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2013年4月,京都の中心地・六角の近くに本格的な屋上農場をもつ食の複合施設「京都八百一本館」がオープンしました。
「野菜のこと,農業のことをもっと知って欲しい」という施主の思いを企画・設計・施工で具現化した
このプロジェクトには,当社がハード・ソフトの両面から提案する新しい建物の在り方が表現されています。
その魅力の数々を担当者に紹介してもらいましょう。

図版:屋上農場「六角農場」

屋上農場「六角農場」

農業を“伝える”

近年,屋上を緑化した建物を見かけるようになりました。ヒートアイランド現象の緩和,貸し農園の運営など都市部のビルの屋上に緑を整備する試みです。

青果専門店「京都八百一」を全国に展開するセントラルフルーツ社の構想によるこの建物には,それらと異なる目的があります。それは,都会に住む人々に農業と触れ合う機会を提供し,農業や食の大切さを“伝える”ことです。食卓にもう一品野菜が並べば日本の農業が救われる…,日本の農業は今,農村過疎化や後継者不足など,様々な問題に直面しています。農業の営みに触れながら,生産者と販売者,消費者が様々に対話し,農業の大切さや食べることの楽しさ,豊かさを感じて欲しい。そんなセントラルフルーツ社の願いがこめられた「京都八百一本館」(京都市中京区)が今年4月にオープンしました。

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“農業”,“流通”,“食”

施主の企業理念である“農業”,“流通”,“食”,これが3層からなる建物を構成する軸となっています。1~2階に野菜や果物,肉,魚といった食材の販売店舗と飲食店舗が並び,3階には本格的な屋上農場「六角農場」と,ここで収穫された野菜や果実を楽しむことのできるレストランが併設されています。耕作面積約300m2の広さを有する「六角農場」では,賀茂茄子や九条葱,万願寺唐辛子などの野菜が栽培されるほか温室もあり,一年を通じて様々な野菜が収穫できます。農場の灌水には井戸水を使用。農場の周りにはクヌギやコナラが植えられた小路や小川のせせらぎがあり,施主の描く日本の原風景“里山”が広がっています。レストランの窓越しからは,農場の四季折々の作物を望むことができ,“食”の持つ豊かさを感じることができます。

屋上に“本物の農場”を移植

“本物の農場を移植し,本物の農業を伝えたい”。施主には「土」への強いこだわりがありました。一般的な屋上緑化では,建築の耐荷重制限から保水性のある軽量土壌が使用され,土層厚は20cm程度ですが,ここでは50cmの土層厚を設け,八百一の郷・丹波農場で施主自ら土作りをした畑土が使用されています。本物の畑土をこれだけ大規模に屋上に導入した例は世界的にも珍しく,従来では作付けが困難だった大根や牛蒡などの根菜類も耕作できます。畑土は排水性が低く水を多く含むため総重量は200tを超えます。この荷重に対応するため柱のスパン調整や3階床の2重スラブ化など構造検討を行いました。排水時に使用するフィルターと土の相性も懸念されたため,土壌の性能分析や試験も行っています。

図版:「六角農場」に畑土を搬入する様子

「六角農場」に畑土を搬入する様子

“知る”“感じる”農場づくり

“農業を四季と共に感じて欲しい”という施主の思いから,農場の傍らには「二十四節気」のそれぞれに野菜を表現したプレートを配しています。このプレートには,野菜から広がる情景や農業の営みを記した施主のメッセージが綴られており,人と自然が共存する知恵が伝わってきます。水にもこだわりがあります。京都の歴史では,豊富な地下水を利用した茶の湯や染め物などの文化が営まれてきました。建物前面の公開空地に井筒を設け,地下水を揚水し,近年少なくなった井戸のある街並み風景を再現。この井筒は,災害時に地域へ水を供給する役割も担います。農場運営では,野菜の受粉にミツバチを用います。この六角農場にも巣箱を設置しており,当社の環境本部が取り組む「鹿島ニホンミツバチプロジェクト」もこれを支援しています。ミツバチは,農場はもちろん京都御所や周辺緑地など行動範囲にある植物の受粉を助けます。収穫された蜂蜜は併設のレストランのほか,地域と連携した食育活動やイベントにも提供されます。

図版:メッセージの綴られた二十四節気プレート

メッセージの綴られた二十四節気プレート

図版:「六角農場」で収穫する様子

「六角農場」で収穫する様子

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図:「六角農場」で作られている九条葱

「六角農場」で作られている九条葱

図:公開空地に設置された井筒

公開空地に設置された井筒

図:ミツバチ小屋。子どもが覗きやすい位置に小窓を設置

ミツバチ小屋。子どもが覗きやすい位置に小窓を設置

地域,街への広がり

施設に訪れた人々が,目を輝かせるのを見かけます。施主の理念,構想のもと,この施設に散りばめられた思いが,様々なかたちで,地域や社会に広がりを見せています。京都市では市内の小学校の屋上などを緑化し,緑のネットワーク形成や環境負荷低減を図る構想があり,京都の中心にある「京都八百一本館」が,こうした取組みとも連携しながら,農業を通じて地域や街を活性化させる拠点となるものと期待しています。

【工事概要】
京都八百一本館
場所:京都市中京区東洞院通三条下る三文字町
発注者:セントラルフルーツ
用途:商業施設,農場
規模:RC造 B1,3F 延べ3,760m2
工期:2012年3月~2013年3月(関西支店施工)

図版:京都八百一本館

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お客様の“思い”を実現する

お客様の企業理念“農業”,“流通”,“食”のもと,「野菜のこと,農業のことをもっと知って欲しい」という“思い”に対し,建物を通じて,農業を伝えること,生産者,販売者,消費者を繋げることを意識してプロジェクトに取り組みました。周辺の幼稚園や小学校に野菜や農業に関するヒアリングを行ったことで,地域における当施設の役割を強く認識し,地域と連携して行われる農業体験や食育,環境教育などの活動も視野に,身近に農業を感じられる空間づくりを目指しました。建物の外壁には,野菜のもつ緩やかな微曲線を採用し,京の街の景観形成にも貢献しています。現在,「六角農場」では九条葱や茄子,人参,トマトなどが耕作され,訪れた子どもたちが嬉しそうに野菜を手に取り,農場スタッフと会話する姿も見かけます。今後も,当社はハード・ソフト様々な面から「京都八百一本館」の活動をご支援させていただきたいです。

図版:左から関西支店営業部三輪敦課長,大野竜也所長,建築設計部荒井康昭設計長・菅原純子部員

左から関西支店三輪敦PJ推進開発課長,大野竜也所長,荒井康昭設計長,菅原純子部員(設計担当)

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