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SAFE+SAVE 支援と復興の土木・建築

CASE6 台風廃材のリサイクル家具(アメリカ)

写真:カトリーナ家具プロジェクトで作られたテーブルや長椅子。材料はハリケーンによって発生した倒壊住宅の廃材。19世紀の糸杉等は,表面を削ぎ落とすと美しい木目が出現する

カトリーナ家具プロジェクトで作られたテーブルや長椅子。材料はハリケーンによって発生した倒壊住宅の廃材。19世紀の糸杉等は,表面を削ぎ落とすと美しい木目が出現する

2005年8月,アメリカ南東部を大型のハリケーン「カトリーナ」が襲った。死者1,800名以上の甚大な被害をもたらした未曾有の災害。被災地のニューオーリンズでは,復興に向けて様々なプロジェクトが立ち上がった。「カトリーナ家具プロジェクト」もそのひとつである。

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カトリーナ家具プロジェクトは,ハリケーンによって倒壊した家屋の廃材などをリサイクルして家具をつくる取組みで,つくるのは被災した地元住民。家具のデザインは3種類。ひとつ目は被災した900以上の教会で使うための長椅子。ふたつ目は被災した家族の団らんのためのテーブル。3つ目は販売用のスツール。いずれも糸杉に代表される地元産の木材の美しさと特性を生かしたデザインである。

まずは,プロジェクトの拠点として地域に家具工房がつくられる。その場所は,プロジェクトを誘致したいと思っている地域の人が工場跡地などを提供することが多い。一方,プロジェクト側は協力者を募り,その跡地を家具工房へと改修する。協力者は被災した地域住民と大学生,NPO。彼らは家具工房づくりを通じて,木材の扱いに慣れ,大工仕事に必要なチームの結束力を高める。

家具の材料は,別のNPOがハリケーンで生じた廃材を集めて工房に運び込む。被害を受けた建物を解体し,木材を回収して工房へ持ち込むのである。

こうして手に入れた材料を使って家具づくりが始まる。工房には,家と仕事を失った地域住民が集まり,3種類の家具のつくり方について講習を受ける。また,流通や販売についての基本的な知識を学ぶ。こうしたワークショップを通じて木工のスキルを得た地域住民たちは,工房の設備や道具を使って自分の家を再建したり,近隣の建物の再建を手伝ったりするようになる。廃材を活用したユニークな住宅もこのプロジェクトから誕生している。

家具工房は地域住民の職場として,さまざまな家具をつくりだす場所となった。さらに,住民が自宅を再建する際の資料や資材を入手するための場所となり,廃材からつくられた家具を販売する拠点となり,家具づくりや大工仕事を学ぶための学校となり,地域住民が集まって話をするコミュニティセンターとなった。

この取組みを率いたのが,建築家のセルジオ・パレローニである。1980年代に大学を卒業したパレローニは,すぐに建築家としてニカラグア大震災の復興に関わり,1985年からはメキシコ大震災の復興に関わった。そして1995年にサステナブル建築の研究機関「ベーシックイニシアティブ」を仲間と共同設立し,災害を含む社会的な課題を解決するための持続可能なデザインを模索している。

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写真:糸杉の木目を生かしたスツールは家具工房で販売される

糸杉の木目を生かしたスツールは家具工房で販売される

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写真:災害後にいち早く廃材を集めたのはNPO法人リ・ビルディングセンター。カトリーナ家具プロジェクトは現地に家具工場を設置し,地域住民とともに廃材から家具をつくり出した。形状や厚みの違う廃材を加工してつくる家具のデザインは,多くの専門家が集まって検討されたもの

災害後にいち早く廃材を集めたのはNPO法人リ・ビルディングセンター。カトリーナ家具プロジェクトは現地に家具工場を設置し,地域住民とともに廃材から家具をつくり出した。形状や厚みの違う廃材を加工してつくる家具のデザインは,多くの専門家が集まって検討されたもの

ベーシックイニシアティブは,学生,NPO,専門家が協力してプロジェクトに関わるためのプラットフォームである。カトリーナ家具プロジェクトで使われた家具のデザインは,このプラットフォームで学生やデザイナーが検討したものだ。廃材を使った住宅のデザインもここに参加した学生たちのアイデアが元になっている。家具づくりをビジネスにするためのプランニングは,プラットフォームに参加する大学のビジネススクールや地元の銀行などが立案し,プロジェクト全体のブランディングはグラフィックデザイン事務所が協力している。

「災害が起きた後,クライアントである生活者からじっくり話を聞くことはとても重要なことだ。そこからしかプロジェクトは組み立てられない」とパレローニは言う。この徹底した現場主義は学生たちにも伝わっている。ベーシックイニシアティブに参加する学生たちは,必ず現地に長く滞在して,その場所のフィールドワークや地元住民への徹底的なヒアリングを通じて持続可能なデザインのあり方を模索する。カトリーナ家具プロジェクトも同じだ。外部からやってきた学生たちが,一方的に家具を提供したり住宅の修復を手伝ったりするだけでは,地域に経験やノウハウが蓄積しなかっただろう。単に廃材を使った家具をつくったり住宅をつくったりすることが目的なのではなく,そのプロセスを通じて地域に仕事を生み出し,地域の復興段階に活躍する人材を生み出すことが重要なのである。

写真:完成した家具。廃材だけでなく新しい材料も組み合わせて家具をつくる

完成した家具。廃材だけでなく新しい材料も組み合わせて家具をつくる

写真:家具づくりを通して工具の使い方を学んだり,共同作業ができるチームを構築したりする

家具づくりを通して工具の使い方を学んだり,共同作業ができるチームを構築したりする

「私が大学を卒業してすぐに体験した,災害の復興プロセスで学んだことを学生たちに伝えたい」。パレローニは,これまでとは違うタイプの建築家を育てたいと考えている。「図書館や美術館を設計するのもいいが,その建築的なアイデアをもっとほかのことに生かす建築家がいてもいいはずだ。世界には持続可能なデザインを必要としている人たちがたくさんいる。そういう場所でこそ,デザインは正当な影響力を持ちえるはずだ」

東北地方を襲った巨大地震の復興プロセスにも,持続可能な仕組みを伴ったデザインが登場することを願う。

写真:廃材を使った家具づくりを経験した地域住民は,さらに大きなものづくりに携わるべく,廃材を使った小屋づくりを体験する。家具だけでなく小屋をつくれるようになると,復興住宅の建設に関わることができるだけの技術を手に入れられ,仕事を得ることができる

廃材を使った家具づくりを経験した地域住民は,さらに大きなものづくりに携わるべく,廃材を使った小屋づくりを体験する。家具だけでなく小屋をつくれるようになると,復興住宅の建設に関わることができるだけの技術を手に入れられ,仕事を得ることができる

写真:家具づくりや小屋づくりを通して手に入れた技術とチームワークを生かして,復興住宅の建設を担う地域住民と大学生

家具づくりや小屋づくりを通して手に入れた技術とチームワークを生かして,復興住宅の建設を担う地域住民と大学生

山崎 亮 やまざき・りょう
ランドスケープ・デザイナー。studio-L代表。京都造形芸術大学教授。1973年生まれ。
Architecture for Humanity Tokyo / Kyoto設立準備会に参画し,復興のデザインの研究を行う。
著書に『コミュニティデザイン』(学芸出版社),『震災のためにデザインは何が可能か』(NTT出版)など。
Architecture for Humanityはサンフランシスコを拠点に世界各地で復興や自立支援の建設活動を主導する非営利団体。

参考資料

  • 「特集=地球を救う30のアイデア」『Pen』(2007年12月15日号,阪急コミュニケーションズ)
    シンシア・スミス著, 槌屋詩野監修, 北村陽子訳
  • 『世界を変えるデザイン――ものづくりには夢がある』(英治出版, 2009)
  • BaSiC Initiativeウェブサイト : http://www.basicinitiative.org/

(写真提供: ©BaSiC Initiative)

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