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KAJIMAダイジェスト

旅を描く

旅の思い出は,スケッチで描きとめると,より鮮明に記録される。
当社建築設計本部の佐藤正章専任役は,日常のランチから家族旅行まで,
スケッチが生活の一部となっている。
そんな水彩画の達人に,旅を描くことの楽しみを尋ねた。

風景の中の建築を描く

スケッチに興味があっても,“絵心”に自信がもてず躊躇している人は少なくないだろう。佐藤さんはZEB(ゼロエネルギービル)の研究・技術開発に携わる設備設計者。スケッチはプライベートの趣味だ。

「環境面で優れた建築は,空間の性能はもちろん,周辺の環境に調和し,風景の一部になっています。自然とスケッチしたくなりますね」。自分ならではの“描きたくなる風景”と出会うことが,絵筆を走らせる第一歩となるようだ。

「東京駅丸の内駅舎」もそんな風景のひとつ。注目された保存復原工事の竣工後,佐藤さんはぜひともリニューアルオープンした「東京ステーションホテル」に宿泊したいと思い,都市での小旅行を計画した。ドーム内部に面した客室からは,天井の豊かな装飾が間近に臨め,眼下にはコンコースを行き交う人々の姿が眺められる。新たな視点で接すると,赤レンガの駅は様々な表情で佐藤さんに語りかけ,創作意欲をかき立て,愛着がいっそう増したという。

いつも何気なく通り過ぎているような場所も,小旅行の目的地として改めて訪れてみると,新たな発見と出会えるかもしれない。

写真:建築設計本部  佐藤正章 専任役

建築設計本部
佐藤正章 専任役
おもに環境設計・空調を専門として,両国国技館の空調設計などを担当した後,設計の技術スタッフ部門でシミュレーションの開発などに係わる。ZEBなど省エネルギー設計や環境配慮設計を推進している

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図版:「東京駅丸の内駅舎」(東京都千代田区/2012年保存復原)

「東京駅丸の内駅舎」(東京都千代田区/2012年保存復原)は,戦災で失われたドームなどが復原され,格調高い佇まいを取り戻した。「東京ステーションホテル」は58室から150室へと拡大。部屋のタイプもドームサイド,皇居を望むパレスサイドなど様々

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風土を味わって描く

京都を訪れた際には,鴨川沿いの街並みや,長く人々に愛されてきた建築を巡った。また,地元の人気店と聞いて訪れた「京都八百一本館」は,当社の設計・施工。「旅先で偶然,鹿島の建物に出会うこともありますね」と,誇らしそうな笑みを浮かべる。

最上階のレストランは,屋上農場が見えるテーブル席が評判。「庇の先に庭がある点では,伝統的な寺院に通じるところがある。屋上緑化は太陽光の照り返しを和らげ,緑色は見た目にも涼しい。屋上面の保水性を高めれば,都市型洪水を抑制する効果も期待できます」。環境建築の専門家の視点で居心地のよさを解き明かす。

レストラン訪問のお目当ては,京野菜がふんだんに使われたメニューを描くこと。佐藤さんがスケッチを始めたきっかけは,旅先での食事の記録だった。その土地の建築を肌で感じ,その土地の食材を味わう。風土に合った建築を設計する環境のプロらしい旅の楽しみ方だ。

食事の場や旅行先では,じっくりスケッチする時間はどうしても少ない。興味を引かれたらシャッターを押し,その後の移動時間や宿泊先で絵に仕立てていく。写真は絵の構図を考えながら撮影することがポイントだという。スケッチを始めるヒントになりそうだ。

図版:京都を訪れた際に描いた鴨川沿いの街並み

京都を訪れた際に描いた鴨川沿いの街並み

図版:烏丸三条そばに建つ「京都八百一本館」(京都市中京区/2013年竣工)のレストランSAVORYでの食事のスケッチ

烏丸三条そばに建つ「京都八百一本館」(京都市中京区/2013年竣工)のレストランSAVORYでの食事のスケッチ

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何度も訪れたくなる美術館

絵になる旅先として,佐藤さんが繰り返し足を運んできたのが箱根だ。なかでもおすすめは「箱根ラリック美術館」。「アールヌーヴォーのガラス工芸作家ルネ・ラリックは,草花や昆虫をモチーフとした作品が多く,箱根の森の中という立地がイメージによく合っています。レストランのテラス席は,青々とした芝生が眼前に広がり,この地に自生していた木々が,小川から吹くそよ風に葉を揺らしている。自然と一体となった絶好のスケッチポイント」と太鼓判を押す。

優れた空間と,四季を感じられる庭の風景,訪れるたびに変わる展示作品と料理で,何度訪れても描きたくなる題材に出会えるお気に入りの場所だという。近隣には「箱根 彫刻の森美術館」(1969年オープン)などの著名な施設が点在する。スケッチブックを携えて,足を運んでみてはいかがだろうか。

図版:「箱根ラリック美術館」(神奈川県足柄下郡箱根町/2005年竣工)

図版:「箱根ラリック美術館」(神奈川県足柄下郡箱根町/2005年竣工)

「箱根ラリック美術館」(神奈川県足柄下郡箱根町/2005年竣工)は仙石原に位置する当社設計・施工による庭園型美術館。既存の樹木群,小川のせせらぎ,昆虫や鳥などの在郷生態系の継承と復元を試み,豊かな自然を最大限に生かすランドスケープデザインとなっている。レストランとクラシックカーは美術館に入らずとも楽しめる

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Column 建築の工夫を一望できるコミュニケーションツール

趣味で始めたスケッチが,仕事にも役立っている。右の絵は台湾の成功大学にある環境建築普及の役割を担う施設で,「緑色魔法学校」の名前で親しまれている。佐藤さんがZEBの視察で訪れた際に描いたものだ。建築の工夫が1枚の絵で一望できるスケッチは,設備や意匠の設計者とのコミュニケーションツールとして大活躍。明瞭で,時にユーモアのある画風は社内でも親しまれ,当社の各種広報媒体でも佐藤さんが描いた省エネルギービルを解説するイラストが掲載されている。

図版:緑色魔法学校

写真:愛用のスケッチブックは,銀座の老舗画材店・月光荘の2Fサイズ特厚

愛用のスケッチブックは,銀座の老舗画材店・月光荘の2Fサイズ特厚。そこにファーバーカステル社製6Bの芯とホルダー,COPICの黒0.2mmとグレー0.1mmの油性サインペンで線を描き,MATCH社の透明水彩と水筆ペンで色を載せる。手描きならではの親しみやすさと伝わりやすさがこうして生まれる

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