特集:ダム新時代

Chapter 2 ダムの再開発
 ダムの新設には多額の事業費や長い時間を要するうえに,ダムの建設に適した場所が少なくなっている。既設ダムを建設した当時は不可能だった高さ・大きさのダムの建設が,後に技術の進歩で可能となる事例もふえている。そこで近年脚光を浴びているのが,既設のダムをより有効に利用するダムの再開発である。
 これまで当社が手掛けてきたダムの再開発(補修工事を除く)は日本の建設会社で最多の25件。完成後年月を経て不十分となった既設のダムの堤体を嵩上げして貯水量をふやしたり, 機能が低下した既設のダムの設備を増設・増強・改良して,より効率的に運用できるよう蘇らせるのである。
1 設備を増設,増強し機能を向上させる−蘇った大正生まれのダム−
帝釈川ダム
工事概要
場所: 広島県庄原市
発注者: 中国電力
設計: 中国電力
規模: 重力式コンクリートダム, 堤高62.4m,
堤頂長39.5m,堤体積4万5,000m3
有効貯水量749万m3
工期: 2002年7月〜2006年9月
(広島支店JV施工)
帝釈川ダム
 高梁川水系帝釈川(広島県庄原市)に,大正13年に完成した中国電力最古の重力式コンクリートダム。このダムは,洪水吐き*の放流能力が小さいために貯水池の運用に制約があった。今回,既設堤体の上部を改修して洪水吐きを増設するとともに,既設堤体の下流面にコンクリートを打増して補強しダムの安定性を向上させた。さらに従来,堤体の下部にあった発電用の取水口を別の位置に設置することにより,これまで未利用だった約35mの有効落差を利用できるようにし,発電効率も上げている。
 堤体下流面へコンクリートを打ち増すため,新旧の堤体の継目や石灰岩を基盤とする基礎の改良など,構造上の技術的課題を克服しての施工であった。工事エリアが狭く大型の施工機械の導入による合理化施工が不可能な中,既設のダムの機能を維持しながら再開発工事を進め,2005年12月に完成した。今年3月から湛水を開始し,6月から発電所の営業運転を開始している。
*洪水吐き
大雨などでダム湖に流入する水が多くなった際に,下流に安全に流下させるための放流設備
再開発工事前の帝釈川ダムとダム湖 再開発工事中の様子。大規模な仮設構台を設けて作業を行った
リニューアル後の洪水吐きゲート
断面図
2 渇水期でも水がめに貯える−堤体を嵩上げし貯水量をふやす−
下の原(しものはる)ダム
工事概要
場所: 長崎県佐世保市
発注者: 佐世保市水道局
設計: 佐世保市水道局
規模: 重力式コンクリートダム, 堤高36.5m,
堤頂長178m,堤体積3万2,000m3
有効貯水量218万2,000m3
工期: 2003年9月〜2006年12月
(九州支店JV施工)
下の原ダム
 小森川水系鷹の巣川(長崎県佐世保市)に立地する佐世保市民の水道用水をまかなう重力式コンクリートダム。佐世保市は水源が乏しく,近年の少雨傾向で慢性的な水不足のため,利水安全度を高めることが急務であり,貯水量を増やす事業が進められている。その一環として,堤体を5.9m嵩上げし,貯水量を従来の約1.7倍にふやす工事を当社で施工している。
 堤体の嵩上げは,新旧の堤体の接合や基礎の改良など構造上の技術的課題が多く高度な建設技術を要する。水道用水を貯えるダムの機能は停止できないため,下の原ダムでは貯水したままの作業となり,ダム工事の中でも難易度の高い施工が求められた。
 下の原ダムは今年5月に試験湛水を開始, 2006年12月の完成を間近にひかえている。
堤体嵩上げ前 嵩上げ工事が完成直前の様子(2006年6月末)
堤体嵩上げ工事中
断面図



Chapter 1 最近のダムのつくりかた
Chapter 2 ダムの再開発
Chapter 3 interview 「ダムの明日を考える」