KAJIMAエコプラザ


KAJIMA ECO PLAZA

カニ護岸パネルで内湾の生態系を再生
東京湾では,かつてうなぎやハゼなどの魚が豊富に採れました。近年,沿岸部の埋立てが,こに住む魚たちの数を減らしています。
今月は,この問題の解決策として期待される,当社が考案したカニ護岸パネルについて紹介します。


カニ  東京湾で採れた新鮮な魚は江戸前と言われ,江戸時代から伝わる日本の食文化となっています。今日では,漁獲高の減少からその伝統も危ぶまれ,資源保全・再生のための水質の改善や,稚魚の放流などの活動が,企業,自治体レベルで行われています。
 当社の技術研究所・葉山水域環境研究室では,海洋構造物の構築から水生生物の調査・研究まで,海洋に係わるさまざまな研究活動を行っています。近年では,東京湾・内湾の食物連鎖に着目し,ここに生息するマハゼが減少しているのは,マハゼの稚仔魚期の餌料となるエビ・カニ類の減少に原因があると発表しました。
 実際,湾内の護岸の多くはコンクリートで覆われ,かつて生息していたカニの姿がほとんど見られなくなってきています。たいらなコンクリートはカニの隠れる場所がなく,住むことができないのです。
カニ護岸パネルの断面図 そこで実際に生息している石積みの護岸を参考に,「カニ護岸パネル」というコンクリート製の部材を作りました。パネル1枚の大きさは幅2m,高さ2.5m。カニが歩ける凹凸と,隠れ場所としての目地を入れ,照り返しが小さい黒灰色にしました。また,裏まで貫通する穴を設け,裏の部分には住みかとなる小石や土砂を充填させました。
 これを1年間研究室に設置し,実際にカニを飼育しながら効果を検証しました。その実験を通じ,カニの生存に必要な湿った環境をつくる「ウエットコンクリート」も開発しました。水分を吸水・保水する機能を備えた画期的なコンクリートは,パネル裏面の部材として重要な役割を果たしています。
 当社では,このカニ護岸パネルの他にも,干潟機能を持った緩傾斜護岸を考案しています。これは緩い傾斜をつけてつくった石積みに,直径1〜2mのくぼみを配し,そこに浚渫土を入れ,ウナギやハゼ,カニ,ゴカイなどが成育する場を提供するというものです。
 水生生物の生活空間を創出し,ひいては食物連鎖を復元することを目的とした近自然型護岸。これが沿岸魚介類の資源の保全・再生産にも寄与し,身近な内湾の再生につながるのです。


カニ護岸パネルは,既存もしくは新設の護岸の前面に設置する
カニ護岸パネルは,既存もしくは新設の護岸の前面に設置する

ウェットコンクリート 干潟機能を持った緩傾斜護岸
ウェットコンクリートは水際のコンクリート構造物に用いると,緑豊かな水辺空間をつくることができる
干潟機能を持った緩傾斜護岸