現場から:

札幌に咲いた,ガラスの華
         札幌メディアパーク建設工事



 札幌の大通公園にほど近いオフィス街の真ん中に,巨大なガラスの華が咲いた。
 札幌テレビ放送が開局40周年を記念して計画した新しいイベントスペース・札幌メディアパークは,世界初の開閉方式のガラス屋根を持つ印象的な建物だ。今回の現場からはガラス屋根がついに完成し,その全貌を現した札幌メディアパークを紹介する。


全景
建物の向こう側に見える紅葉が北大植物園
写真は「全開」(可動屋根18枚がすべて開いた状態)

●世界初の開閉方式ガラス屋根

 札幌メディアパークは,南に大通公園,北に北大植物園,東に赤レンガの北海道庁があり,周囲にも芸術文化施設が多く存在する「北一条文化ゾーン」に位置している。この施設はテレビ・ラジオの公開生放送や各種イベント,コンサートなどを行う多目的施設である。
 屋根の開閉方式には,福岡ドームのようにスライドさせて中に収納するタイプや折りたたんで収納するタイプなどがある。このメディアパークでは花びらが開くように跳ね上がって開閉するパターンを採用している。これは世界でも初めての開閉方式だ。
 このガラスの開閉屋根は真上から見ると正六角形で,一辺が約20mの六角錐の形をしている。その一面は三角形4枚で構成されており,中央の三角形を軸として残りの3枚が開閉する構造となっている。つまり,一辺が約9mの三角形24枚のうち,18枚が開閉することになる。


全閉
全閉
通常時

一つおき開き
一つおき開き
可動屋根9枚が開き,一つおきにピラミッドができる

中央部開き
中央部開き
中央の6枚の可動屋根が開く

側部開き
側部開き
可動屋根18枚のうち側部の12枚が開く

 ガラス屋根の開閉パターンは全部で5つ。「全開」にするとガラスのピラミッドが6つつながった形ができあがる。屋根と言うよりは巨大なガラスの造形のようだ。この他に4つのパターンがあり,用途に応じた開閉方式が採用されることになる。

●ガラス屋根の開閉機構は「車のジャッキ」

  可動屋根は固定の屋根に取り付けたシャフトを軸に回転して開く。車のジャッキを思い浮かべてみよう。ねじを回すことでひし形状の受け台の支持部分を鉛直方向にのばし,それによって車を持ち上げる。ねじの回転を直線運動に変えるという原理がガラス屋根の開閉機構に使われている。油圧ジャッキ等を採用しなかったのは,メンテナンスの容易さと故障のおこりやすさを考慮してのことである。

ねじ部分
開閉機構のネジ部分

●雨を漏らすな−新しいサッシの開発

 前例のない開閉方式であるため,屋根の雨仕舞いは大きな課題だった。特に屋根の頂部は6枚のパネルが重なり合う構造だからだ。設計者・施工者・メーカーの間で一年ががりで新しいサッシの開発が行われた。現場の斉藤所長は「新製品のサッシを開発する場合,市場に出るまでには3〜5年かかるのが一般的。それをこの現場では1年足らずでやらなければならず,気ばかり焦った」と言う。水密性能を確保する必要のある部位では必ず二重止水構造となるようにし,可動パネルと固定パネルの交差部では可動パネルの動きに追従するようにしている。実物大の模型を作成し,作動実験が繰り返された。

固定屋根の据え付け状況
固定屋根の据え付け状況
3次元測量により鉄骨据え付け時の計測点座標を出し,据え付け精度の確保に努めた

●世界に開かれた現場

 工事は発注者である札幌テレビ放送のビルの真横で進む。テレビ局の施設の工事だけに現場の様子がテレビで紹介されることも数多い。斉藤所長はすでに数回のテレビ出演を経験。生中継などでも「もう緊張もしませんよ」と余裕の表情だ。
 テレビ局が撮影にやってくる,となると普通の現場では大変な事だが,この現場では日常茶飯事。作業員も撮影に慣れているそうだ。発注者だけでなく北海道民全てに開かれている現場である。 しかも札幌テレビ放送のホームページでは施工中の現場の様子がリアルタイムで公開されている(映像は30分おきに更新)。まさに全世界から見られている現場だ。http://www.stv.ne.jp/spica/index.html

●世界に開かれた現場

 この建物の愛称が,札幌テレビの公募により広く道民に呼びかけられた。そして,8,000通以上の応募の中からこの程「SPICA(スピカ)」に決定した。 折り紙細工の様なガラス屋根を持つこの「SPICA」は来年4月7日のオープンには多くの人々の注目を集めることだろう。これから北海道は厳しい冬を迎える。竣工までのラストスパートは始まったばかりだ。


地図

札幌メディアパーク建設工事
<工事概要>
場所 札幌市中央区北1条西8-1-1,9-1-6
発注者 札幌テレビ放送
設計・監理 設計組織S.M.P (意匠:伊坂デザイン工房,構造:構造設計集団(SDG),設備:当社設計・エンジニアリング総事業本部)
規模 鉄筋コンクリート造一部鉄骨造 延べ13,456m2
地下2階,地上2階 収容人員最大約1,650名
工期 1998年4月〜2000年3月
施工 札幌支店施工