの中核となるDB-CADは,運用上メリットが少ないと思われるところについて,一部2次元CADによる運用をしています。これだけ見ると非効率にも思えますが,実質的な運用を含めてトータルで考えると効率的なのです。
 また,工場や研究所などでは,施工が始まっている段階においても設計変更が頻繁に生じる場合があります。業種によっては,目まぐるしく変わる市場の変化に迅速に適応するため,生産ラインは常に最適なものに保たなければならないからです。この様な物件で適用するためには,極力確定度を見積時点で上げるように設計者の協力を得て,システムの効果を最大限発揮できる方法で対応していきます。
DB-CADへの入力状況 新しいシステムで建設が予定されている事務所ビル
DB-CADへの入力状況
新しいシステムで建設が予定されている事務所ビル

Q これからの展望についてお聞かせください。
A 今後は,システムの普及を図ると同時に,導入による効果についても探っていきます。費用対効果についても,長期的な視点でも測定しなければなりません。単に施工図作成のための外注費が無くなったことによる効果だけでは,このシステムを理解したとは言えません。プロダクションセンターの業務だけを捉えると,人件費など手間がかかっている部分もあります。従来に比べマン・パワーのかかり具合が変わってきているのです。効果として数値化しにくいものをどう評価していくかも非常に大切です。
 また,適用物件の範囲についての再検討を行います。現在は,工事の計画時に施工段階での設計変更の頻度やスペックの確定状況,設計工程などの要素を勘案して決めています。今後は支店設計部による工事の扱いや,当社の建築工事の約半数を占める他社設計の工事,増加が一層見込まれるリニューアル工事への適用も考える必要があるでしょう。
 さらには,社内間での合理化・効率化にとどまらず,協力会社などとのデータ連携により,お互いにメリットが出る仕組みづくりができないかと考えています。現在でも,鉄骨工事については,製作図を作成する際にデータ活用を行い,設備については,施工図作成のデータ転用を推進する体制を整えつつあります。
 最後に,忘れてはならないことは,発注者の理解を得ることです。従来のやり方は,ある意味,発注者とゼネコンとの間でも曖昧な部分がありました。それを今後はきっちりと透明性を持って決めていくことが,両者にとっても必要であることを理解していただかなければなりません。それには,システムが社内や業界だけのものではなく,発注者の側にとっても意義あるものにしなければなりません。このシステムを通じて,当社だけでなく,業界レベルでの変革や意識改革にもつながることを願っています。
プロダクションセンター
プロダクションセンター

KDNSの中で連携する様々なシステム

KDNSの中で連携する様々なシステム
 建築生産情報統合システムは,当社が推進するKDNSの中で様々なシステムと連携し,これらは一体となってより効果を発揮する。あたかも川上から川下に流れるように建築生産は進められていく。
 具体的には,共通データベースに蓄積された積算数量データの仕様や数量などは,建築生産情報統合システムを離れ,支店の「見積書作成システム」に取り込まれる。そして「実行予算作成システム」に引き継がれ,工事の進捗状況にあわせた損益管理が「損益管理システム」で行われる。それと平行して,「EC調達システム」による資材などの発注が実施される。
 EC調達システムは,建設業界の標準であるCI-NETに準拠しており,協力会社との見積書の依頼と回答,注文書,請求書の交換を電子的に行うものである。協力会社は,今年7月から当社をはじめとする大手4社が共同で開始するアプリケーション・サービス・プロバイダー(ASP)方式を利用することで,専用ソフトを個別に用意する必要がなく,導入コストが極力抑えられる。運用は当社も出資しており,建設資機材などのマーケットプレイス事業の展開を目的に昨年設立されたコンストラクション・イーシー・ドットコム(CEC)に委託される。




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|Chapter2 建築生産情報統合システムのしくみ
|Chapter3 適用事例にみる担当者の声
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