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滝沢ダム本体建設工事

『コンクリート打設自動運転システム』の実用化
東京から車で約3時間。秩父多摩甲斐国立公園内に位置する,
風光明媚な埼玉県秩父郡大滝村を流れる荒川水系中津川で,現在滝沢ダムが建設されている。
工事の合理化,省力化,コスト低減,品質・安全性の向上を目指し,
ITを駆使した最新の土木施工技術が投入されている。


滝沢ダム 現場地図
工事概要
場所:埼玉県秩父郡大滝村
発注者:水資源開発公団
設計:水資源開発公団
規模:重力式コンクリートダム
堤高 140m,堤頂長 424m,堤体積約170万m3
工期:1999年3月〜2007年3月
(関東支店JV施工)
工期厳守のため開発された新システム
 滝沢ダムは,完成すると堤高140m,堤頂長424m,堤体積約170万m3の重力式コンクリートダムとなる。この大型ダムの堤体コンクリート工事を41.5ヵ月という短い工期で完了させるため,本社・機械部と現場との間で約1年に渡り施工法の検討がなされた。その結果,コンクリートの出荷から運搬,堤体打設までの一連の作業を完全に自動運転する『コンクリート打設自動運転システム』が開発された。このシステムは,新潟県の奥三面(おくみおもて)ダムの施行で実証された「鹿島式ケーブルクレーン自動運転システム」(IHIとの共同開発)と,今回新たに開発された「コンクリート出荷制御システム」を融合させたものだ。当現場では,コンクリートを運搬する3台のケーブルクレーンを同時に効率よく自動運転させるとともに,コンクリートの出荷を自動制御している。
「コンクリート打設自動運転システム」概略図
自動化による多くのメリット
 現在,現場は本システムによる堤体打設工事の最盛期を迎えている。ダムの両岸に架設された3台のケーブルクレーンが休みなくコンクリートの運搬作業を行っている。最高速度400m/分で動くクレーンは想像以上に速い。
 コンクリートの出荷から打設までの作業は次のように行われる。まず,ダムの左岸側に設置されたコンクリートを製造するバッチャープラントから,ループ型のレールを走行する5台の循環バケットへコンクリートが送られる。各々のバケットは,3台のケーブルクレーンの運転状況(行き・戻り)から最も早く積み込むべきクレーンを選び,コンクリートをサービスホッパを通じて供給する。コンクリートを積んだケーブルクレーンは,障害物を避けながら最短で安全な運搬ルートを横行し,打設場所付近に設置された堤体ホッパ上部まで移動。安全確認を行った後コンクリートを放出し,左岸のサービスホッパへ戻る。堤体ホッパにはクレーンのコンクリートバケット2杯分のコンクリートが供給されると,ダンプトラックへ積み替えられて打設場所へと運搬される。
サービスホッパからクレーンへコンクリートが積み込まれる。右上にはモノレールのように走行する循環バケットが見える 3台のケーブルクレーンが休みなくコンクリートを運搬する
 これら一連の作業は,随所に設置されたセンサーを通じてクレーン運行状況を把握することにより,効率的で安全なコンクリート運搬作業が実現されるようコンピュータ上で自動制御されている。その際,ケーブルクレーン横行時におけるコンクリートバケットの振れ止めや,異種配合コンクリートの混載防止なども本システムで管理している。
 工事を担当する高田所長はこう語る。
 「当現場では1回の打設に4〜5種類のコンクリートを使用し,バッチャープラントが2系列,循環バケットが5台,ケーブルクレーンが3台,そして堤体ホッパにはクレーン2杯分のコンクリートを供給するため,コンクリート搬送がとても複雑です。種類の異なるコンクリートの混載を招くことなく,効率よく安全に安定して供給することは,人力ではとても不可能だったと思います。特にコストと工期の面で従来にない厳しい条件を与えられておりますが,このようなITの活用により生産性の向上を図って,何とか課題を克服していきたいと思っています」
クレーンより堤体ホッパへコンクリートが供給される。手前にはダンプトラックが待機する 操作室から運転管理するオペレータ。工事は夜間も行われる 堤体のコンクリート打設の様子。雨天時は全天候型のテント(上部に見える屋根)の下で作業する
 従来の手動によるクレーン操作は,多数の熟練したオペレータ,信号員を要したが,当システムでは操作室における1〜2名のオペレータの監視業務だけで対応できる。そして,オペレータの技能によるバラツキのない安定したコンクリートの打設が可能となった。しかし,複数の複雑な設備の維持管理には多くの技術者やメカニックを必要としており,これらの低減が現状における重要な課題となっている。
 本システムを開発・導入して,2001年10月のコンクリート打設開始以来,現在のところ工程どおりに進捗している。
 「このシステムの他にも,雨天時や厳冬期でもコンクリート打設を行える全天候型テントの開発や,暑中高温時の打設対策としての冷却設備の増強など,季節・天候に左右されず打設可能日数が確保できるような様々な工夫を行っています。こうした取組みが今後のダム建設工事に活かされていくことを期待します」と,さらなる工期短縮・コスト縮減・品質と安全性の向上を目指す高田所長。
 コンクリートの打設は2005年3月に完了し,新たな巨大ダムが我々の前に姿を現す。
ダムサイト全景 高田所長