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鉄道の今までとこれからを見せる殿堂づくり
鉄道博物館新築工事
さいたま市大宮区で「鉄道博物館」の施工が進んでいる。
東日本旅客てつ道(以下JR東日本)創立20周年記念事業のメインプロジェクトとして,同社と東日本鉄道文化財団が建設を進めているもので,オープン予定は,今年の鉄道の日,10月14日。 JR大宮駅から新幹線の高架脇を走る埼玉新都市交通「ニューシャトル」に乗って3分,一つ目の大成(おおなり)駅前,JR東日本大宮総合車両センターの北側に隣接する現場を訪れた。
※駅名は博物館のオープンに合わせて変更される予定
工事概要
場所:さいたま市大宮区/事業主体:東日本旅客てつ道,東日本鉄道文化財団
設計・監理:ジェイアール東日本建築設計事務所/規模:S造,4F,延べ 28,000m2/工期:2005年10月〜2008年1月(関東支店JV施工)
鉄道博物館新築工事
完成予想パース
鉄道博物館の生い立ち
 鉄道博物館の前身は,2006年5月まで神田須田町(東京都千代田区)で親しまれた交通博物館である。その歴史は古く1921(大正10)年まで遡る。鉄道省(当時)が鉄道開業50周年記念事業の一つとして東京駅北側の高架下に鉄道博物館を開設したのが始まり。1936(昭和11)年には,中央線の神田駅と御茶ノ水駅の中間にあった万世橋駅(当時)に隣接した地に移転している。建物を設計したのは,ル・コルビュジエのアトリエで働いた経験もある土橋長俊氏(当時 鉄道省東京改良事務所)。建築としても価値の高いものであった。戦中・戦後に一時休館したものの1946(昭和21)年には海や空の乗り物にもテーマを拡大して交通文化博物館として再開し,2年後に交通博物館に改称した。日本国有鉄道の改革に伴い,それまでの国鉄の保有からJR東日本に移り,惜しまれつつ閉館したのは2006年5月であった。
 新しい鉄道博物館は,この交通博物館を発展的に解消するもので,より広い場所に移転して,テーマを再び鉄道に特化したうえで,「鉄道」「歴史」「教育」をコンセプトに,日本と共に歩んできた鉄道の「今までとこれから」を展示する。歴史的に貴重な車両をはじめ,鉄道に関する様々な展示やイベントも計画されるなど,早くも大きな注目を集めている。

鉄道の拠点「大宮」の地に
 新しい鉄道博物館ができるのは,さいたま市大宮区の大成地区である。大宮は古くから鉄道の拠点として栄え,「鉄道の町」として知られる。東北本線(宇都宮線)と高崎線が分岐する駅,京浜東北線の始発駅であり,さらには大宮駅南側には,かつて広大な操車場(現さいたま新都心)が広がり,大宮機関区(機関車の基地)があった。現在も大宮駅に隣接して,JR東日本大宮総合車両センター(旧国鉄大宮工場),大宮運転区(運転士が所属する組織),大宮車掌区(車掌が所属する組織)などが集中する鉄道交通の要衝となっている。こうした背景があって旧大宮市時代から,さいたま市や埼玉県では積極的な誘致活動を行い,大宮が新しい鉄道博物館の場所として選ばれたのである。
全景。左が東京方,右が高崎方(2006年11月撮影)
1階平面図
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「歴史ゾーン(仮称)」では車両等の実物展示が中心。時代別のエリアに区分され進化をたどることができる
「教育ゾーン(仮称)」の「ラボラトリー展示」 「教育ゾーン(仮称)」の「原理・仕組み展示」 鉄道模型ジオラマ展示
新幹線と在来線の線路に挟まれたエリアで
 この博物館の建設を担当するのは,当社をスポンサーとする共同企業体。2006年11月30日現在,当社社員10名,JV構成他社の社員3名,派遣社員9名,遠藤智裕所長率いる総勢22名の精鋭集団である。
 旧国鉄出身で当社に中途入社した建築系社員という異色のキャリアの持ち主の遠藤所長はこの現場について,「施工エリアが新幹線と在来線の線路に挟まれています。揚重作業には高さ制限もあります。一番気を遣うのは列車の安全運行です。大屋根を支える鉄骨の建て込みの時などは,大型クレーンでの作業になるため,夜,列車の運行が終了してから作業を行いました。短時間でテキパキ作業ができるように沼尻工事課長が工程の調整に苦労したところです。今も毎朝,大宮新幹線保線技術センターに新幹線の運行ダイヤを山城工務係が取りに行くことから仕事が始まります」と説明する。
断面図
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大空間は飛行機の格納庫のよう
 たくさんの鉄道車両の実物展示を行うには通常の博物館以上に巨大な空間が必要となる。メインの展示スペースとなる「歴史ゾーン(仮称)」 では,レールの敷設が始まっていたが,施工中の今は,まるで飛行機の格納庫のような趣だった。遠藤所長は「何も入っていないと広く感じますが,完成すると,この中に40両近くの車両の実物が展示されますから,これでも少し狭く感じるかもしれませんね」と言う。
 「実際に動く転車台も設置されます。かつて蒸気機関車の頭の向きを変えるために,各地の機関庫で見られたものですが,この博物館のために新しく製作されることになりました」と続け,臨場感のある展示になることを強調する。転車台の基礎工事には土木工事のノウハウが求められるため,土木系の前野工事課長が施工管理を担当した。
 旧交通博物館でも人気の高かった鉄道模型のジオラマも,より大きく生まれ変わる。間口25m,奥行き10mの巨大なもので,軌道延長は1,200mにも及ぶという。取材時には階段状の観客席の施工が進められていた。
建物の東隣は試運転線,在来線の線路 屋上の展望スペースから高崎方を望む。高崎線の特急列車とニューシャトルが通過中 施工中の4階展望ロビー。すぐ隣を通過する新幹線を間近に見ることができる
大成駅(奥の高架上がプラットホーム)の改良工事
展望ロビーから実物の列車の走行風景も
 この博物館では,歴史的な車両だけでなく,実物の列車が通過する風景も見ることができるのも特徴だ。新幹線の高架線路とほぼ同じ高さの4階に展望ロビーが設けられ,JR東日本の全ての新幹線車両を見ることができる。高架脇の軌道を走るニューシャトルとのスピードの差が面白い。屋上も展望スペースとして開放され,新幹線だけでなく高崎線や川越線を走る電車や貨物列車も見ることができる。時間がたつのを忘れそうだ。
 特筆すべきは,総合車両センターからの試運転列車が走行する線路が敷地に隣接していることだろう。2006年の10月には整備が終わったばかりのD51形式蒸気機関車が試験走行した。普段見ることのできない珍しい車両に遭遇できる絶好のポイントとなりそうだ

パンタグラフから駅弁の包装紙までも収蔵
 この博物館が他の博物館と大きく異なる点として,設備工事を統括する吉住設備次長と工藤設備課長は収蔵庫をあげる。収蔵品が,車両の模型,パンタグラフなどの部品,レール,信号,標識,切符,駅弁の包装紙,写真,書物など多岐にわたり,これらを一緒に保管しなくてはならないところが難しいという。このため収蔵庫内の温度や湿度などの環境をどのような条件にするのが良いか,技術研究所や建築管理本部など関係部署と一緒に知恵を絞りながら施設づくりを進めている。

ワクワクする気持ちで創り込む
 博物館が完成すると大勢の来場者が予想され,最寄り駅の大成駅が今のままだと手狭になる。このため,この工事事務所では大成駅の改良工事も担当している。大勢の乗客が乗り降りできるようにプラットホームを拡幅し,駅舎を新設する工事は始まったばかりだが,博物館のオープンに間に合うよう作業が進められている。 
 現場の事務を司るのが青木課長,大塚さん,会田さんの3人。事務所に活気が漲り,緊張感が漂う中に明るく開放的な雰囲気が満ちているのは事務グループのチームワークの賜物だろう。
 遠藤所長の席は,個室ではなく所員全員が見える執務室の一角にあり,長野副所長がすぐ隣に陣取って所長を補佐しながら事務所全体に睨みをきかせている姿が印象的。
 「現場の方針は『ワクワクする気持ちで全員で建物を創り込もう!』です。大勢の来場者の方々に喜んでもらえるような楽しい鉄道のテーマパークをつくりたいですね。完成したら是非遊びに来てください」そう言いながら遠藤所長自ら事務所の玄関で見送ってくれた。
 既に鉄道博物館のHPも開設され,メールマガジンも配信されている。見ているとオープンが待ち遠しい。
完成すると,この大空間に150形式蒸気機関車,ED17形式電気機関車,クモハ101形式電車など36両の車両が展示される
※シンボルマーク,館内イメージイラストは東日本鉄道文化財団提供