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対談 300mに凝縮された技術と情熱 横浜環状北線鉄道交差部新設工事,技術の伝承

今年2月,超難工事といわれた線路直上での架設が完了した。
本工事を統括する東日本旅客鉄道東京工事事務所神奈川工事区の村上実区長をお招きし,
当社JVの現場代理人である三浦信幸所長と,これまでの工事を振り返ってもらった。

写真:村上 実

村上 実 (むらかみ みのる)
東日本旅客鉄道 東京工事事務所 神奈川工事区長

1957年生まれ。1981年旧国鉄入社。
信濃川工事局に配属の後,調整池等の施工監理を担当。
1992年から東日本旅客鉄道総合企画本部にて
秋田新幹線事業化等の検討業務担当を経て,
1997年6月東京工事事務所へ。
2008年8月同事業所東海道・総武課長。
2012年6月同事務所次長。
2014年6月より現職。

写真:三浦信幸

三浦信幸(みうら のぶゆき)
鹿島・前田・京急建設工事共同企業体 JR横環交差部工事事務所長

1964年生まれ。1987年鹿島入社。
土木設計本部に配属の後,横浜支店静岡営業所管内の
主に新東名高速道路の橋梁・造成等の現場勤務を経て,
2005年に遠州鉄道高架工事事務所長。
2007年5月JR横須賀線武蔵小杉新駅工事事務所副所長。
2011年8月同所長。
2012年2月JR横環交差部工事事務所副所長。
2013年12月より現職。

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いよいよ後戻りができない戦いが始まる

村上 工事区長として,この工事を担当して丸2年が経ちました。線路上空における曲線桁の送り出しと横取り架設は実績がなく,本社から難易度の高い工事に指定されたこともあり,担当前から高い関心を寄せていました。様々な方面から注目をされていましたので,現場はプレッシャーがかかるなかでのスタートだったのではないですか。

三浦 相当な困難が待ち構えているだろう,と覚悟を決めて現場に乗り込みました。ちょうど4年半前のことです。本格的なスタートに向けて,基礎と最初の桁を送り出す工事の準備が始まる頃でした。

村上 首都圏の重要路線10線の直上が工事場所で,毎日2,000本もの列車が通過します。さらに,縦横の曲線や分岐接続,架設の桁がわずか数cmの間隔で密接する複雑な構造です。当社でも事例がほとんどありませんでした。

三浦 乗降り部(出入口)が,工事区間にあり,途中で枝分かれして,橋桁は7本にもなる。当然,桁架設は難易度の高いものとなります。初めて本線(上り)の桁を,横須賀線の線路上空に送り出した時には,いよいよ後戻りができない戦いが始まるんだ,と強く感じたのを思い出します。

村上 あの日からは,運転士にとっても日々見える景色が変わっていきました。異常や不安を感じて,電車を止めることがないよう,事前にイメージ写真を作成し,周知徹底を行いました。施工の面では,鹿島JVと行っている施工計画書検討会での議論が,送り出しの半年前くらいから,熱がこもってきました。

三浦 そうでした。何度も,施工ステップや機械,装置などに欠陥がないか,想定されるトラブルに見落としがないか,約2時間の作業時間でのサイクルタイムをどう確立するか,核心に辿りつくまで徹底的に議論していきました。

村上 非常に難易度が高い工事ですので,首都高さんからも助言をもらいながら,本社や構造技術センター,工事事務所が一丸となり,プロジェクトに挑みました。

三浦 当社も,本社・支店など様々な部署・部門に対応をお願いして,支援をしてもらいました。施工計画の検討では,村上区長ほかJR東日本の皆さんから,多くのご意見を頂きました。

村上 少し心配しすぎだと思ったのではないですか?(笑)

三浦 そんなことは,ないですよ(笑)。鉄道営業線上での工事ですから,安全はすべてに優先する,と理解しています。投げかけられた課題に対して,ベストな答えを出していく,その責務があると考えていました。ただ,ベストと思っても,実際に施工してみると桁が思った方向に進まないなど,改善の余地が見つかります。少しでも不都合があれば,根本から見直しを行いました。常に改善を試み,送り出し架設も縦取り・横取り架設も,最後が一番うまくいくようになりました。

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列車が走る線路をお借りして,工事をさせて頂いている

村上 お互い,良いものを追求できましたね。私たち工事サイドは,列車が走る線路をお借りして,工事をさせて頂いているという気持ちが大切です。そして安全な状態でお返しする。若い頃,そう上司から叩き込まれました。レールは,お客さまの大切な命を運んでいるのですから。三浦所長はじめ鹿島JVの方々は,そのことを良く理解してくれています。

三浦 ありがとうございます。

村上 現場を見ればわかります。作業員さんに声をかけると,気持ち良く挨拶してくれます。そして整理整頓がしっかりできている。鹿島JVが専門性の高い会社を束ね,良いチームができていると感じます。

三浦 JR東日本の皆さんは,朝礼や夜礼で,いつも直接,声をかけてくれます。現場の状況や雰囲気を見てくれていることに感謝しています。そして,施工者と一緒になって汗をかいて頂いていることは,心の支えです。2015年5月の台風のことを覚えていますか?ちょうど,Cランプ桁を引き戻すイベントの日でした。

村上 作業開始時刻に,台風直撃の予報が出ていた日でしたね。

三浦 正直に申し上げますと,作業が始まる2~3時間前には,強風で作業中止という指示が出るだろうと思っていました。反面,現場としては,工程もありますし,この日のために準備を重ね,作業員の士気も高まっていましたから作業をしたかった。そこへ村上区長は「ギリギリまで待とう」と言ってくれました。そして,不思議なことに作業が始まる時間になったら,ピタッと風が止まったのです。作業は無事に完了しました。作業員も,あの日は目の色が違いました。JR東日本さんが自分たちのことも考え判断していることが,伝わったと思います。

村上 こうした判断ができるのは,しっかりとリスク管理ができているからです。もし基準値を超える風が吹けば,作業を止めて,所定の耐震基準を確保するための手順がすべて準備されている。そうでなければ,判断はできません。

三浦 大切なのは,作業員も含めて,現場にいる全員に,安全や品質などについて,高い意識を持ってもらい,日頃から訓練をしておくことだと考えています。一人でも理解できていなければトラブルが起こるのです。

村上 だから,チームワークが大切なのです。無事故・無災害で工事を進めてもらっているので,幸いにも工事では使うことがなかったのですが,工事用の緊急列車停止ボタンを,ガードマンさんが押したケースがありました。

三浦 すぐ近くの踏切で,母親が押すベビーカーのタイヤが線路にとられ,動けなくなるなか遮断桿が降りはじめていた時のことですね。自らの判断で,ボタンを押し列車を止めてくれました。現場内で,JR東日本さんの工事部門の合言葉である「3つの安全行動+1(プラスワン)」も徹底していた効果です。

村上 日頃の訓練があったからできた行動ですね。大切な命を守ってくれたことに対する,感謝の気持ちはすぐに伝えたいと感謝状を贈ったのです。

三浦 本人は名誉に感じ,モチベーションが上がったと話してくれました。このケースもそうですが,鉄道工事では,自分で決断しないと間に合わないケースが多々あります。電車はすぐには止まることができないので,1秒でも早く止める判断をしなければならない。また,夜間の線路閉鎖作業でトラブルがあれば,初電を止めるかどうかの判断を即時自分でしなければなりません。列車の運行支障なしは絶対条件であり,起こしてはいけないことですが,それ以上に,放置しておくと大事故になることを考えれば,勇気のいる判断もあると伝えています。

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それぞれが自分の役割を理解して,しっかり仕事を進める

村上 頼もしく思います。そういう思いがあったからこそ,線路直上での難工事を無事故・無災害で終えることができたのです。線路直上桁架設が完了した時に撮った写真には,私たち発注者,元請JV社員,専門工事業者の職長,作業員全員が写っています。

三浦 皆が同じ目的を持った仲間ですね。

村上 そうです。仲良しクラブになってはいけませんが,チームとしての仲間意識は大切です。そして,それぞれが自分の役割を理解して,しっかり仕事を進める。必要のない役割はないのですから。

三浦 これまで送り出しや縦取り,横取り架設などのイベントは80回にもなります。ほぼ夜間でしたが,これを繰り返して,やっと辿り着いた線路直上桁架設完了ですから喜びと感謝の気持ちで一杯です。皆で幾つもの山を登ってきて,見えた景色はやはり素晴らしいものでした。

村上 まだ工事は終わっていません。これからも気を引き締めて工事に邁進しましょう。

三浦 はい。竣工に向けて,もっと素晴らしい景色が眺められるよう,気を緩めず工事を進めていきます。そして,また一緒に笑顔で記念撮影をしたいと思います。本日は,ありがとうございました。

写真:「3つの安全行動+1(プラスワン)」を指差す村上区長と三浦所長

「3つの安全行動+1(プラスワン)」を指差す村上区長と三浦所長

写真:2013.01

写真:2014.01

写真:2015.01

写真:2016.03

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