特集:魅せる――建築のリニューアル

価値ある建物の保存〜20世紀の名建築を21世紀に蘇らせる〜
 高度成長期に建設された建物が築40年を経過し,建替え,リニューアルの選択を迫られる時期を迎えている。こうした建物の中には,建築技術の発展に多大な影響を与えたもの,歴史に残る建築美を誇る作品などが数多く含まれている。
 いま,こうした“建築としての価値”に目を向け,優良な建物を永く保存し有効に活用していくリニューアル事例が増えてきた。1963年竣工,日本建築学会賞を受賞した20世紀の名建築「ダヴィンチ銀座(旧リッカー会館)」のリニューアルを紹介する。
改修後
工事概要 
ダヴィンチ銀座 
場所:東京都中央区 
発注者:ダヴィンチ・アドバイザーズ 
設計:当社建築設計本部 
規模:SRC造 B3,9F,PH3F 延べ12,804m2 
リニューアル:耐震補強,内装・外装改修,設備更新ほか 
2003年11月竣工(東京支店施工)
改修前
社会情勢の渦に巻き込まれた名建築
 東京都中央区銀座6丁目。JR有楽町駅に程近い利便性に優れたロケーションに建つ「ダヴィンチ銀座」は,オフィスと店舗が入居するテナントビルだ。
 当ビルは,当社の設計・施工で1963年にリッカーミシン本社ビル「リッカー会館」として竣工。黒を基調としたシンプルでエレガントなファサードデザインは,上質な銀座の街並みにマッチした。技術面では,西日を遮断するために,現在では環境配慮建築の主流となったダブルスキンの考え方を当時から導入,また超高層建築の外装の主流となったカーテンウォールシステムを我が国で初めて本格的に採用した。建築美と先駆的建築技術を導入したオフィスビルは,1963年度日本建築学会賞を受賞した。設計は,鹿島昭一副社長(現最高相談役)が担当している。
 しかし,1980年代半ばから所有者がかわり,本社ビルからテナントビルの形態への変化を余儀なくされる。テナント各自で設備面,セキュリティ面を制御できない環境は,オフィスビルとしての価値を低減させた。また,空調負荷の増加に伴いバルコニーに空調機を増設し,竣工時の建築美は姿を消してしまった。
「建替え」「リニューアル」の選択
 2002年にダヴィンチ・アドバイザーズの運用する不動産私募ファンドが所有することになり,建物の資産価値向上を目的に,大規模なリニューアル計画が実施された。「建替え」ではなく「リニューアル」を選択したのは,現行法のもとでの建替えは,現在の床面積を確保することが不可能なことが大きな要因だった。商業施設が軒を列ねる銀座にはオフィスビルが非常に少ない。利便性のよい立地はオフィスとして大きな魅力であり,床面積の確保が最大の条件となった。
その一方でデザイン性,建築物としての価値に対し,事業者からの高い評価があった。こうした経緯から,優良な社会資本の保存に着目し,“20世紀の名建築を21世紀に蘇らせる”をコンセプトに,総合的なリニューアル工事が行なわれた。
 2003年11月,「ダヴィンチ銀座」は,競争力のあるテナントオフィスビルとしての機能性と,竣工当時の美観と格調を兼ね備えたインテリジェントビルとして再生された。このリニューアル実績は,優良な建築ストックの形成に寄与したと認められ,本年度の「BELCA賞・ロングライフ部門」(建築・設備維持保全推進協会主催)という価値ある賞を受賞した。
名建築を蘇らせたリニューアル技術――ダヴィンチ銀座
施工のプロセス
 テナントが営業を継続しながらの工事だった。“プロセスが商品”というリニューアル工事の大前提を厳守し,執務環境に与える影響を最小限にとどめるよう努めた。工事は下階から順次上階へ施工することにした。所有者,テナントの協力を得て,工事が完了した下階へ,上階のテナントが順次移転する。この繰返しで,最上階(9階)までの工事を行なった。

ダブルスキンの継承とファサードデザインの復活
 この建物は西側が正面のため,眺望を損なわずに西日を遮断する施策として,当時としては画期的なダブルスキンの考え方が導入された。外壁の外にバルコニーをとり,そこに熱線吸収ガラスを取り付け日除けとしたのである。
 今回のリニューアルでは,ダブルスキンシステムをこのまま継承し,バルコニー部に設置された冷房用室外機を全て撤去し,屋上に集約設置した。
竣工当時のダブルスキンのカーテンウォール 改修前のバルコニーには室外機がならび美観が失われていた
外装デザインに影響を与えない耐震補強
 1981年改正の建築基準法よりも2世代前の耐震基準により建設された当ビルは,耐震補強が必須だった。ファサードデザインに影響をあたえずにコストパフォーマンスに優れた耐震補強法が検討された。その結果,柱の補強に,鉄筋コンクリート巻立て補強と鋼板巻き補強を採用したほか,構造スリットの新設や壁の増打ち補強を行い,建物全体の耐力と粘り強さを向上させた。
柱を鉄筋コンクリート巻立て補強した後,鋼板巻き補強する 柱補強概念図
RC壁の増打ち補強
テナントオフィスビルとしての価値の向上
● 地下2階に配置されていた受変電設備・熱源設備を屋上に集中設置した。これにより,地下2階の貸室面積が増大し,レンタブル比が向上した。
● 自社ビルからテナントビルへの用途変更に伴い,様々なニーズに対応すべく各階を4つのエリアに分割した配電・空調計画を行い,個別制御を可能にした。
● 各テナントごとに,入退出管理,夜間無人時の機械警備による防犯対策などのセキュリティ設備を完備した。
改修前のオフィスフロア 改修前のエントランス 屋上に集約された設備一式
改修後 高級感のあるエントランスとなった



Phase 1 企業ブランドを建築で表現したリニューアル
Phase 2 価値ある建物の保存〜20世紀の名建築を21世紀に蘇らせる〜
Phase 3 施設の特性を生かしたリニューアル