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谷を飛び越える大仕事

新名神高速道路川下川橋工事

全長約170kmの新名神高速道路のうち高槻~神戸間の約40kmでは
工事着手率が約90%に達し,今後全線で工事が本格化する。
現在,当社JVは兵庫県宝塚市と神戸市の境にある山間部で川下川橋の施工を進めている。
国内最大規模のコンクリート橋の建設現場を紹介する。

地図

【工事概要】

新名神高速道路川下川橋工事

場所:
兵庫県宝塚市~神戸市北区
発注者:
西日本高速道路
設計:
鹿島・ピーエス三菱JV
規模:
橋長300m
総幅員24.14m(有効幅員10.5m×2)
橋脚2基(高さ25.5m,95m)ほか
工期:
2008年12月~2013年11月

(関西支店JV施工)

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写真:急峻な谷間で施工が進む川下川橋

急峻な谷間で施工が進む川下川橋(撮影:2012年8月24日)

独自の構造形式を提案

JR福知山線・道場駅から車で10分ほど行くと,「V」の字のような急峻な谷間を二つに分けるように川下川橋の橋脚と橋桁が雄大な姿を現す。橋長300m,新名神高速道路で最も高い95mの高橋脚(ハイピア)かつ施工時の張出し架設長が片側110mを有する日本最大級のコンクリート橋である。他工区への土砂運搬道路としても利用するため,高槻・神戸間で最初の本線工事として,総合評価落札方式(デザインビルド)で2008年12月に発注された。当社JVが設計・施工を担当し,昨年12月時点での進捗率は90%超。本工事のデザインビルドの特徴は,道路線形・幅員,土質調査結果などの基本条件以外は,独自の構造形式を提案できる設計施工一括発注方式(上下部一体)だったことである。当社JVは,様々な検討を行った結果,計画地の西側斜面にある断層破砕帯を避けた場所に橋脚位置を決定し,経済的にも優れた上下線一体断面の「PC3径間連続ラーメン箱型橋」を提案し採用された(下図参照)。

図:川下川橋に適用した主な技術

(画像をクリックすると拡大表示されます。)

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100m級の高橋脚と張出し長

現場を訪れたのは昨年8月末,橋桁の張出し架設長が片側80m程となり,これからが佳境という時期だった。「工事に着手した時は,何もなく“ひたすら急峻な山”だけでしたが,ようやく橋の姿が見えてきた」と下條和寿副所長。鷲見橋(岐阜県郡上市)や広島空港大橋(広島県三原市)などハイピアの施工実績を積んできた。「基礎や橋脚などの施工箇所は,いずれも最大傾斜50°を超え,近くにある川下川ダムの関連施設とも近接している非常に厳しい環境だった」と振り返る。クリティカルパスとなったP2橋脚の施工では,大口径深礎の制御発破を併用した掘削,ハイピアならではの高強度コンクリート,セルフクライミングフォームなどの仮設備計画といった数々の工夫をしてきた。

写真:下條和寿副所長

下條和寿副所長

ミリ単位の管理

「今のポイントは“上(あ)げ越(こ)し管理”の難しさですね」と下條副所長は指摘する。“上げ越し管理”とは,桁の自重や移動作業車などの重量により,橋桁が上下するのを予測し,管理値に従って施工していくことをいう。管理値は事前の構造解析により求められ,この管理値と施工した構造物とのズレをミリ単位で管理していく。橋脚から左右対称に「やじろべえ」の原理でバランスをとりながら橋桁を構築する張出し架設工法では一般的な手法である。

川下川橋の設計後,現場に配属された波田匡司工事課長は「通常であれば橋桁の高さのことだけを意識して管理すれば良いのですが,張出しが長くなればなるほど,施工に高い精度が求められます。ハイピアとなると橋脚の“しなり”の影響が大きくなるんです。さらに,日射や気温でもコンクリートが伸縮しますから橋桁の高さは変わります」と説明してくれた。そのため,約500もある施工ステップ毎の測量や,傾斜計・温度計でのリアルタイム計測を行うことで,解析値と実績値を比較し,徹底した施工管理をしている。

写真:波田匡司工事課長

波田匡司工事課長

波田工事課長とともに設計を担当した土木管理本部土木技術部の齋藤公生グループ長は「橋脚断面をコンパクトにしている分,施工時には橋脚の“しなり”の影響は通常より大きくなります。また上下線一体としたことで,橋桁の構造体は重くなるため,橋脚自体が縮むことも考慮しなければなりません。非常に複雑な解析をしています」と明かす。ハイピアのエキスパート下條副所長から「難しい」という言葉がでた理由だろう。

この難しい管理を支えるのが,当社が開発した「上げ越し管理システム」。池山高架橋(三重県亀山市)の詳細設計時に開発したシステムで,これまで10現場で活用しながら,数々の機能を追加してブラッシュアップしてきた。張出し施工中の管理幅は40mmだったが,これまで全て管理値内に収まっている。

写真:齋藤公生グループ長

齋藤公生グループ長

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安全を守る厳しい目

現場を指揮する中野計所長は,職長や作業員と気さくにコミュニケーションをとりながら,安全や品質について問題がないかを丹念に確認していく。現場を案内してくれた尾鍋卓巳副所長は「所長が現場を巡視すると“凛”とした空気が流れ,現場が引き締まる」と話す。昨年11月末時点での延べ労働時間は約56万時間。土砂運搬道路としての使用開始に間に合わせるため,昼夜2交代で工事を進めてきた。厳しい環境のもと,着工から無事故・無災害を続けている。「現場で何か悪いところを見つけたら,必ずその場で直してから事務所に戻るように常に言っていますよ。たとえ社内外へ急ぎの報告があったとしても,自分たちがまず優先すべきは現場を守ることだとね」と中野所長。朝礼看板に掲げられている所長方針の一番上にあった“S:安全を第一とする”というシンプルで明瞭な言葉に重みを感じた。

写真:昼夜2交代で工事が進められてきた

昼夜2交代で工事が進められてきた

写真:現場内でのコミュニケーションを大切にする中野計所長(左から2人目)と尾鍋卓巳副所長(左)

現場内でのコミュニケーションを大切にする中野計所長(左から2人目)と
尾鍋卓巳副所長(左)

写真:着工から無事故・無災害を続けている

着工から無事故・無災害を続けている

「谷を飛び越える大仕事」(下條副所長)は,昨年11月12日に主桁が連結し一つの区切りを迎えた。「今まで誰も経験したことのない橋を,安全・品質を確保しながら厳しい工期を守り,無事につなげたことは価値ある仕事だと感じています。ただ,これからも高所作業が続くので,竣工までは気が抜けないですね」と尾鍋副所長。

今月中旬には連結式が行われる予定で,川下川橋の初仕事である土砂運搬道路の役割を担いながら,高槻~神戸間の2016年度完成を待つ。

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写真:「谷を飛び越える大仕事」。今月中旬には連結式が行われる予定

「谷を飛び越える大仕事」。今月中旬には連結式が行われる予定

写真:連結を前に川下川橋に関わった人たちが集まった

連結を前に川下川橋に関わった人たちが集まった

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新名神高速道路とは

名古屋市と神戸市を結ぶ全長約170kmの高速道路である。名神高速道路,中国自動車道など周辺の高速道路とともに,近畿圏と中部圏を結ぶ高速道路のダブルネットワークを形成する。これにより,円滑な交通の確保に加え,災害や事故,既存高速道路の大規模改修の際には,代替道路としての機能を発揮する。

新東名高速道路ともつながり,国土の大動脈として三大都市の連携強化が図られる。

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