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KAJIMAダイジェスト

シリーズ 東日本大震災から5年 東北の春2016 復興への道を築く人たち 産業復興

創業の地に恩を返したい
その思いが、工場再開を後押ししてくれた

釜石では,新しい工場で缶詰の製造が始まっている。ここは国内有数の缶詰会社,岩手缶詰の釜石工場。当社が設計・施工を担い,2月末に建屋が完成,3月から本格的に稼働を開始した。岩手缶詰は,1941年の設立以来,釜石市に本社をおき,県内各地で缶詰のほか,冷凍食品やレトルト食品,ゼリー,飲料,ワインなど数多くの商品を製造してきた。

写真:釜石港を望む岩手缶詰の釜石工場

釜石港を望む岩手缶詰の釜石工場

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写真:他の三陸沿岸のまちと同じく,釜石も壊滅的な状態となった

他の三陸沿岸のまちと同じく,釜石も壊滅的な状態となった
写真:現場撮影

写真:被災直後の岩手缶詰本社

被災直後の岩手缶詰本社
写真:現場撮影

5年前,“鉄と魚のまち”として知られる釜石もまた,他の三陸沿岸のまちと同じく,津波により甚大な被害を受け,壊滅的な状態となった。「本社は漁港に近かったので,美しい海がそのまま襲いかかってきました。あんなにも大きな津波が来るとは想像しておらず,私自身は避難をしていませんでした」と,当時を振り返るのは,同社の久保欣也常務取締役。本社最上階の3階で津波が襲うのを目の当たりにした。床は水浸しになったが,鉄筋コンクリート造の社屋は流されることはなかった。「ちょうど40年前,鹿島さんにお願いした建物です。周辺の建物が流され,道路に亀裂や沈下が起きているなか,うちの建物は背筋を伸ばして立っているようでした。その姿を見て,建設当時の現場所長さんが“ちゃんとした仕事をしますよ”と常に口にしていたことを,思い出しました。その言葉が,入社間もなかった私の心に,強い印象として刻まれていたのです」。

写真:岩手缶詰の久保欣也常務取締役

岩手缶詰の久保欣也常務取締役

同社は震災直後,本社機能を一旦盛岡に移した。1ヵ月も経つと,いつになれば釜石に帰れるのか,もう戻れないのではないかと,従業員から不安の声が聞こえてきた。経営陣は,原点に帰り,創業の地で事業を再興することを決断。その頃,久保常務は,同社会長に随行して当社の盛岡営業所を訪ねている。「釜石に戻りたいと相談すると,〈本社の躯体は大丈夫。鹿島で修理しますよ〉と力強い言葉が返ってきました。震災直後にもかかわらず社員を派遣し,躯体の被災調査をしてくれていたとは。対応の早さに驚き,感動しました」。2011年11月に修繕を終えて,再出発を果たす。また,津波で全壊した大船渡の2つの工場を統合・新築。2012年12月に稼働し,特産のサンマなどの冷凍食品の製造を続けている。当社は,設計・施工で事業再開を支援した。

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今回,稼働を開始した釜石工場は,岩手缶詰にとって特別な存在だ。もともと釜石には本社機能だけでなく工場も保有し,地域の経済や雇用に貢献してきた。しかし,1985年のプラザ合意の影響で受注が激減。翌年,苦渋の選択だったが釜石工場を閉鎖した。「釜石の復興に協力して欲しいという野田武則釜石市長からの強い要請,そして何より,創業の地に恩を返したいという思いが,30年振りの工場再開を後押ししてくれました」。本社を解体して新たに工場を造ることを決める。

この工場の施工を率いたのが山口憲一所長だ。震災直後は,内陸での被災調査を担当。その後,病院や工場の施工に従事し,本格的な復興工事は初となる。「津波で甚大な被害を受けた沿岸部,岩手県出身者として地域産業復興の一翼を担いたいという思いで工事に挑みました。ただ,資材調達や作業員手配では苦労しました。沿岸部では宿泊施設が少なく,万が一決めた工程がずれてしまうと,作業員の宿泊場所が確保できなくなります。工程に大きな影響がでないように,念入りにかつ慎重に現場管理を行いました」。盛岡から片道2時間かけて日帰りで作業に来てくれる作業員もいたという。「工事に携わった皆に感謝したい」。無事竣工を迎えた時の思いだ。「被災地では工期の遅れは,当たり前の状況です。釜石市はじめ多くの関係者から驚きの目で見られています。“ちゃんとした仕事”は今も引き継がれていますね。物流を支える道路,雇用に直結する復興住宅や宅地造成,下水道整備など,復興にはインフラ整備が未だ必要です。これからも期待していますよ」と,久保常務は微笑む。

写真:山口憲一所長

山口憲一所長

「田老の人が,春を感じるのは2月なんですよ」と齊藤主査が教えてくれた。早採りワカメを口にした時だそうだ。特産品のワカメの収穫期前に,成長を促すため間引きした新芽のことで,柔らかくて美味しいという。厳しい寒さの中で感じる春の気配。そして,間もなく“三王団地”に自宅が完成する。春の訪れとともに。

写真:釜石工場外観

釜石工場外観地

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写真:釜石工場内観

釜石工場内観。岩手缶詰が製造する三陸などのサバを使った缶詰「Ça va(サバ)?」は,発売から2年半で100万缶を突破。全国的なヒット商品となった。被災地の水産業を盛り立てようと「東の食の会」が企画し,釜石工場でも製造される

写真:横浜市中区の岩手県アンテナショップ「Natural Essay」にて

横浜市中区の岩手県アンテナショップ「Natural Essay」にて
写真:広報室撮影

※写真:大村拓也

岩手缶詰釜石工場新築工事

場所:
岩手県釜石市
発注者:
岩手缶詰
設計・施工:
鹿島
規模:
S造 2F 延べ4,896m2
工期:
2015年4月~2016年2月

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