特集:都市再生レビュー2003

汐留,品川,六本木・・・“話題の新スポット”が続々と現れた2003年。
生まれ変わった街に多くの人々が押し寄せた。わが国をあげて推し進める「都市再生」は着々と成果をあげている。
一年の締め括りとなる今月の特集では,新しい街の表情をダイジェストで振り返ってみたい。
再開発事業を実現した街づくりの手法と,来年以降つづく注目のプロジェクトを併せて紹介する。
Urban Renaissance 2003
風景を一新した今年オープンのプロジェクト
上:汐留シオサイト(東京都港区東新橋)下:品川シーサイドフォレスト(東京都品川区東品川)
上:六本木ヒルズ(東京都港区六本木)下:朱鷺メッセ(新潟県新潟市万代島)
街の魅力のかたち
各地で展開する都市再生プロジェクト。
そのかたちはさまざまであり,街の新たな個性を生み,地区のシンボルとなっている。
訪れる人々を魅了してやまない街の表情をレビューする。
Shiodome Sio-Site
「地球と自然の共生」をめざした汐留シオサイト。
街区内には自然石の敷かれた遊歩道や並木道,ポケットパークが随所に設けられ,超高層ビル群の足元を彩る(事業の詳細は次項)
わが国の鉄道発祥の地として復元された「旧新橋停車場」
個性豊かな超高層ビル群
自然の素材で構成される汐留タワーへのアプローチ(オフィス部分)
汐留タワーと日本テレビタワーの足元に展開する広場
Shinagawa Seaside Forest
「杜のみどりの中の街」をテーマに街づくりが進む品川シーサイドフォレスト(事業の詳細は次項)
日本を代表するIT企業が集積するオフィス棟
海岸通りに面した広場からのアプローチ
オフィス棟に囲まれた広場「オーバルガーデン」
建設が進む「品川シーサイドイーストタワー」
建設が進む「品川シーサイドウエストタワー」
Roppongi Hills
職・住・遊・文化の多彩な都市機能が集積した六本木ヒルズ。400名以上の地権者が参加した
「市街地再開発組合」と森ビルの総合プロデュースによって,緑豊かで潤いのある「文化都心」がかたちとなった
最上階に「森アーツセンター」を頂く六本木ヒルズ森タワー
六本木ヒルズ森タワーの足元に広がる自然の潤い。左はテレビ朝日本社,左奥の赤い超高層は六本木ヒルズレジデンス(集合住宅)
ヒューマンスケールで展開する緑と遊歩道
自然と建物が調和した六本木ヒルズ森タワーのエントランス
Toki Messe
「光と緑の浮島」をテーマにした朱鷺メッセ。
新潟県による国際交流拠点整備の提起を発端として,信濃川河口14haの敷地に県の国際コンベンションセンター,民間のホテル・業務棟が一体となった複合施設が実現
信濃川河口のランドマークとなった施設の全景
ホテル・業務棟のチャペルとテラス
同棟の屋内外にはアートモニュメントが配されている。写真はアプローチ部分に配置された一作品
同棟の県立万代島美術館
鹿島の開発事業
街はどのようにして生まれ変わったのだろうか? 
都市を再編成する大規模な開発事業が各地で繰り広げられるなかで,建設会社の存在が注目されている。30年以上にわたって開発事業を継続してきた鹿島。
豊富な実績を背景として当社が手掛けた,新しいふたつのプロジェクトに街を生む手法をみてみよう。

経験を積み重ねた事業スキーム
 東京・港区の汐留シオサイトに多くの超高層ビルが,この約1年の間にオープンした。電通,松下電工,日本テレビ放送網,日本通運,共同通信社,トッパン・フォームズなど,錚々たる企業の新本社ビルが軒を連ねる。この地が旧国鉄の貨物ターミナルだったことはよく知られている。
 鹿島では,インフラ整備から建物の設計・建設工事まで,汐留地区の数多くの事業に携わってきた。林立するオフィスビル群の中央でテラコッタの外観が異彩を放つ「汐留タワー」は,当社の出資する鹿島汐留開発が事業主として関わった建物である。オフィスとホテルの複合ビルであり,テナントとして資生堂とロイヤルパーク汐留タワーが入居している。
 汐留タワーでは,開発事業の豊富な実績で培ったリスクを見極める眼とノウハウを駆使し,着工後にテナントが決定した段階で不動産証券化が図られた。誘致したテナントの格付けの高さ,関係先との円滑な協議・調整,また汐留地区全体のまちづくりに貢献してきた実績などもあって,効果的な事業スキームを構築できた成功例である。
 完成した建物は,オフィスフロアに2層吹き抜け部をもつなど,ゆとりある空間となっている。計画の早い段階から有力なテナント候補と協議を重ねた結果,入居する企業の風土や業務スタイルに合わせた空間を実現することができたのである。
汐留タワーの証券化スキーム

異例のゼネコン一社単独開発
 新幹線駅の開業で新しいビジネス拠点として注目される品川エリア。ここから日本を代表するIT企業の一大集積地が生まれようとしている。日立ソフトウェアエンジニアリング,松下電器産業,ソニーなどがオフィスを構える「品川シーサイドフォレスト」だ。街区の直下には,ベイエリアの新線「りんかい線品川シーサイド駅」が位置する駅一体型の開発事業である。
 オフィス,ホテル,商業施設,住宅などからなるこのプロジェクトは,鹿島と日本たばこ産業(JT)が共同で取り組む大型複合開発だ。「杜のみどりの中の街」をテーマに,自然との共生をめざした街づくりに取り組んできた。JT東京工場があった7万m2以上の土地を中心に,二期に分けて再開発され,すでに第1期分が完成している。
 そして第2期の2万m2の開発は,鹿島一社が事業主となる。このように大規模で公共性の高いプロジェクトでの建設会社の単独開発は,ほかに例をみない。
 鹿島は建設投資と引き換えに,ホテル・オフィスからなるイーストタワーと,オフィスビルであるウエストタワーを取得するが,あらかじめ土地を取得せずに権利交換を行う,省資金で投資効率のよい事業となっている。
 建設技術を熟知するものの強みを活かして開発事業の実績を積み重ねてきた鹿島。都市再生の気運が盛り上がる今日,これまで蓄積した開発事業のノウハウを,公共性の高いプロジェクトに投入し,新たな街づくりを自ら推進する役割をも担っているのである。

品川シーサイドフォレストの全景
Design by Kajima
生まれ変わった伝統の建材
 光り輝く透明の超高層ビル群のなかで,肌色の壁が眼を引く汐留タワー。独特の風合いのある外観を構成するのがテラコッタタイル。この建物に合わせて独自に開発された“古くて新しい素材”だ。
 「焼いた土」を意味するテラコッタ(terra cotta)はイタリア伝統の建築材料であり,陶製品である。
 汐留タワーのテラコッタは,愛知の伝統的な常滑焼の技術で焼かれている。ぬくもりのある色合いを追求し,世界中に土を求めた結果,急須や植木鉢でお馴染みの陶器の素材に辿りついた。日本の伝統的焼物が最新の技術によって,高品質の建築材料に生まれ変わったのである。
 自然の土がもつ暖かい表情は,歳を経るごとに焼物の風合いが高まり,美しく年月を重ねていくにちがいない。
(汐留タワーのテラコッタは,新たなエコマテリアルでもある。次号からはじまる新コーナーで紹介する予定。)
さらなる再生へ
大型の再開発事業のオープンが重なった2003年。それは都市再生の序章にすぎないのかもしれない。
今後もつづく注目のプロジェクトの一端を少しだけのぞいてみよう。
Akihabara-2006
「民間都市再生事業」として
 “電気街Akihabara”をお目当てに観光客や視察団が世界から訪れる東京・秋葉原。この特性を活かし,“世界のITセンター”の構築をめざすビッグプロジェクトが今年8月,いよいよ着工した。
 とくにJR秋葉原駅前では,大規模な低未利用地の土地利用転換などによって,電気街と連携した世界トップレベルのIT関連産業拠点を形成し,さらに商業,オフィス,交通機能を強化する再開発計画が進んでいる。2005年秋には「つくばエクスプレス」が開通し,研究学園都市つくばと秋葉原が直結する。
 国土交通省は今年10月,この地区の複合オフィスビル計画「(仮称)UDXビル」事業を「民間都市再生事業」に認定した。都市再生特別措置法に基づき,民間事業者が施行する優良な開発事業を認定するこの制度によって,税制の優遇措置や民間都市開発推進機構による融資などが受けられるようになる。認定は都営住宅建替え事業などに次いで3件目,実際に工事がはじまった事業としては全国初のプロジェクトとなっている。
 「(仮称)UDXビル」は,鹿島とNTT都市開発が共同で出資したユーディーエックス特定目的会社による事業で,オフィス機能のほか,商業施設やイベントスペース,デジタルワークショップ,ショールームなどで構成される。先行して今年5月に着工した「秋葉原ダイビル」とともに「秋葉原ITセンター(仮称)」を構成する。2006年の完成をめざして地上22階・地下3階,延床面積約16万m2のビルのほか,周囲に歩行者デッキを整備し,秋葉原駅周辺の回遊性を高める計画となっている。
 また,この地区で鹿島は,超高層マンション「Tokyo Times Tower」の開発・建設事業なども手がけている。秋葉原がどのような“日本の顔”に生まれ変わるのか,まだまだ目が離せそうにない。
コンベンションホール内部のイメージ
ホール前のホワイエのイメージ
産学連携機能の交流スペースのイメージ
商業施設のイメージ。秋葉原には意外と飲食施設が少なかった
秋葉原駅からつづく歩行者デッキ
イベントスペースに面した通りの足元周り
以上6点のCG作成:アルモ設計
秋葉原駅前再開発エリアの完成予想図
Shirokane-2005
“住・工・商”の融合へ
 東京都心部に位置しながらも,豊かな自然と下町情緒を残す港区白金。ここで町工場も参画するという全国でもきわめて稀な都市再開発事業が進んでいる。「白金一丁目東地区市街地再開発事業」である。
 この地区の周囲には,閑静な高級住宅地のほか,外国公館,大学,社寺,史跡などがあり,国際性と歴史性に彩られた文教エリアである。一方で,京浜工業地帯を支える町工場が古くから繁栄し,住宅と工場が混在する密集市街地を形成してきた。今回の再開発事業は,地元産完成予想パース業の育成・保護と居住環境の再整備を目的に,地元住民が中心となって1988年から推進されてきた。
 約2.5haの開発地区は,住宅棟・業務棟・商業施設からなる超高層街区と,工場と住宅が併設される工場街区で構成される。鹿島では建設工事に携わるほか,“Heart Brilliant Tower Life”をうたう42階建ての超高層マンション「白金タワー」の共同分譲事業に参画している。超高層街区の駅前プラザは,都営地下鉄三田線と営団地下鉄南北線の「白金高輪駅」と地下通路で直結する。2000年9月にこの駅が開業したことで,地域の核としての発展がますます期待される地区となった。
 “住・工・商”が共存する開発事業として多くの注目を集めるこのプロジェクトの完成は,2005年11月の予定だ。
白金周辺地図
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Minato-machi-2006
大阪・ミナミをもっと元気に
 活気ある大阪のシンボル,難波・湊町地区。商業・文化・ビジネスの集積地であるだけでなく,関西国際空港の玄関,鉄道や高速道路など,関西の交通の結節点でもある。この地区の旧国鉄貨物ヤードの跡地約17.5haを活用し,大阪の都市再編をめざすプロジェクトが「ルネッサなんば」だ。
 4つのゾーンで構成されるこの事業では,大阪シティエアターミナル「OCAT」(ニューターミナルゾーン)や多目的施設「湊町リバープレイス」(ウォーターフロントゾーン)などがすでにオープンしている。
 そして昨年1月,ニューシティゾーンの事業コンペが開催された。その結果,6月には鹿島を中心に6社で構成するコンソーシアム(組合)の提案が最優秀に選定され,事業予定者に決定した。
 この事業での全体コンセプトは,「新しい都市の“軸”となる街」。実際の計画案でも敷地中央にプロムナードが設けられ,さらに路地空間をつくることで,街の回遊性を創出することを企図している。また,全体コンセプトとの連携が求められるのが4つの“リーディング機能”である。学術研究機能,文化創造機能,交流機能,情報発信機能のバランスを重視し,コンソーシアムの各事業者に提案していった。
 先陣を切って今年8月に着工した難波サンケイビルには,産経新聞大阪本社やフジサンケイグループ各社が入居し,大阪の情報発信の拠点となる。このほかに超高層の都市型住宅を丸紅が,環境共生型スーパーマーケットをマックスバリューが,ライフスタイル提案型ショールームを大阪住宅設備機器が,先端的なオフィスビルをオンテックスが建設する。
 鹿島はOCATや湊町リバープレイスの建設に携わっただけでなく,この地区の阪神高速道路の建設工事など,40年にわたって大阪・ミナミと共に歩んできた。ニューシティゾーンの事業では,建設技術に加え,数々の開発事業で蓄積してきた経験とノウハウによって,大阪の元気印をさらに活性化させることに貢献するだろう。
完成予想パース
湊町周辺地図