テクノ・ライブラリ


Techno Library

繊維補強コンクリート

近年,トンネルや橋梁などの構造物のコンクリート剥落事故が相次いで起こり,大きな社会問題となっている。その解決策の一つとしてコンクリートに微量の繊維を混入させ剥落を防止する技術が注目されている。今月のテクノ・ライブラリでは,コンクリートの性能を向上させる様々な繊維補強コンクリートを紹介する。

炭素繊維補強コンクリート破断・(電子顕微鏡により撮影)

コンクリートの弱点を補う繊維
 構造物の建設で利用するコンクリートは,耐久性と経済性を兼ね備えた欠かすことのできない重要な材料である。しかし,圧縮には強いが引っ張りには弱いという欠点がある。その補強策として引っ張りに強い鉄筋や鉄骨を併用するが,それでもひび割れなどの問題が残っている。コンクリートに繊維を練り混ぜた繊維補強コンクリートは,この問題を改善しコンクリートの靭性(ねばり)を高めた複合材料である。
 このような特性を活かし,今日ではトンネルの吹き付けや法面,道路の舗装,建築物の土間コンクリート,コンクリート二次製品など土木・建築分野で広く利用されている。
 コンクリートに練り混ぜて使用するのは,繊維素材を長さ数ミリから十数ミリに切断した「短繊維」と呼ばれるもの。材質は主に「鋼繊維」「ガラス繊維」「炭素繊維」及び「有機系繊維」に分かれており,それぞれの特性を活かして用途に応じて使い分けている。近年では,密度が小さく軽量でコンクリートに混入した際に流動性への影響が少ない,施工性に優れた有機系繊維への用途が拡大している。


アーク森ビルのカーテンウォールの取付け状況 建設中のアーク森ビル(東京都港区)

コンクリート剥落防止のために
 近年では,高度経済成長期に建設されたコンクリート構造物の劣化が進み,コンクリートの剥落が問題となっている。当社では,コンクリート剥落の防止を目的として二つの有機系繊維補強コンクリートを開発している。
 まず,有機系の繊維の中でも補強性が高いビニロン繊維に着目した。繊維の混入率や配合の割合などを徹底的に研究し,コンクリートにひび割れが発生しても,ひび割れの界面を繊維がつなぐことで剥落が起こらない繊維補強コンクリートを2000年3月に開発した。
 また,今年8月にはポリプロピレン繊維を改良した「ポリウェーブ」を萩原工業と共同で開発した。従来,ポリプロピレン繊維はコスト的には有利だったが,コンクリートに混入した際に補強効果が低いという欠点があった。そこで,繊維の形状を波形に加工したり,繊維自身の強度を高めることなどで改善を図った。
 二つの繊維は既存の土木構造物の補修だけでなく,新設の橋梁の躯体やトンネルの吹付けなどに利用しても効果を発揮する。コンクリート練混ぜの際に繊維を投入するだけで簡単に製造できることも大きな特長である。

ビニロン繊維 ポリプロピレン繊維を波形に加工した「ポリウェーブ」 現場での繊維投入状況
変形能力を与えて高性能耐震部材へ
 繊維補強コンクリートは,繊維の種類や混入する量,分散の仕方,繊維の方向の分布によっても性質が異なってくる。当社では様々な実験の結果をもとに繊維の挙動を解析し,高い変形能力を生み出す高靭性繊維補強モルタル(高靭性FRC)を2000年6月に開発している。これはセメント,砂,水から構成されるモルタルの中にビニロンスーパー繊維という非常に高強度の有機系繊維を混入することで,従来のモルタルの200倍の変形能力に耐えられるようにしたものだ。具体的には,曲げ力が加わった際にひとつのひび割れの開口幅が広がらず,次々と新しい微細なひび割れを発生させ,つまりひび割れを分散させることで大きな変形能力を生み出した。
 この高い変形性能を生かし,高性能耐震部材として耐震壁などへ使用することにより,柱や梁などのボリュームを軽減でき大幅なコストダウンを図ることが可能である。
膨張財を用いた剥落模擬実験。

 以上のように,コンクリートを補強する繊維は多様であり,適用される用途や目的に応じて様々なコンクリートが開発されている。構造物の長寿命化に貢献し,ライフサイクルコストも削減することができる繊維補強コンクリートの進化は今後も続くであろう。

高靭性FRCの曲げ靭性性能 繊維補強 コンクリートの打設