BIMソフトでつくられる立体的な空間イメージは,顧客や設計者と計画の共有を容易にした。
東京・駿河台で工事が進む日本大学新病院の現場では,デジタルモックアップを用いて病室のインテリア検討を行った。
入念な計画が求められる場でBIMはどのように活用されたのか。
新病院開設準備室の石橋慶一特命課長補佐と増田健一氏に話を聞いた。
仕上がりのイメージを事前に確認
今回の新病棟の建設では,現場からの提案で,病室インテリアをモデルルームで検討できました。BIMから生成されるデジタルモックアップは,この方向性を共有するためのツールとして提供されたものです。
検討の対象となったのは,個室(1床室)と4名用の部屋(4床室)です。患者様にできるかぎり安らいだ気持ちで過ごしていただけるよう,新しい病室のインテリアにはホテルの客室のような穏和な雰囲気を求めました。モデルルームで仕上がりを確認する前に空間のイメージを共有できたことは,とても参考になりました。
一方で,病室を計画する場合,壁の色や家具のデザインなどへの配慮ももちろん大切なのですが,それ以上にベッドや設備と部屋の関係性が重要になります。病室は患者様やそのご家族が過ごす場所であると同時に,治療や看護にあたるスタッフが日々従事する場所でもあるためです。そこには機能性も強く求められます。
医療現場の最前線が求める機能のイメージ
デジタルモックアップでの検討段階では,モデル図のデータを支給してもらい,当院看護部のスタッフにもDVDで配って意見をもらいました。そこではやはり,動線や設備の配置に対する疑問,リクエストが多く寄せられました。たとえば,壁とベッドの間隔は通行に支障がないかとか,洗面設備の位置は高すぎないかといったことです。こうした声は,医療の最前線からの視点としてとても重要なのです。こうした意見に比して,配色や意匠的な要素に寄せられたコメントが多くなかったのは,機能面での必要度がそれほど高くなかったためと思われます。
【工事概要】
日本大学新病院(仮称)
新築工事
- 場所:
- 東京都千代田区
- 発注者:
- 日本大学
- 設計:
- 伊藤喜三郎建築研究所
- 規模:
- RC造一部S造
B2,11F,PH2F
延べ29,878m2 - 工期:
- 2012年6月~2014年9月
(東京建築支店JV施工)
リニューアルへの可能性
これからはより高精細なデジタルモックアップや,モデルルームをつくらずに空間の大小がシミュレーションできるVRなどへ発展していくそうですが,医療施設の計画においては,とくにリニューアルの場面で可能性があるように感じました。病院の建物は多くの患者様にとっての地域拠点でもあります。長年にわたって使い続ける必要があるのです。ご存知のようにこうした背景から近年,設備更新やインテリアのリニューアル例も増えています。こうした機会にデジタルモックアップを使った検討が行えれば,改修前後での空間の変化がイメージしやすく,より綿密な計画が立てられるようになるのではないでしょうか。新しいツールが切り拓く未来を楽しみにしています。