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制震・免震技術
昨年,政府は今世紀前半に起こる可能性が高いとされる東海,東南海両地震の予想震度を発表し,各地で波紋を広げている。一方,あの阪神・淡路大震災から既に,7年の歳月が経過し,悲惨な体験の風化が叫ばれている。
当社は,単に資産としての建物を守るだけでなく,機能や役割など建物のもつ社会的な重要性を認識し,地震に備える最新の構造・技術を開発してきた。その成果は国内のみならず海外でも評価され,「制震・免震の鹿島」の呼称が与えられている。

開発コンセプトの先見性と阪神・淡路大震災
 阪神・淡路大震災以降,適用が急増している制震技術の開発に当社が着手したのが,1985年。「長い間日本で大地震を経験しない間に,日本の都市は肥大化,人口の都市集中化とともに都市機能の高度化が進んできている。ひとたび大地震に見舞われたら,進歩してきた日本の耐震構造とはいえ,大災害となることは想像に難くない」と,建築構造の世界的権威である当社小堀最高技術顧問(当時副社長)が耐震構造の限界を指摘,制震構造などの新しい構造制御システムへの技術開発を促したことに始まる。
 以来,当社は単に構造物の破壊を防ぐばかりでなく,防災拠点となる官公庁や病院などの建物の役割・機能の維持や高度情報処理機能の維持にも効果を発揮する制震・免震構造の開発を進めてきた。
 しかし,不幸にもその10年後の阪神・淡路大震災では,これまでも繰り返してきた以上の被害を,しかも予見した通りの災害を経験してしまった。

耐震構造と制震・免震構造の違い
 耐震構造は地震力に対し,柱,梁や壁などの構造体で耐え忍ぶ構造である。それに対し,制震・免震構造は時々刻々変化し建物に作用する地震力を,建物の構造体だけなく,特殊な部材・装置や特定の層で吸収させる構造で,より大きな安全性を確保しようというものである。具体的には,建物内部に設置したダンパなどの制御装置によって,地震力の吸収を行うのが制震構造で,建物と基礎との間に積層ゴムなどの部材を設置し,建物への地震力の進入を低減するのが免震構造である。

耐震構造と制震・免震構造の違い

制震技術の進化

 当社は,パッシブ制震構造から,コンピュータ制御を応用するアクティブ制震構造までの実用化と実際の建物への適用を推進してきた。1989年,東京・京橋センタービル(旧京橋成和ビル)において,世界で初めてアクティブ制震建築を実現させた。このビルに適用された「AMD※」は制震技術開発のマイルストーンと言われ,海外で高い評価を得ている。これを手始めに,当社は大地震における安全性確保から強風時の揺れまでを制御する技術を開発,実用的でコストパフォーマンスの高いシステムへと熟成させ,現在までに約100件の適用実績がある。中でも,HiDAX(写真1)・ハニカムダンパ(写真2)・DUOX(写真3)は,新しい性能設計においても効果的に性能が確保できる制震技術だ。
※AMD:センサが揺れを感知すると,コンピュータが解析,建物に吊るしたおもりを建物の揺れを打ち消す方向に動かす。

  アクティブ制震:
建物に設置した機械装置を駆動して揺れを抑える。反応が早く,振動制御効果が大きい。HiDAX,AMD,DUOXなどがある。

パッシブ制震:
揺れを吸収する装置を建物と一体化させる。仕組みがシンプルで大きな設置スペースも要らず,動力も不要。 ハニカムダンパ,HiDAMなどがある。
  HiDAX ハニカムダンパ
  HiDAX:当社が初めてオイルダンパを大型構造物へ応用,実用化した高減衰装置HiDAMに,マイコンを組み込んで性能を大幅に向上させた。風揺れから大地震まで,効果を発揮する(写真1) ハニカムダンパ:建物の壁,柱,梁などの構造体に振動を吸収する板状のハチの巣型鋼製ダンパを組み込む(写真2)
     
  DUOX  
  DUOX:ブランコの原理を応用して,大きなおもりと,その上に載せたAMD装置をわずかなエネルギーで動かし,制震効果を発揮。風揺れの制御に最適(写真3)  

免震技術の進化
 当社が免震構造の本格的な研究開発に取り組み始めたのも,制震構造とほぼ同時期の1983年である。1986年に完成した当社技術研究所・音響実験棟には,地震動の水平動のみならず,交通振動などの上下動に対しても効果のある,画期的な免震防振構法を適用している。また,阪神・淡路大震災以前に計画された免震建物として,国内で初めて免震層を駐車場として有効利用した東京・東伸24大森ビル,大型の免震ハウジングとして志木ニュータウン・ガーデンプラザと三井不動産大森本町マンションがある。以来,阪神・淡路大震災を経て当社の免震構造の適用実績は110件にも及んでいる。
 現在では,免震構造と当社が既に保有している他の技術を組み合わせることにより,免震構造の効果的な応用のための研究開発を進めている。例えば,地震力が大きく低減される免震構造と,生産性が高く,環境にも配慮したPCaPC工法(プレキャスト・プレストレスト工法)を組み合わせた「PCaPC+免震」構造を開発した。同構造はPCaPC構造のこれまでの限界を超える高さを実現でき,既にシステムプラザ磯子とスポーツモール川崎の2件に適用している。

東京・汐留地区
東京・汐留地区。このうち6棟に,3種類の当社開発の制震システムが採用されている。クリーム色のビルが鹿島棟

制震技術のコラボレーション
 阪神大震災では,現実に耐震性能に様々なレベルがあることが明らかになり,また建築基準法の性能規定化,住宅品質確保促進法の施行により,現在の構造設計は,建築主と設計者がその性能について合意の上で実施する「性能規定型耐震設計」へ移行しつつある。
 主に,構造に関する性能は耐震安全性と強風時の居住性があり,要求性能が高くなると,従来の耐震・耐風設計では対応が難しくなる。コストを含む要求性能のレベルに応じて,従来の耐震構造からHiDAX等による制震構造,免震構造,さらにHiDAXとDUOXを併用した制震構造など,最適な組合せで配置することが必要となる。
 現在,東京・汐留地区に当社が施工中のスレンダーな形状をしている鹿島棟にはHiDAX88台と強風対策のため屋上に小型のDUOX2台を設置する。また,その隣で施工中の共同通信社新本社ビルは,大きなトラスの柱梁による耐震構造に加えて,大地震時にも通信社の機能を維持するためにハニカムダンパを138箇所,風揺れ対策として屋上にDUOX2台を適用する。

今後の技術開発の展望
 先の阪神・淡路大震災で,当社は個々の建物の安全性確保はもちろんの事,街全体の機能確保の重要性を再認識した。
 制震構造・免震構造は阪神・淡路大震災以降大きな進化を遂げたが,今後当社は,単に構造システムだけでなく設備などの建物機能も一体となったインテリジェント化,すなわちダイナミック・インテリジェントビルへ向けた研究開発に取り組んでいく。さらに「街区まるごと免震」といった免震人工地盤構想の実現へ向けた研究開発を進め,これからも安心できる街づくりに寄与していく考えだ。

2種類の制震装置が最適に配置されている鹿島棟
2種類の制震装置が最適に配置されている鹿島棟