ホーム > KAJIMAダイジェスト > June 2014:特集「姫路城 ──よみがえった白鷺」 > 素屋根:大修理へのプロローグ

KAJIMAダイジェスト

素屋根:大修理へのプロローグ

例のない複雑な素屋根

今回の保存修理工事では,大天守の屋根修理と漆喰塗りかえが主な作業となった。瓦や漆喰を解体し,保存状態などを調査した後に傷んでいる部分を修理していく。その間,瓦と漆喰を除去した状態の大天守を雨風から保護し,作業足場を確保する「素屋根」で大天守を覆う必要がある。素屋根は鉄骨造。仮設工事でありながら,計画当初から素屋根建設が難工事になるとみられていた。

その理由が,姫路城の規模と複雑な形状だ。通常,社寺は低層であることが多く,この場合は一定形状の鉄骨を側面で構築して,水平に移動させるスライド工法を用いることができる。しかし,姫路城の大天守にかける素屋根は8階建てで高さは50mを超える。そのうえ,大天守はいくつかの小天守や渡り櫓で囲まれているため,城の頭上で鉄骨を組んでいく必要があるのだ。当然,大天守を傷つけることは許されない。

「これほど複雑な素屋根は他に例がありませんから,まずは徹底的に現地の測量を行いました」。そう話すのは,現場の総指揮を執ってきた野崎信雄総合所長だ。超高層ビルから発電所のサイロまでおよそ50現場を経験してきた野崎総合所長は,姫路の出身。小学生のときに“昭和の大修理”を目の当たりにし,心柱の祝曳きの光景は今でも心に焼きついているという。「姫路城を見て育ったことも影響しているのでしょう。素屋根の設計図を一目見て難所がわかりました」。狭く入り組んだ中庭などでは鉄骨が城の屋根まで10cmの距離に迫るところもある。野崎総合所長は,測量結果を基に素屋根の設計図を修正し,綿密に素屋根の施工計画を練った。

図版:野崎信雄総合所長

野崎信雄総合所長

図版:“昭和の大修理”の様子。当社が素屋根の施工を担当した

“昭和の大修理”の様子。当社が素屋根の施工を担当した

図版:姫路城大天守保存修理工事 工程表

姫路城大天守保存修理工事 工程表

改ページ

様々な制約条件

もう一つの難点が制約条件の多さだ。文化財保護法と消防法による規制から火気は使用できず,世界遺産であるためヴェニス憲章により「形状・材料・工法・位置」を変えないように工事を進めなければならなかった。姫路城の大天守が建つ地面の下には,羽柴秀吉の時代などの史跡が埋まっているため地面に傷をつけることもできない。

「杭を打つことができないため素屋根は自重だけで建つ必要があります」と野崎総合所長。その重量は鉄骨と砕石,コンクリート,鉄筋,すべて合わせておよそ5,500tにもなる。地盤を傷めないように地盤沈下の解析・検討を行い,当初予定から砂利を厚くして地盤をつくった。基礎を固めることで荷重のかかる面積が広がり,地盤を傷めずに施工することができる。鉄骨の組み立て手順はCGとアプリ,模型を使ってシミュレーションし,渡り櫓の隙間や複雑に重なる屋根の軒下に工事用の足場を巡らせて作業の効率化や安全対策を図った。鉄骨の連結は溶接ができないためすべてボルト締めで固定している。

困難を乗り越えて作業は進み,2010年12月に素屋根鉄骨が完成。壁面には実物大の姫路城を写したシートとパネルが貼られた。「この現場は“最新技術”と“伝統技術”の両方がなければなしえない」と野崎総合所長はいう。柔軟な発想と工夫に最新技術を駆使して完成させた素屋根に,ここからはじまる保存修理では,瓦と左官,宮大工,それぞれの職人がもつ伝統技術が光る。「意識が高く,腕の確かな職人が揃いました」。

この後,完成した素屋根の内部で修理工事が行われていく。

図版:鉄骨の組み立て手順はCGなどを使ってシミュレーションした

鉄骨の組み立て手順はCGなどを使ってシミュレーションした

図版:大天守と小天守の隙間を縫うように組まれた鉄骨。作業には高い精度が要求された

大天守と小天守の隙間を縫うように組まれた鉄骨。作業には高い精度が要求された

改ページ

図版:地面に敷いた土木シートの上に築かれた直接基礎が5,500tの重量を支える

地面に敷いた土木シートの上に築かれた直接基礎が5,500tの重量を支える

図版:完成した素屋根。この内部で保存修理作業が行われる

完成した素屋根。この内部で保存修理作業が行われる

ホーム > KAJIMAダイジェスト > June 2014:特集「姫路城 ──よみがえった白鷺」 > 素屋根:大修理へのプロローグ

ページのトップへ戻る

ページの先頭へ