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 特別史跡キトラ古墳仮設保護覆屋建設工事
〜歴史と文化を護る細心の配慮〜


 奈良県高市郡明日香村にあるキトラ古墳は,7世紀末頃につくられた直径13.8m(上段9.4m,下段13.8m),墳丘高さ3.3mの古墳である。墳丘のほぼ中央に石積みの石室があり,天井に天文図,壁面には古代中国の方位の守護神獣四神,青竜・白虎・玄武・朱雀のすべてが描かれている。天文図は東アジア最古の現存例であり,壁画の四神すべてが現存している例は国内初で,その歴史的・学術的価値は極めて高い。
 1979年に古墳の存在が確認されて以来,石室内部などの調査が慎重に続けられ,その結果,壁画の損傷が著しく,はく落の危険性が高いことが懸念された。これより,文化庁は空調設備や防菌設備等を完備した覆屋を設置し,緊急に内部の保存処理を行うこととした。設計は空間文化開発機構が担当し,当社は昨年12月にその施工を競争入札で受注した。
キトラ古墳の模式図(1998年3月7日付朝日新聞朝刊より)南壁の朱雀は2001年3月に確認されたため,当社で追加記述した
南壁 朱雀 北壁 玄武
  壁画写真提供:奈良文化財研究所(2点とも)
 繊細な壁画の保存には温度16℃前後,湿度100%の環境が最も適していると言われ,雑菌による変質も懸念される。これより,保存作業のための入室の際には,除菌室と二重の前室を通るようにするなど,石室内部を常に安定した状態に保つ設計上の細心の配慮がなされている。また付近は風致地区に指定され,墳丘の全面を覆い隠す状態で設置される覆屋の外壁や屋根の外観も,周囲の景観と調和するように慎重に色調や風合いが決められた。
 細心の配慮は,施工にも求められる。施工中のコンクリートの水和反応に伴う発熱の影響や内装・設備材料から発生する微量化学物質の影響のほか,急峻な地山の荷重変動などにも細心の注意を払う必要がある。さらに,はく落が懸念される繊細な壁画の保護には,工事の振動を最小限に抑えなければならない。高い精度で空調を維持するための人体発熱の影響評価,梅雨時や夏場の温湿度や空気質データの追跡調査など,あらゆる施工後の状況を想定した配慮も不可欠だ。
 美術館建設などで培った当社の文化施設施工・エンジニアリング技術の粋を集め,文化庁と設計者との協力を図りながら建設される覆屋は今月着工,年度内の完成を目指す。
覆屋完成予想
覆屋南北方向の断面図
古墳南面現況(本年1月撮影) 工事概要
特別史跡キトラ古墳仮設保護覆屋建設工事
場所:奈良県高市郡明日香村
発注者:文部科学省−文化庁
設計:空間文化開発機構
規模:RC造一部S造 地下1階,地上1階 
延床面積約152.2m2
工期:2003年2月〜2003年3月
(関西支店施工)
現場地図