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完成へ:市民の期待に応えて

素屋根解体

2009年にはじまった“平成の大修理”。瓦や漆喰などの保存修理工事が終わり,現在,素屋根の解体が行われている。「工事の成功は,素屋根の解体を無事完了させることにかかっています」。解体工事を指揮している河原茂生所長はいう。ボルトのひとつでも落下させて城に傷がつけば,もう一度足場を設置しなければならない。安全には最大の注意を払いつつ,できるだけ大きなユニットで鉄骨を解体し,揚重回数を減らして工程を前倒しする。工事で発生する粉塵による目地漆喰の汚れ防止も重要な課題だと河原所長は話す。「これから素屋根の基礎コンクリート解体が待ち構えています。万全の粉塵対策を施す必要がありますので最後まで気が抜けません」。

解体工事の主役である鉄骨鳶を取り仕切るのが,松本工務店職長の岡田祐樹さんだ。「自分が信頼できる職人に集まってもらった」という岡田さんは,素屋根建設時にはひとりの職人として工事に携わっていた。「自分が架けたところは手に取るように覚えている。職長になって責任は増しているが,その分やりがいがある」。クレーンのオペレータと連携を取りながら,工事を進める。

図版:河原茂生所長(右)と松本工務店の職長岡田祐樹さん

河原茂生所長(右)と松本工務店の職長岡田祐樹さん

図版:現場では鉄骨の解体が進む

“現場では鉄骨の解体が進む

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職人の誇り

工事を進めるなかで「まぼろしの窓」を発見したのが,設計監理を務める文化財建造物保存技術協会の加藤修治所長だ。「文化財は現在に至るまでの変遷を紐解くのが面白い。一番のヒントは現地にあります」という加藤所長は,現地で壁に窓建具用の溝があることを確認。かつて窓があったことを突き止めた。この快挙は新聞各紙でも取り上げられた。「調査も確実に行いながら,厳しい工期を守ってよくここまで来られた。職人さんに恵まれましたね」。

「この工事が他と違う点は注目度の高さ」と野崎総合所長は語る。“いつお城が見えるのだろう”という市民の期待に応えたい一心で,緊張感とプレッシャーのなかで現場はベストを尽くしてきたのだという。現場の見学会なども精力的に行ったほか,現場に隣接して設置した一般公開施設「天空の白鷺」では,市民に作業の様子を公開した。見られながら作業をするという経験は,国宝の姫路城に携わることができたからこそ。職人の誇りが現場を支えた。

「今回の修理作業で,伝統技術の伝承と保存修理の価値に対する啓発を行えたと思っています。この勇壮で優美な姫路城が,世界の人々に感動を与え,そして地元出身者の人々の“心の故郷のシンボル”になり続ければ幸いです」。

図版:文化財建造物保存技術協会 加藤修治所長

文化財建造物保存技術協会 
加藤修治所長

図版:現場見学会の様子。市民に現場の様子を積極的に公開した

“現場見学会の様子。市民に現場の様子を積極的に公開した

図版:「まぼろしの窓」

「まぼろしの窓」

図版:合掌梁の解体作業。最後まで細心の注意を払いながら作業が続く

合掌梁の解体作業。最後まで細心の注意を払いながら作業が続く

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Voice 試練の元年

構造補強に苦心

姫路城の大天守保存修理に現地着工しておよそ4年半が経ちます。実際に検討自体は1995年にはじまっていますが,そのなかで私は足掛け10年携わってきました。一番苦心したのは,構造補強です。2006年2月に開催された保存研究会では,大天守に補強を施さないと構造的にもたないという結論に至りました。これまで400年保ってきたものですから,できることなら補強せずに進めたい。文化財に携わる人間は大方同様の考えです。姫路城には,ありのままの姿であってほしいという気持ちがある一方,公開施設ですから市民の安全を守らなくてはならない。その二律背反には様々な思いを巡らせました。

木造の構造解析は発展途上の技術ということもあり,解析結果に加えて様々な実験を行ってきました。そのなかでも一番大きな結果が出たのは,実物大の壁の破壊試験です。モックアップを製作して破壊したところ計算よりも1割ほど強かった。この結果で補強する箇所が変わっています。

図版:姫路市役所産業局 姫路城総合管理室 小林正治 課長補佐

姫路市役所産業局
姫路城総合管理室
小林正治 課長補佐

“工事現場”に184万人の観光客

もうひとつ触れておきたいのが「天空の白鷺」です。姫路市の観光の中心が姫路城だというのは紛れもない事実で,その点から姫路城の常時公開は計画段階から必須メニューでした。私はひとりの技術者として文化財修理の方法や熟練した職人の作業の様子などを市民の皆さまにご覧いただき,文化財建造物の保存について広く知らしめたいと考えていましたが,念願叶い「天空の白鷺」が公開されることになって驚きました。ここまで反響があるとは思っていなかったのです。最終的な来場者は184万人。いわば“工事現場”にこれほどの方にお越しいただけるとは思っていませんでした。工事は安全第一で進めなければならず,職人さんが気を散らして怪我でもしたらと思っていましたが,見られることで逆に職人のプライドに火がついたようです。技術の広報という意味でも一定の役割を果たしたのではないでしょうか。

試練の元年

素屋根の解体も順調に進み,そろそろゴールが見えてきました。なによりお願いしたいのが,これまでと変わらず安全第一で作業をしてほしいということです。注目されている現場だけに,小さなミスでも大きく取り上げられてしまいます。ひとつのミスで長年かけて築いてきたものが崩れかねません。鹿島JVが細心の注意で工事を進めていることは承知していますが,市の担当者としては最後の最後まで気が抜けないというのが正直なところです。

いよいよ素屋根が外されて,漆喰と瓦が白日の下に晒されます。白鷺がどこまで美しさを保てるのか,これから真の意味で工事の成果が試されることになります。いつまでもきれいな姫路城であってほしいというのがみんなの願いです。そうした意味でこの一年は,試練の元年になるとも思っています。

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