ザ・サイト

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汐留住友ビル建設工事

100tクラスの巨大鉄骨柱を一気に立ち上げる
数々のビルの竣工ラッシュに沸く東京・汐留シオサイト。歴史的な巨大プロジェクトが
全容を現しつつあるなか,ひときわ個性的な「汐留住友ビル」の建設が進んでいる。
今月のザ・サイトでは,当現場で行われた前例のないダイナミックな工法
「巨大鉄骨柱の一気立上げ工法」を紹介する。

工事概要
汐留住友ビル建設工事
場所:東京都港区東新橋一丁目
発注者:住友生命保険,住友不動産
設計:日建設計
規模:S造,SRC造,RC造 地下3階,地上25階,塔屋2階 延べ99,400m2
工期:2002年4月〜2004年7月
工事概要
シオサイトに誕生する新たなまちの顔
 地上25階,下層階がホテル,上層階がオフィスとなるこのビルの最大の特徴は,1階ホテルロビーから11階レベルまで高さ40mを超えて吹き抜ける大空間。新交通システム「ゆりかもめ」の汐留駅側に面する建物の北西角,その低層部に食い込むように直方体のガラス張り空間が築かれる。
 工事は現在佳境に入っている。5月末には工事のハイライトともいえる,吹き抜けを囲む7本の鉄骨柱の建て方が行われた。一本あたりの高さが42m,重さは93tにも及ぶこの「巨大柱」を一気に立ち上げようというのだ。

半球の突起物が設けられた台座(左)。六角断面の柱下部は台座に収まるようにくりぬかれている(右)。
空中ショーのような立上げ作業
 取材に訪れたのは,二本目の柱を立ち上げる日の早朝。ヤードに整然と6本の柱が横たわっている。立上げが始まった。柱を宙吊りにする650t級クレーンと柱上部をつなぐワイヤが連結される。柱下部にも別のクレーンのワイヤが連結された。はじめに下部が1mほど吊り上げられて静止する。その状態で,上部を連結したクレーンが吊り上げを始め,巨大な柱が垂直に立ち上がっていく。完全に垂直になった後に柱下部のワイヤは外され,柱は宙に浮く状態となった。そのまま柱は空中をクレーンで誘導され,台座のある所定の位置に降ろして設置は終了。立上げ開始から15分程しか経っていない。
 次に,他のクレーンが柱と躯体をつなぐ2つの梁を吊り上げる。梁は11階まで建ち上がった躯体の最上部まで運ばれ,巨大柱は梁を介して躯体にボルト接合された。ここまでの工程もわずか2時間程度。「巨大柱の一気立上げ」に気構えていたが,呆気ないほど短時間で終了した。その間,鳶職人をはじめ作業員たちの手際の良さは見事というほかない。各人が役割をしっかり認識し,大きな掛け声とともに作業を進めていく。まるで何度もリハーサルが繰り返された空中ショーを観ているかのように,工程はスムーズに進んでいった。

11階まで建ち上がった躯体の全景
完成予想パース
鉄骨柱は,短時間でみるみる垂直に立ち上がっていく
周到な準備とチャレンジ精神
 この「一気立上げ工法」でいく―と決めるまでには,様々な検討がなされていた。もともと柱は3ピースに分割されて搬入され,現場で1本に溶接される。当初はまず1/3の長さの1ピースを立ち上げ,その上に残りのピースを溶接で継ぎ足していく工法が有力だった。しかし課題となったのが,柱が地上に固定されずに「載せられる」だけの特異な設置形態だった。地上の台座には半球状の突起物が設けられ,柱の下断面はそこに収まるようにくりぬかれている。設置後はこの部分が「関節」の役割を果たし,柱の左右方向への揺れを許容するように設計されている。完全に固定してしまうと,地震時の横の力で柱が折れてしまうことを避けるための措置だ。現場の三原工事課長は語る。「柱を継ぎ足していく工法では,作業中に柱を固定するための足場などが必要となります。また柱ピースの溶接が高所作業となり,安全面や溶接精度の確保が課題でした」。
 「一気立上げ工法」と「継足し工法」は,コスト・工期などが徹底的に比較された。一気立上げ工法で用いる650t級クレーンは自重だけで600tにも達する。その重みを支える一階のコンクリート床版を補強する目的で,地下に厚さ60cmにも及ぶ巨大なコンクリート製の仮設梁を構築する必要もあった。結局,若干のコストアップにはなるものの,11日間の工期短縮が決め手となって一気立上げ工法が採用された。
 現場一筋30年。あらゆる用途の建築工事を手掛けた金子所長の柔軟で大胆な発想,そして設計者やプロジェクトにかかわる多くの技術者たちのチャレンジ精神が,この前例のないダイナミックな工法を実現したのだ。

鉄骨柱を吊り上げる650t級クレーン
課題を共有して知恵で克服
 工法の決定と,決定してからの周到な準備・検討は,協力業者,鳶職をはじめとする職人たちも一体となって進められたという。実工事での見事な手際は,あらゆる課題の洗い出しと,それを克服する知恵を全員が共有していた証でもあったのだ。
 金子所長が語る。「我々現場管理者は,極論すれば“手を動かす”という意味では何もしていない。だからこそ先手の管理とQCDSEのバランスを大切にして,常に全員が持てる最高の力を発揮できる“場”を提供することが,我々に課せられた役割なのです」。シオサイトの新たな顔となる本ビルの竣工予定は来年7月。今日も職人たちの威勢の良い掛け声が響く現場には,「ものづくり」の楽しさを若い世代に伝える所長の心意気が隅々まで浸透している。
躯体最上部での柱と梁の接合作業
金子所長