特集:大阪・都市再生最前線――水都はいま

水都・大阪の象徴的な風景のひとつ,大川(旧淀川)沿いの春 
16世紀後半,豊臣秀吉は貿易港「難波津(なにわづ)」を望む高台に大阪城を築いた。
城下に水路を巡らし,水運を活かした街の整備を行う。それがいまも大阪の都市基盤の根幹をなしている。
その水都・大阪で都市再生の動きが活発だ。高層化する建物,鉄道を中心とするインフラの更新。
そんな様子が街のあちこちで見受けられる。
新しい街のステージへ――。今月の特集では都心居住,賑わい創出,水辺の再生・・・・・・など,さまざまなキーワードから,変わりゆく大阪の最前線を報告する。

水都の形成
 大阪の街は琵琶湖に源を発する淀川と,奈良盆地の水を集めて平野に流れこむ大和川が合流し,瀬戸内海に注ぐ地点に位置している。これらの川は大阪と奈良・京都を結ぶ交通・物流の大動脈であった。秀吉入阪以降,縦横に掘り抜かれた水路は,商都大阪に欠かせない舟運の道であると同時に,生活を支援する水の道でもあった。大阪が「水都」と呼ばれるゆえんである。
 大川,淀川,安治川,尻無川などの河川,そしてそれらが注ぎ込む大阪湾・・・・・・,現在でも大阪の街と水辺は密接な関係にある。生活の舞台としての水辺を背景に,賑わいの創出や都心居住を目的にした都市再生の動きが,いま活発に起こっている。

大阪圏ネットワークと都市再生
 2001年5月,内閣に都市再生本部が設置されて以降,規制緩和などにより民間の資金やノウハウを振り向け,都市の再生を進める都市再生特別措置法が施行され,都市再生緊急整備地域の指定が行われた。大阪圏でも「水の都大阪の再生」など14の都市再生プロジェクトや,12地域で都市再生緊急整備地域の指定を受け,現在も取組みが進む。
 また1994年に開港した関西国際空港(関空)は,多くの国際便が就航し,24時間の運用が可能な空港だ。現在第2期事業によって2本目の滑走路をもつ,世界水準の空港へ進化しようとしている。これも国際都市・大阪の役割を飛躍させる要因のひとつになっている。西日本の中心としての,大阪のネットワーク形成が都市再生事業と相まって,いままさに築かれつつある。

 下の地図では,おもな大阪の都市再生の拠点を示す。以下で注目のプロジェクトを紹介する。

大阪市内MAP

大阪が動く――水都大阪のグランドデザインとは
荻原征三郎
(産経新聞大阪本社・論説委員)
おぎわら・せいざぶろう
1941年生まれ,京都大学文学部卒業後,
1965年産経新聞社に入社。
経済部,編集局副編集長などを経て
1997年より論説委員。
荻原征三郎(産経新聞大阪本社・論説委員)
関西のコーディネート役として
 バブルがはじけた1990年頃から東京への一極集中が長くつづき,かなりのエネルギーが投下されたと感じます。それに自動車産業が活況の名古屋地区も元気です。それ以外の地域はみな同じような状態で,経済格差があったのは事実だと思います。そんななかで,そろそろ関西,大阪の出番ですよ,という機運があるのではないでしょうか。
 もういい古されたことですけれど,関西の特徴とは,京都,奈良,神戸といった個性ある都市が鉄道の30分単位でつながっているのが魅力です。だから,大阪だけがどうするというよりも関西がどうなるべきか,という議論をすべきでしょう。
 歴史あるこれらの都市――先端医学やアパレルで躍進する神戸,IT関連でユニークな企業が育ってきている京都,それに最近とても元気な滋賀県・・・・・・と比べて,ではいったい大阪はなんやねん,というと“商業の街”からなかなか脱却できていないと思うのです。繊維産業から発達した商社,あるいは数々の技術が集積する東大阪に支えられた家電メーカーなどが変容してきているなかで,大阪らしさが薄れてきているのは間違いありません。ですから大阪のエリアだけでなく周辺を含めたグランドデザインが,関西のコーディネート役である大阪に必要になってきているのだと思います。
 
水辺をどう活かすか
 人間と水というのは非常に馴染み深い関係があると思っています。ですから,大阪にせっかくある水辺というのを活かさないといけない。そんなことをいろいろな機会で話しています。大阪城に近いOBP(大阪ビジネスパーク)の開発も成功例と評価しますが,いまは中之島に注目しています。
 堂島川と土佐堀川に挟まれる中之島の再開発事業が本格的に動き始めています。大阪の中心地で,これだけの水辺があるところです。これまでは防災上,堤防を高くつくらないといけない,ということもありましたが,この機会に水辺をどうするかということをぜひ考えて欲しい。いま工事中の京阪・中之島新線でも,完工後の復元工事ではこの景観を活かしたデザインをして欲しいです。
 建築家・安藤忠雄さんは,ここの堤に市民の寄付で川沿い7kmを中心に桜の植樹を行い,「平成の通り抜け」をつくろうと呼びかけています。またドイツ・デュッセルドルフの街を調べたことがありますが,ライン川沿岸の再開発では,美しいデザインのビルがランドマークとなり,徹底した都市計画でゾーニングを行ったりしている。大胆なアイディアを提案,しかもじっくりと時間をかけながら,親水性のある街づくりをしています。
 この場所でいえば,OBPから中之島,そして川をずっと下っていくと明治時代から栄えた川口地区にたどり着きます。そこは明治初期の交易の場として拓かれ,商館や税関などもあったところです。大阪湾に向かったこんな場所を活かして水際の再開発をするのも面白いのではと,私は勝手に思っています。
 
インフラから街づくりへ
 やはり,関西のなかで大阪の吸引力は最も強いわけで,その視点からみると交通アクセスの役割はとても大きい。24時間いつでも発着できる関西国際空港の波及効果はもちろんのこと,たとえばいま行っている阪神・西大阪延伸線は長年望まれていたもので,近鉄の生駒から難波と神戸が一本でつながる。これは非常に便利になります。ほかにも大阪・キタの繁華街を横切るJR東西線や,大阪府北部で開発中の「彩都」という新しい街へつながるモノレール延伸など,じわりじわりとインフラが更新されています。
 こうしたインフラの整備は職住近接につながって,時間はかかりますがやがて新しい街ができあがっていく。アクセスが良くなるということは,人間でいえば血のめぐりが良くなるようなもので,人やモノの交流が今よりもずっと盛んになり,その場所が大阪を介在するということになっていくでしょう。
 大阪はもともと肩肘張らない暮らしや,親しみやすく人なつこさをもった街です。これが“大阪らしさ”だし,難しいことではありますが,歴史の深み,文化の蓄積や人のつながり,そんな大阪の良さを活かした街づくりができていけばいいと思っています。
2本の川に挟まれる中州,中之島の再開発が進んでいる
大阪城の隣,緑と水の豊かなビジネスゾーンを築いたOBP(→大阪市内MAP(3))では当社も多くの施工を手がけてきた。中央のシンメトリーな建物がホテルとオフィスの複合ビル「マルイトOBPビル」

歴史の継承と更新・中之島
 中之島は2本の川に挟まれた東西約3kmにわたる中州である。かつては諸藩の蔵屋敷が建ち並んだこのエリアには市役所,日本銀行,中央公会堂,新聞社など古くから文化・経済の重要な拠点として,水の都を象徴する建物が並ぶ。
 ここで現在,再開発がつぎつぎと行われている。中央地区で中之島三井ビルディングが2002年8月,隣のグランスイート中之島タワーが去年3月に相次いで竣工した。中之島三井ビルディングのデザインアーキテクトは,すぐ近くのステンレスパイプの造形で知られる国立国際美術館と同じシーザー・ペリ・アソシエーツである。今後も,大学病院跡地の再開発など大規模なプロジェクトが予定されている。
 こうしたプロジェクトをまさに底辺で支えるインフラ,中之島新線が現在工事中で,京阪天満橋駅と玉江橋を結ぶ約3kmの地下新線となる。当社工区は川のすぐ傍で深い掘削を行う難しい工事だが,日本銀行が目の前の,非常に往来の激しいエリアで,衆目を集めている。「大阪の顔」としての中之島――。その歴史を継承しつつ,日々更新する様子から目が離せない。
27階建てのグランスイート中之島タワー
中之島三井ビルディング。縦方向のラインを基調とした旧建物のデザインを継承しつつ,ガラスのカーテンウォールで開放性を表現した

都心回帰へ クロスタワー大阪ベイ
 大阪港に近いベイエリア,弁天町に建設中のクロスタワー大阪ベイは,高さ約200m,54階建て,と分譲マンションとしては日本一の高さとなる。現在,8月の竣工をひかえて工事が進んでいる。JR大阪環状線と地下鉄中央線がクロスする弁天町駅に直結,主要なビジネスエリアから5km圏にありながら,海を望むことのできるロケーションが魅力である。ファッションデザイナー,アニエス・ベーがおもな共有施設をデザインし,棟内にスカイラウンジや多彩なコミュニティ施設が設けられている。また,365日オープンする診療所と介護サービスを備えた高齢者安心住宅(監修:春山満氏)や商業施設も併設されるなど,すべての人々が快適に暮らせる都心永住ライフを演出する。
 クロスタワー大阪ベイの建設には,当社の特許工法である「スーパーRCフレーム構法」を採用。超高層建築でありながら,室内の柱・梁の出が少なく,将来のリフォームに対応した自由度をもたせている。
200m,54階建ての超高層マンションの誕生間近。海を望むクロスタワー大阪ベイ
完成予想イメージ。衣食住遊がそろうOAK200(大阪リゾートシティ)が隣接する
工事概要
(仮称)弁天1丁目複合施設建設工事
発注者:オリックス・リアルエステート,
三井不動産,阪急不動産
設計:昭和設計他(意匠・設備),
当社建築設計本部,関西支店建築設計部(構造)
工期:2003年10月〜2006年8月
(関西支店施工)

三都を結ぶ結節点(ノード)として・・・・・・交通インフラネットワーク  
 前述の中之島新線をはじめ,大阪都心部を中心として,鉄道の新線・延伸を行う工事が盛んに行われている。
 たとえば,近鉄難波駅〜阪神西九条駅を結ぶ3.4kmの西大阪延伸線。この路線が開通すると,近鉄と阪神の両私鉄が相互直通運転を行うため,奈良と神戸が乗り換えなしで行き来できることになる。利便性への効果はとても大きいと見られている。当社工区の工事では,阪神高速道路の直下で行われているため,土留壁をつくる際に本工事用に開発した低空頭SMW工法を用いている。
 また,大阪市営地下鉄8号線は東淀川区井高野〜東成区今里を結ぶ12kmの路線。大阪は地図で見るとわかるように,現在JR,地下鉄,私鉄のネットワークは都心から放射状に伸びている。これらを外縁部で接続するのが8号線の役割である。都心部の混雑緩和が期待される。
 さらにはJR新大阪駅から久宝寺駅にいたる東部地域を南北に貫くのが大阪外環状線である。これもまた地下鉄・私鉄のラインを串刺すように連絡させる路線となり,広域なネットワークを形成する。大阪の通勤圏は神戸,奈良あるいは京都までおよんでいるが,こうしたインフラの建設によって,大阪が都市と都市の結節点としてより機能が強化されていくこととなる。
大阪市を中心とした交通インフラネットワークと新設・延伸路線(一部,駅名は仮称)
第4工区大江橋付近の様子。左は日本銀行大阪支店
工事概要
中之島新線建設工事
のうち土木工事(第4工区)
発注者:中之島高速鉄道
施工管理:京阪電気鉄道
工期:2003年3月〜2009年3月
(関西支店JV施工)
西大阪延伸線工事。高速道路直下,都市部での厳しい条件下の工事で用いた低空頭SMW
西大阪延伸線建設工事第4工区
発注者:西大阪高速鉄道
施工管理:阪神電気鉄道
工期:2003年6月〜2009年3月
(関西支店JV施工)
地下鉄8号線第5工区シールド部。関目5丁目交差点の地下を半径102mの急曲線でカーブする
大阪市高速電気軌道第8号線
建設工事第5工区
発注者:大阪市交通局
施工管理:大阪市交通局
工期:2000年3月〜2006年3月
(関西支店JV施工)
大阪外環状線。単線だった貨物線を複線電化する工事が行われている
大阪外環状線永和地区
高架橋新設他工事
発注者:西日本旅客鉄道
(大阪外環状鉄道より委託)
施工管理:西日本旅客鉄道
工期:1999年6月〜2006年10月
(関西支店施工)
中枢をになう先進都市・キタ
 JR,阪急,阪神,市営地下鉄の各線のターミナルを中心としたエリア,「キタ」はすでに大きなビルが建ち並ぶ大阪の玄関口である。さまざまな開発が進んでいるが,デパートや駅舎の更新など,まだまだ発展をつづける注目のエリアである。なかでも現在,関西最後の一等地とよばれる24haの再開発「大阪駅北プロジェクト(梅田北ヤード再開発)」が大きな期待を集めており,2011年春の街びらきに向けた動きが進んでいる。
 西梅田は高級感ある商業文化エリアとして,各ターミナルに隣接して位置し,ブランドショップの旗艦店やホテルなどが集まる。ここに,大阪サンケイビルと隣接の島津ビルの建替えによる「西梅田プロジェクト」が当社施工で進行中である。ファサードエンジニアリングを駆使したデザインで知られるドイツのクリストフ・インゲンホーフェン氏をデザインアーキテクトとして,商業・ホール・オフィスの複合施設が2008年の竣工をめざしつくられている。
 ガラスのファサードの透明性と,自然換気による環境配慮の設計が提案されており,洗練されたデザインで,このエリアに新風を吹き込むだろう。
ターミナルを中心として高層ビルが集まる「キタ」。中央に貨物操車場である梅田北ヤード跡地,その左には当社が施工した北梅田の新しいランドマーク「ヨドバシ梅田」が見える
西梅田プロジェクト完成イメージ。アッパーエリア西梅田の新しい顔となる
工事概要
西梅田プロジェクト
発注者:サンケイビル・島津商会
設計監理:三菱地所設計
ホール設計協力:当社建築設計本部
デザインアーキテクト:クリストフ・インゲンホーフェン
工期:2005年8月〜2008年7月
(関西支店施工)
賑わいと憩いの街・ミナミ
 「キタ」とならび大阪の顔である難波・湊町地区は「ミナミ」と呼ばれる活気溢れるエリアで,古くは唐の都・長安へと旅立つ湊(みなと),難波津に地名の由来をもつ関空への玄関,交通の結節点である。
 湊町地区では旧国鉄貨物ヤードの跡地約17.5haを利用した,複合的なまちづくりが行われている。それが「ルネッサなんば」である。地区は4つのゾーンに分かれ,それぞれの機能が重奏し,賑わいと職住近接の都市をつくりあげている。
 〈ウォーターフロントゾーン〉に2002年にオープンしている湊町リバープレイスは,大規模ホール・なんばHatch(ハッチ)を核とし,ルネッサなんばのランドマークとしてすでに認知されている。〈ニューターミナルゾーン〉では関空と直結した複合施設OCAT(大阪シティエアターミナル)が今年オープン10周年を迎え,いまはそのお祝いムードで華やかだ。
 〈ニューシティゾーン〉には産経新聞大阪本社などが入る難波サンケイビルが昨年7月に完成。その後もローレルタワー難波(39階),ルネッサなんばタワー(38階)と当社施工超高層マンションが相次いで完成し,さらに今後も家具のショールームと結婚式場の複合施設などの竣工がひかえている。これらの建物の間につくられた中央広場は,緑の豊かなアメニティ空間であり,都市居住ライフの憩いの場を提供している。
 駆け足で巡ってきたプロジェクトの数々。これからもさらなる発展から目が離せない。桜から新緑の季節を迎えるいま,水都の賑わいとともに,大阪の都市再生の勢いを肌で感じてみてはいかがだろうか――。
TSUKUBA発――科学のまちから
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