現場から:プレキャスト型枠「AQフォーム」で急速施工

プレキャスト型枠「AQフォーム」で急速施工
第二京阪道路・洛南道路 宇治川橋右岸下部工事
場所:京都市伏見区 発注者:国土交通省近畿地方整備局
工期:1997年11月〜2001年6月
地図

 京都市と大阪市を結ぶ国道1号線は,京阪地域の「ひと」や「もの」を運ぶ重要な幹線道路である。近年,周辺市街地の都市化が進み,慢性的な交通渋滞が発生していた。このため,第二京阪道路(自動車専用道路)と,それに併設して洛南道路(一般道路)が計画された。事業のうち京都市・伏見区の宇治川をまたぐ宇治川橋は,完成すると橋長1,096m,8車線を供用する12径間箱桁橋となる。

施工中の宇治川橋全景。
施工中の宇治川橋全景。当社はP3,P4.P5の橋脚を担当している。P5橋脚は宇治川の中につくるため,施工上多くの制約が課せられた
後方のP3橋脚では他社による上部工事が始まっている
P3,P4橋脚は一昨年10月に完成した。後方のP3橋脚では他社による上部工事が始まっている

P5橋脚は入手時から工程が厳しかった
  当社は,宇治川橋につくる橋脚12基のうち三つの橋脚を担当している。その中でもP5橋脚は,地上での工事と比べ厳しい施工環境となる宇治川の中にある。
 一般的に河川工事では,水量が少なくなる10月から翌年の6月までの渇水期しか作業ができない。しかもここでは,渇水期でも遊船が航行しているなどの理由で多くの制約が課せられた。またこのP5橋脚は,上部橋桁の着工日が今年の10月と決まっていた。そのため非常に工期が厳しいことが入手時からわかっており,発注者と設計変更を含めた施工方法などの検討を重ねてきた。

P5橋脚でのAQフォーム建込み作業。
P5橋脚でのAQフォーム建込み作業。施工中の橋脚は最上部まで躯体が立ち上がっている。橋脚の幅は約50mもある。後方500m先には国道1号線がみえる


脱型枠作業を無くした 「AQフォーム」を採用
 協議の結果,橋脚の構造を変更することが決定された。当初RC造であった構造が,土木構造物では珍しいSRC造になった。そして当社が開発した「New-SRC構造」が採用されることになった。
 この構造は躯体を構築する鉄骨を格子状に配し,鉄骨にあたかもRC造の鉄筋のように,コンクリートを補強する役割を持たせる技術である。構造上必要な鉄筋のほとんどは鉄骨に置き換わり,鉄筋組立て作業が極力少なくなる。実際,工事では鉄骨のユニット化を図ることで,現場作業は工場で高品質につくられた鉄骨を組立てるのが大部分であったため,工期を大幅に短縮することができた。
 この他「AQフォーム」というプレキャストコンクリート型枠が工期短縮に貢献している。この型枠は当社の技術研究所が開発したもので,土木研究センターにて技術審査証明を取得している。材料には特殊混和材やステンレスファイバーを用いており,非常に薄い形状でも高強度・高耐久性が得られる。
 通常コンクリート構造物をつくる場合,木製の合板で型枠を組み,コンクリートを打設,一定時間おいて型枠をばらす作業が必要であった。AQフォームはそれ自体が躯体の一部となるため脱型枠作業を省略できる。また外部足場での作業を極力減らすことができるので,安全性にも優れており,建設副産物となる合板が一切必要ないので自然環境にも優しい。
 こうして工期短縮に向けて様々な取組みを実施したことで,実働作業日数を130日短縮し,今年4月完成する予定である。そしてこの橋脚も,先日最後のコンクリート打設を終えた。現在,橋脚周囲の足場等を撤去する準備に取りかかっている。

AQフォーム1枚の大きさは大よそ1.5m×1.2m。
AQフォーム1枚の大きさは大よそ1.5m×1.2m。現場内の製作ヤードで9枚を繋ぎ合わせ1ブロックにする。裏面はコンクリートと密着するよう凹凸をつけている
コンクリートによって躯体と一体となったAQフォーム。
コンクリートによって躯体と一体となったAQフォーム。厚さは約5cm。材料には特殊な混和材やステンレスファイバーを用いているので,厚みを低減できた

AQフォーム施工手順
AQフォームの取付けは,1ブロック約30分。 矢印 下段とは接着剤で密着させ,目地部はコーキング材で覆う。
AQフォームの取付けは,1ブロック約30分。1日8ブロック設置する。橋脚全面では144ブロック,18日間程の作業となる
 
下段とは接着剤で密着させ,目地部はコーキング材で覆う。仕上りは一般的なコンクリート構造物とほとんど変わらない
    矢印
躯体最上部でのコンクリート打設。 矢印 セパレータという棒状の部材で,躯体の鉄骨に固定する。
躯体最上部でのコンクリート打設。AQフォームで躯体を覆った後,その中にコンクリートを打設する
 
セパレータという棒状の部材で,躯体の鉄骨に固定する。躯体の内部は,鉄筋を組んでいないので作業スペースが十分ある

  「和」を大切にした現場運営を
所長 柚口 安春(ゆぐち やすはる)

 私のモットーは,「和」を大切にすることです。現場では人間関係だけでなく,設備などの働く環境も含めて和めるものでなければなりません。両者が充実していなければ良いものはつくれないと思うのです。その点,ここでは社員,作業員とても仲が良く,みな生き生きと働いています。また作業足場などは多少コストがかかっても,安全で使い勝手の良いものを選んでいます。大切に長く使うことで十分もとはとれるわけです。とりわけ現場に設けた休憩所は,洒落た東屋風となっています。内部は採光性のあるビニールシートで覆っているので,とても明るく暖かです。京都の冬はとても寒いので,作業員の皆さんは大変だと思います。東屋で気のおけない仲間らと暖をとり,疲れた体を癒して欲しいと思います。
作業を見守る柚口所長
作業を見守る柚口所長

東屋風の休憩所
東屋風の休憩所