特集1:夢の巨大地下空間をつくる

夢の巨大地下空間をつくる
〜 東京都心部直下に直径500m,高さ1,000mの地下空間 〜
地下は,完全には解明されていない未知の空間である。特集1では,ひとつの夢物語ではあるが「地下空間の創造」ということを考え,我々の"夢"を語りたい。この夢物語を通して,百年の想いを巡らすのも有意なことではないだろうか。

●地盤編 〜建設地点は地下3,000m付近

 この夢の地下空間をどこにつくるのか。深さはどれ位にするのか。空間の形状もさることながら,この二つの想定から始めることにした。
 まず建設地をどこにするか。例えば,東京の下はどうだろうか。東京はまぎれも無く,日本の政治・経済・文化の中心。ここでは,高さ数百mを越す超高層ビルが建ち並び,人々の生活圏の範囲は上空へと広がっている。しかし,いざ地下に目を向けると,思ったほど利用は進んでいない。東京の一番深いところにある地下鉄の駅でもせいぜい40m強の深さである。具体的には,この地下空間の建設は,都心のほぼ中心にある当社の本社ビルの直下としよう。
 次にどれくらいの深さにするか。これには,当社が現在施工している世界最大級の地下発電所,神流川発電所に解決の糸口をつかむ。この発電所は,山岳の地下500mにある硬い岩盤をくりぬいてつくっている。この岩盤は非常に硬く,岩盤そのもので空間を支えている。こうしたことから,巨大地下空間はできる限り硬い岩盤を探し,そこにつくるのが良いのではないか。
 そこで都心部の地下を見てみる。ここは地質的にも比較的新しい時代に堆積された地層からできている。求める硬い岩盤は,地表から2,500m程の地点から存在すると予想される。このようなことから,本社ビルの直下3,000mあたりから“夢の巨大地下空間”をつくることにしよう。
都心部の地下断面図 都心部の地下断面図
地盤の硬さは,地盤の中を伝わる波の速度によって推定できる。このことより,都心部直下10,000m圏内では,大よそ三つの層に分けられる。地表面から1,500m位までと,2,500m位まで,そしてそれ以深である。特に三番目の層は,波の速度が上部の層と比べても速いことから非常に硬い地盤と考えられる

●構造編 〜直径500m,高さ1,000mのほぼ円筒形

夢の巨大地下空間をつくる

 次に地下3,000m付近ではどのような空間をつくることができるのだろうか。長いトンネル形状のものか,巨大なドーム形状か。ここでは後者を考えよう。力学的には円形が外部からの圧力に強いことは良く知られている。たまごを手で押しつぶしてみよう。容易にはつぶれない。トンネルの形状をみてもほぼ円形となっている。そうすると究極には,球形が理想になるだろう。しかし空間の利用などから考えてみると,力学的に安定した円形で,しかも施工の点から大空間をつくることが可能な円筒に近い形に落ち着く。
 ところで幼い頃,砂山にトンネルを掘ったことがあるだろう。その際,地山を固めたほうが大きな穴をつくることができた。地下3,000mの岩盤は,一般的なコンクリートの5倍の硬さがあると予想される。非常に大きな空間をつくることができそうだ。
 しかし,地下に空間をつくる場合には,地圧の影響を考えなくてはならない。地下3,000mの空間にかかる地圧は途方もない圧力となり,その地圧が空間をつぶそうとするだろう。実際,地圧は上方からだけではなく,左右方向,下方からも襲いかかる。結果として,空間周囲の岩盤が一定以上の硬さを持たない限り空間を保持することができない。空間を地中で保持することは相当難しいのである。
 以上のことから,おのずと空間の規模・限界が決まってくる。都心部3,000m付近の地下に存在する硬質な岩盤では,直径500m,高さ1,000m規模の空間ができる可能性がある。
夢の巨大地下空間をつくる 夢の空間は,現在の地上の構造物と比べてみても,桁外れに大きい。東京タワーが3本縦に並ぶ高さがあり,東京ドーム160杯分の体積がある


●施工編 〜全自動による無人化施工で掘削

 場所も深さも決まった。次はつくることを考えよう。しかし,未だかつて誰もこれほど深い地下に,これほど巨大な空間をつくったことはない。地下の調査も完全ではなく,地下にについてはまだ不明な点が多い。
 一般的には,地下に空間をつくる場合,地上に構造物をつくるのとは違った様々な問題を考える必要がある。地上では,天候や周辺の環境などの問題を考慮しなければならないが,地下では地下水や周辺環境に対する影響を考えなければならない。さらに,ここでは非常に深いところまで掘り進めなければならないので,現在の地下施工とはまったく違った問題も抱えることになる。それは地下の温度上昇である。地球の内部にあるマグマなどの影響で,地中深くに行けば行くほど温度は上昇する。一般的に100m下がると3℃上がるとされている。空間の最上部3,000mでは約90℃,最下部4,000mでは約120℃になると予想される。このような厳しい条件の中,非常に硬い岩盤を掘削しなければならないのだ。その他,断層,有毒ガス,磁気の影響なども考えなければならないだろう。
 このようなことから,とても人間が入って作業するような環境にあるとは思えない。空間の構造は,ほぼ単純な円筒形である。それ故,合理的な施工法を考えるべきだ。コンピュータシステムも現在よりも考えられないほど発達し,建設機械も飛躍的に進歩していることだろう。この超巨大空間は,21世紀のハイテク機械による無人化施工によってつくるのだ。

施工方法
   
施工方法 空間の施工は全自動の掘削マシンと壁面覆工マシンで行う。掘削マシン本体からは2本のアームが伸びており,その先には掘削ドリルがついている。このドリルが回転することで硬い岩盤を砕く。マシンの後方にはレールが設置されており,掘削した岩はこのレールを通じて空間の中心に設置されたシュートから下方に落される。壁面覆工マシンは掘削後,直ちに岩壁の仕上げ工事を始め,完成後空間が一定温度で保持されるための施設を設置する。なお,掘削岩は,空間の最下部に設置した搬出装置によって一気に東京湾へ送り出される。搬出された岩は膨大な量となるため,地球温暖化で侵食されつつある海外諸国の沿岸域復旧などに利用するのも良いだろう

●利用編 〜21世紀の問題解決のために

 最後に利用方法について考えてみよう。地下はあくまでも地上の補完的な役割を担うに過ぎないとの観点から思いをはせよう。人々の生活基盤はいつの時代においても基本的には地上にあって,それは時代の流れに影響されない普遍的なものであるからだ。地上は緑豊かな環境で,人々が健康に生活しているのが理想である。
 現在の地下の利用については,都市部では地下鉄やライフラインなど,主にインフラが挙げられるが,研究施設・貯蔵施設・防災施設といった様々な用途としての利用も考えられる。しかし,この巨大空間の利用では,空間の立地や規模,環境を最大限活かした利用が理想である。そして,この利用により地上での生活がより快適になるのだ。
 例えば,無限に存在する地熱や,空間の高低差を利用したエネルギー施設,地下式ダムなど。直径500m,高さ1,000mという超巨大な空間をどう活かすかがポイントだ。空間を何層にも分けて利用するのも良いだろう。増え続ける廃棄物の処理や資源リサイクル,世界的な人口増加による食糧危機…。我々の子孫である21世紀の人類が直面するであろうこれらの問題の解決策として,この空間が利用され,豊かな未来社会が実現して欲しい。
 あなたは,この夢の空間にどのような利用方法を考えるだろうか。

利用法 その1 エネルギー生成施設
利用方 その1
21世紀のエネルギーは,有機性廃棄物の資源を活用したり,自然の力を利用したりして得ているだろう。一層には当社が開発した「メタクレス」のパワーアップバージョンを設置する。メタクレスは,生ごみから生成したバイオガスを元に水素を取り出し,燃料電池で発電するもの。現在の東京都の食品廃棄物は1日あたり5,000tで24万世帯の1日分の消費電力量を賄える。他層では,地熱を利用した冷暖房システムの施設を設置,事務所面積約50万m2分の空調ができる。さらに800mの高さを利用した揚水式発電施設を組み込むこともできる

利用法 その2 廃棄物処理・リサイクル施設
利用法 その2 東京が直面しているごみ問題。これらの廃棄物の処理場として利用する。施設の中には廃棄物を再資源化する層などがある

利用法 その3 食糧生産施設
利用法 その3 21世紀の地球は人口増加により食糧危機に陥る可能性がある。そのために食糧の一部自給を図る地下式農業施設を建設する。野菜や穀物などを栽培する層,牛,豚,鶏などの家畜を飼育する層がある



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