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平成23年度土木学会賞「環境賞」を,
当社の「いきものを利用した都市インフラの緑地管理手法の研究」が受賞しました。
都市部の緑地を維持管理するユニークな方法が評価されました。
どんな“いきもの”を利用しているの? 生物多様性との関わりは?
プロジェクトメンバーがお答えします。

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増加する都市部の緑地

近年,都市部では屋上緑化や壁面緑化などが増えているというニュースを良く耳にします。加えて,浄水場や下水処理場などの都市インフラにも,災害時の避難場所や地域に暮らす人々の憩い・ふれあいの場として,大規模な緑地が整備されています。また,大型再開発事業にともなう都市公園整備や校庭の芝生化などが推進され,昭和49年から平成23年にかけて東京23区の公園は,面積比で2.8%から6.4%へと増加しています。

一方,緑地は造るだけではダメで,定期的に芝刈り機などで除草することが必要です。除草を怠ると,ハエ・蚊・ネズミなど害虫・害獣の発生源や,ゴミのポイ捨てなどが増え環境が悪化するからです。しかし,維持管理費削減などにより,多くの緑地で除草頻度が不足しているのが現状です。また,芝刈り機は大きなエンジン音を出すため,せっかくの憩いの場が台無しになってしまいますし,大量のCO2も発生します。除草後に発生する雑草のゴミ処理も問題でした。そこで私たちは,“人手要らず”で“環境にもやさしい”新たな緑地管理手法を模索してきました。

ヒントはセントラルパークにあり

造園の父と呼ばれるフレデリック・ロー・オルムステッドの文献を精査していた時,20世紀初頭のニューヨーク・セントラルパークにヒントを見つけました。都市景観のひとつとしてヒツジを飼育し,雑草を食べてさせていたのです。「これだ!」と直感しました。ヒツジより東京の気候に適しているヤギで試すことを決めました。東京都調布市の当社社宅に付属した緑地約1,000m2で,2010年3月から実験を開始。人が暮らすなかでのヤギによる緑地管理です。不安もありましたが「とにかくやってみよう!」とプロジェクトメンバー全員が声を揃えました。

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ヤギが美味しそうに雑草を食す

まず,ヤギによる除草効果を確認していきました。この場所で雑草となるのはセイタカアワダチソウ。北アメリカ原産の外来種で,除草しないと高さ1m〜2mくらいまで成長し, 1階の一部を覆ってしまいます。これまで年間2回芝刈り機による除草を行っていました。ヤギで除草したところ,美味しそうに食べてくれるではありませんか。約1ヵ月で1,000m2のセイタカアワダチソウなどの雑草を全て除草できました。

次に,係留方法を検討しました。都市部でヤギを飼育して,逃げだしては大変です。山里での飼育は電気柵で囲う方法が一般的ですが,人の生活空間で電気柵は使えません。ワイヤーを地面に固定して,複数頭のヤギを係留する方式を採用しました。決められた範囲での飼育に適しているので,除草目的には最適です。

図:約1ヵ月で1,000m2の雑草を全て除草

約1ヵ月で1,000m2の雑草を全て除草

写真:ワイヤーを地面に固定して,複数頭のヤギを係留

ヤギとニワトリのマリアージュ

初年度の実験では,ヤギが食べないドクダミやヘビイチゴなどの除草が課題でした。そこで,これら臭いの強い草を食べるいきものを調査し,2年目からはニワトリ(鳥骨鶏)を飼育することに。

狙いどおりヤギが食べ残した草をきちんと食べてくれました。ヤギがいることで外敵となる猫やカラスを気にせず,食べることに集中できるメリットも。ヤギとニワトリは,お互いをサポートしながら共同作業をしているのです。

写真:ヤギとニワトリの共同作業

ヤギとニワトリの共同作業

写真:ヤギが食べ残した雑草を除草するニワトリ

ヤギが食べ残した雑草を除草するニワトリ

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生物多様性都市へ

都市部でヤギを飼育するからには,住民や周辺で暮らす人々の意識を知っておくことが大切だと考えました。実験開始から3回のアンケートを実施。実験前は「鳴き声や臭いが心配」という声が多くを占めましたが,実験後には「親子で自然環境に関する会話が増えた」「自然の豊かさを感じる」など好意的な意見を頂きました。このアンケート結果は,私たちの大きな自信となっています。今,新たな緑地管理方法としてお客様に提案を始めたところです。

もうひとつ紹介しておきたいのが,ヤギとニワトリからの恩恵です。ヤギからはミルク,チーズ,ヨーグルトなど,ニワトリからは卵と沢山のご馳走を頂くことができます。毎年,近隣住民の皆さんを招きヤギやニワトリと触れあう環境教育イベントを開催し,搾りたてのヤギ乳や烏骨鶏卵を味わってもらっています。社宅のいきものは近所の人気者へと成長しました。

私たちは“いきものにぎわうまち〜生物多様性都市へ〜”をコンセプトに,これまで都市にニホンミツバチ,コゲラ,カニなどが生息できる環境をつくり,都市部の生物多様性を少しずつ再生してきました。これからはヤギとニワトリを仲間に加え,さらにパワーアップです。

図:生物多様性都市へ

写真:美味しい搾りたてのヤギ乳

美味しい搾りたてのヤギ乳

写真:社宅のいきものは皆の人気者

社宅のいきものは皆の人気者

写真:新しい友だちができた

新しい友だちができた

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コラム:やぎの参勤交代「やぎか〜ご」

ヤギに都市部で除草させるためには,草が育たなくなる冬期や交尾・出産期には,ヤギを里に帰してあげる必要があります。今年度からNPO法人「雨読晴耕村舎」(埼玉県羽生市)と連携して,「都市で緑地の除草」「郊外で休耕地の除草」をする仕組みを創生。“ヤギの参勤交代”と呼んでいます。ヤギの移動には籠でなく,「やぎか〜ご(軽トラック)」を利用しています。

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 “いきものにぎわうまち〜生物多様性都市へ〜”の実現に向けて

当初,このプロジェクトは生物多様性を意識せずに,都市部の緑地を維持管理する新たな方法を探ることからスタートしました。芝刈り機を使った除草で発生する「騒音」「CO2」「植物性廃棄物」の3つをゼロにする“トリプルゼロ”が目標でした。ところが社宅での実験が2年を過ぎた頃,生物多様性に関して新たな発見がありました。外来種のセイタカアワダチソウが衰退し,日本の在来種であるイネ科植物が勢いを取り戻したのです。継続する大切さを学びました。土木学会賞「環境賞」もこの発見の結果だと思っています。目指す世界の実現には,まだまだ時間がかかりますが,一歩ずつ着実に進展しています。私たちの取組みは,ツイッター「いきまち通信」やWEBサイト「いきものにぎわうまち」で随時発信しています。是非,検索してみてください。

写真:左から環境本部・環境ソリューショングループ 曽根佑太課長代理,吉村美毅グループ長,山田順之次長,青木忠尚グループ員    

左から環境本部・環境ソリューショングループ 曽根佑太課長代理,吉村美毅グループ長,山田順之次長,青木忠尚グループ員

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