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KAJIMAダイジェスト

SAFE+SAVE 支援と復興の土木・建築

CASE2 住民が修理できる石と竹の橋(中国)

中国の中山間地域には,川によって分断された村がたくさん存在する。住民は,仕事や学校,日用品の買い物などのために毎日橋を渡って移動する。甘粛省の毛寺(マオシ)村もそのひとつ。蒲(ポー)河が,人口2,000人の村を二分している。

この黄河の支流は,毎年夏になると水かさが増す。普段は50cmほどの深さしかない川だが,増水時は5mも水位が上がるのだ。住民たちがつくる橋は,土と藁と石と丸太を使ったシンプルなもので,当然のことながら増水時には流されてしまう。そのたびに住民は仕事や学校,買い物へ行けなくなり,次の橋が架けられるのを待つことになる。また,村に住む300人の子どもたちは丸太の橋を渡ることに慣れているが,足を滑らせて怪我をすることも多い。冬は特に滑りやすく,2003年には母子が川に流されて死亡する事故が起きた。

これをきっかけに,住民たちは増水時も流されない安全な橋をつくるために香港中文大学のエドワード・ン教授に相談した。エドワード教授はすぐにプロジェクトチームを立ち上げ,大学連携プロジェクトとして多くの専門家や学生とともに橋の設計に取りかかった。現地調査の結果,高さ1.5mの橋であれば1年のうちの350日は安全に通行できることがわかった。そこで,増水が最高位に達する15日は水の中に沈む「沈下橋」をデザインすることにした。

写真:完成した橋に座る住民。男性だけでなく女性や子どもも橋づくりに関わる

完成した橋に座る住民。男性だけでなく女性や子どもも橋づくりに関わる

写真:昔の橋。土と藁と石を使った橋脚に丸太を載せただけのシンプルなもの。洪水時には簡単に流されてしまう

昔の橋。土と藁と石を使った橋脚に丸太を載せただけのシンプルなもの。洪水時には簡単に流されてしまう

沈下橋のデザインに求められることは,いかに抵抗を軽減するかである。増水時には大量の水が上流から流れ,加えて丸太や石なども流れてくる。これらが橋に引っかかると,それによって水が堰き止められ,橋が流されてしまうか水が溢れてしまう。そこで橋脚には多孔質な蛇籠(じゃかご)を用いることとした。蛇籠は太い針金でつくられた籠で,中には現地の川で採取した石を詰め込む。蛇籠の内部を水が通り抜けることにより,橋脚にかかる水の抵抗が軽減される。橋脚の上流側にはV字型に折り曲げた鉄板が据え付けられ,上流からの漂流物が引っかからないように工夫されている。

写真:新しい橋。蛇籠の橋脚,V字の鉄板,竹の床と手すりによって,水の抵抗を軽減させたデザイン

新しい橋。蛇籠の橋脚,V字の鉄板,竹の床と手すりによって,水の抵抗を軽減させたデザイン

川には20の橋脚が設置され,それらはフレーム状に加工された鉄骨の橋桁で互いに連結している。幅80cm,長さ5mの鉄骨フレームを,一直線ではなく互い違いに配置することで,橋脚の幅が細長くなり,さらに橋脚と橋桁とをしっかり固定できる。鉄骨フレームには,4つに裂いた竹を重ねて連結させたパネルがはめ込まれた。重ねた竹には多くの空隙があるため,歩道部分も水の抵抗が軽減されるつくりになっている。手すりも竹を曲げてつくられた簡素なもので,大きな力が加わると橋桁から外れて流される。水の抵抗を軽減しつつ橋の強度を損なわない工夫が盛り込まれている。

蛇籠に入れる石や,パネルや手すりに使う竹などはすべて現地で調達できる素材である。針金でつくった蛇籠と橋桁の鉄骨を工場でつくって運び込めば,あとは現地の人たちが現地の素材をつかってできる。2004年には実際に70人の学生ボランティアと村民が協力し,7日間でこの橋をつくりあげた。完成後は村の協議会が橋を管理しているが,洪水によって手すりが流されたことは一度もないという。

写真:住民と大学生による橋づくり。村の外部から来た大学生と住民が協働して橋をつくった

住民と大学生による橋づくり。村の外部から来た大学生と住民が協働して橋をつくった

写真:橋づくりプロセス。村の男性,女性,子ども,そして外部の大学生が協力して橋をつくる

橋づくりプロセス。村の男性,女性,子ども,そして外部の大学生が協力して橋をつくる

写真:橋の床面と手すり。裂いた竹を重ね合わせて床や手すりをつくるため,空隙が生まれ水の抵抗が軽減される。一定の抵抗を上回ると部材が橋から離れて水に流されることになる。その場合は,村にある竹を切り取って住民が修理することができる

橋の床面と手すり。裂いた竹を重ね合わせて床や手すりをつくるため,空隙が生まれ水の抵抗が軽減される。一定の抵抗を上回ると部材が橋から離れて水に流されることになる。その場合は,村にある竹を切り取って住民が修理することができる

「A Bridge Too Far(遠すぎる橋)」と呼ばれるこのプロジェクトがきっかけとなり,エドワード教授は「無止橋(A Bridge to China)慈善基金」を立ち上げ,中国の村々に橋を架けるプロジェクトを開始した。無止橋とは,村人たちの往来が川の流れによって止められないような橋をつくるという意味であり,人々の心をつなぐ橋を架け続けるという意味も込められている。基金への寄付も増え,すでに15の村で学生と住民が協力して橋を架けている。無止橋慈善基金のプロジェクトは,4つのデザイン原理を守って活動を続けている。それは,①安全で効果的で手作りであること,②地域の文脈に沿っていて持続可能であること,③環境に配慮していること,④伝統と近代を調和させること,である。

これらのプロジェクトは,単に村に橋が誕生するという結果をもたらすだけではない。技術の習得を通じて住民同士の結束力を高めることにも寄与している。学生にとっても実地で学ぶよい機会になる。エドワード教授は言う。「このプロジェクトは2種類の橋を建設しているといえよう。ひとつは物理的な橋であり,もうひとつは人と人とのつながりのための橋である」。

「A Bridge Too Far」プロジェクトは,王立英国建築家協会(RIBA)やアメリカ建築家協会(AIA)などから,多くの賞を受賞している。ほかの現代建築に比べて建築界では話題になることが少ないものの,重要なことを学ぶことができる。それは,専門家がすべてを設計し,施工してしまうプロジェクトでは,住民や学生が学習したり協働したりする機会が奪われており,そのために「人と人とのつながりのための橋」が架けられない,ということである。

写真:無止橋のプロジェクトによってつくられた別の橋。プロジェクトは,中国全土に15ヵ所以上の橋を架けている

無止橋のプロジェクトによってつくられた別の橋。プロジェクトは,中国全土に15ヵ所以上の橋を架けている

山崎 亮 やまざき・りょう
ランドスケープ・デザイナー。studio-L代表。1973年生まれ。Architecture for Humanity Tokyo / Kyoto設立準備会に参画し,復興のデザインの研究を行う。著書に『震災のためにデザインは何が可能か』(NTT出版)など。Architecture for Humanityはサンフランシスコを拠点に世界各地で復興や自立支援の建設活動を主導する非営利団体。

参考資料

  • Design Like You Give a Damn: Architectural Responses to Humanitarian Crises, Edited by Architecture for Humanity, Thames & Hudson, Ltd. 2006.
  • アレサンドロ・ロッカ著, 大塚典子訳『NATURAL ARCHITECTURE』(ビー・エヌ・エヌ新社, 2008)
  • A Bridge Too Far: http://www.bridge2far.info/

(写真提供:すべて香港中文大学/©School of Architecture, The Chinese University of Hong Kong))

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