特集:風の力

デンマーク近海の洋上風力発電施設。「オフショア・ウィンドファーム(沖合風力発電農場)」と呼ばれている。

海原一面に広がる風車──
風力発電先進国デンマークの壮観な景色だ。
クリーンな自然エネルギーとして世界的な導入が推進されている風力発電は,わが国でも着実に展開している。
また,先月16日には京都議定書がいよいよ発効され,温暖化ガス削減に向けて風力発電に寄せられる期待は高まるばかりである。
風景,風情,風流,風習,風土・・・・・・「風」にまつわる言葉の多さが示唆するように,日本人の生活は古来より風とともに歩んできたといえるだろう。
一方,日本の現代都市では,強いビル風や,自然風の遮断によるヒートアイランド現象も話題となっている。
今月の特集では,風の明暗両面を「風の力」としてとらえ,環境時代における風との共生のあり方を考えてみたい。
風の景

成長する“恵み”

 白い風車が林立する風景は,もはや日本でもめずらしくなくなった。北は北海道から南は沖縄まで全国各地に展開,735基が稼動し,発電設備容量は約67.7万kW(2003年3月時点)に達する。日本の総発電容量に占める新エネルギーの割合が0.5%に届こうとするなかで,風力発電の導入量はこの5年間でおよそ20倍と飛躍的に増加している。2010年までの目標は300万kWで,これは約200万世帯の年間消費電力量に相当する。
 風力,太陽光,バイオマス,廃棄物といった新しい発電形式は,CO2削減や化石エネルギーの枯渇防止など,地球規模での有効な環境問題対策として知られる。なかでも風力発電の特徴は,エネルギー資源が無尽蔵なだけでなく,経済性の面でも大きな期待が寄せられている。現在の発電コストは水力や石油火力発電に近いという。そして,ブレード(羽)がゆったりと回転する風景は,地域の顔となり,ほかの発電形式にはないシンボル性を備えている。
 こうした風力発電に適する土地は,山岳部や沿海部といった風の強い場所である。一般的には,年間を通じて平均風速6m/秒が目安だ(地上30m高)。砂ぼこりが舞い,小枝が揺れ,海上では白波が立つほどの風力だ。
 「風神・雷神」として畏れられ,ときには“厄介もの”とされてきた風は,エネルギー源として“恵み”に生まれ変わろうとしている。そして大規模なウィンドファームは,環境時代の地域シンボルとして,まちづくりの旗振り役も期待されているのである。
【1】大型ウィンドファームのパイオニアとなった竜飛ウィンドパーク(275kW・300kW×各5基,500kW×1基/青森県東津軽郡三厩村/1992年運転開始/事業者:東北電力)
【2】尻労(しつかり)ウィンドファーム(1,750kW×11基/青森県下北郡東通村/2003年運転開始/事業者:ユーラスエナジー尻労ヒルトップ)。
【3】国内初のコンクリートタワーとなった「うみてらす名立」の風力発電施設の完成した姿と建設プロセス(600kW/新潟県西頸城郡/2003年運転開始/事業者:名立町[現・上越市])
外型枠解体
コンクリート打設
外型枠設置
内型枠設置※本項の統計データはいずれもNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)による。
【4】サミットウィンドパワー鹿嶋風力発電施設の完成予想図。
成長する風車
 超高層ビルとは一般に高さ100m以上のビルをさすが,下の図のように風力発電も超高層の時代に差しかかろうとしている。風車が大きくなるほど発電の経済性が向上し,大型化実現のための技術発展に努めてきた成果である。
 日本に立つ風車の多くは,先進国ヨーロッパからの輸入だが,そのままの技術では通用しない。広い平地がつづくヨーロッパのように風が安定していないためだ。台風や熱帯低気圧,山岳地形といった風土のなかで,風の乱れや落雷による故障や破損も報告されている。避雷針塔を併設した風車もあるほどだ【5】。
 そして,より強く安定した風を得られる立地,つまり「風況」のよい場所として脚光を浴びているのが,港湾や洋上といった臨海部である。すでに紹介したように各地の臨海部・港湾部では大規模な計画が続々と登場し,洋上発電施設も実現しはじめている。
 また,臨海のコンビナートは有力な適地として注目を集めており,実際に国内最大級の風力発電施設がまもなく着工される計画だ【4】。沿岸部は自然公園に指定されていることが多く,公園の指定範囲外,送電線の利便性,居住地域と騒音問題といった点で,コンビナート内は優れた適地なのである。
 一方,大型化の流れのなかで建設技術も新たな展開をみせはじめている。国内では2003年に初登場したコンクリート製タワーの風車である【3】。ドイツでは新型風車の約半分を占めるとも言われ,デンマークよりも風が弱い国土において風車の大型化を積極的に推進する。鋼鉄製のタワーと比べると,100m超級の大型タワーも建設可能であり,とくに沿岸部では腐食の面での耐久性にも優れているという。
 風車と建設の技術,そして海への展開力と,風力発電はいま,成長株なのだ。
【5】避雷針塔(右)が風車の隣に立つ内灘町風力発電所(1,500kW/石川県河北郡/2003年運転開始/事業者:内灘町)
大型化する風車
風の車

風車の旅

  超高層ビル級の風車は一体どのようにつくられているのだろうか──実は,“部品”ごとに工場で組み立てられ,船で海上輸送されている。建設地が港から遠ければ,全長40mもの超大型トレーラーの背に乗って夜間に公道を走行する。さながら新幹線の白い車輌が運ばれるがごとくである。
 ここでは将来が期待される漁港部に完成した波崎漁業協同組合の風力発電施設の建設プロセスを紹介しよう。
 太平洋に面した波崎町は,茨城県鹿島灘の南方にあたり,千葉県銚子市が利根川を挟んで目の前に見える港町である。1,000kWの風車1基の完成によって,製氷工場などの港内施設すべての使用電力が賄われることとなる。
 そして,適地であるから当然,風は強い。650t吊油圧クレーンでの組み立ては強風の合間を縫っての作業となり,海路の輸送も波が荒れると途中の港で一休み。工事はもっぱら気象情報との睨めっこである。完成後は恵みとなる風も,建設工事中はやはり悩みの種だ──。
2004.12.05 長崎の工場で製作されたナセル。発電機が入る心臓部だ 2005.01.11 10:12 長崎港を出発するブレード(羽) 2005.01.12〜22 海上運送中の3,000t積台船。波荒れにより予定を5日オーバー
2005.01.23 08:03 波崎漁港に到着。「水切り」と呼ばれる陸揚げ作業 2005.01.23 09:07 陸上を運送されるタワー(柱)。三分割で各20m。建設地が漁港のため移動距離はほとんどないが,通常は“夜中の公道走行”となる
2004.11.11 基礎の杭打ち。直径600mm,長さ14mの杭が13本 2004.11.17 タワーと接地するアンカーボルト工事
2004.11.30 基礎の鉄筋工事 2004.12.03 基礎のコンクリート打設完了。ここまでは土木工事の技術がベース
2005.01.24 07:05現場に勢ぞろいした“部品”。タワーは油圧クレーンで引き上げられ,作業員が接合部に登ってボルトを締める 2005.01.25 15:322本目のタワー設置完了
2005.01.27 09:293本目のタワー設置完了 2005.01.27 14:55 ナセルの据付完了
2005.01.29 06:01〜13:03「地組み」と呼ばれるブレード3枚の地上組み立て。重さ6tのブレードを1枚ずつ慎重に据え付ける。左上はブレードの内部
2005.01.31 06:25〜08:15    工事の“華”となるブレードの架設。直径61.4mの風車の威容が次第に小さくなり,上空でナセルに取り付けられる
2005.02.02 16:50 建設機材が解体されて風車の完成
工事概要
波崎漁業協同組合風力発電建設工事
(水産物鮮度維持施設付帯施設整備事業)
場所:茨城県鹿島郡波崎町
発注者:波崎漁業協同組合
規模:1,000kW×1基 
ブレード直径61.4m 
タワー高さ68m(最高到達点98.7m)
工期:2004年11月〜2005年3月
(関東支店施工)
波崎町 
地上68mの船揺れ
 鋼鉄製のタワー内部は空洞になっており,最上部まで梯子が架けられている。発電機を内包するナセルのメンテナンスのためだ。
 波崎漁港の風車のタワー直径は,最下部で4m,最上部で2.5m。命綱をつけ,ただひたすら真上に身体を運ぶ。途中の“休憩所”は2ヵ所。およそ20分で地上68mの高さのナセルに到着する。そこはまるで船に乗っているかのように,ゆっくりと揺れつづけているそうだ。ナセルやブレードの設置時にはそこで何時間も作業にあたるというから,頭が下がる。
 ちなみに海外の大型の洋上風車は,同様の理由でナセルにヘリポートを頂いている。
ナセル内部の発電機 タワー内部。登るあいだは揺れを感じず,ひたすら上を見ていれば意外と恐怖感はないとか
風の道

風を知る

  適地を探し,“風の道”の実態をできるだけ正確に調査することが,風車づくりの第一歩となる。ここで不可欠なのが,風況シミュレーション技術である。気象や地形,土地利用,人工排熱量といった各データから計算し,風向・風速の分布をコンピュータで割り出していく。
 当社ではこうした技術を活かし,風力発電の事業計画から建設・運営までのトータルなサービスを提供している。そのベースとなっているのは,都市環境シミュレーション技術である。超高層ビルの建設にあたっては,周辺街区のビル風から都市のヒートアイランド現象まで,さまざまなスケールでの環境面の検討が必要となるが,当社は長年にわたって研究・開発を積み重ねてきた。実は,風車建設と超高層ビル建設の風況シミュレーション技術は,まったく同じなのである。
 ビル建設のシミュレーションでは,広域・地域・街区レベルはもちろん,広場の風況や熱空気環境も予測している。また,ビルの足元や室内における人々の体感温度といった観点からも,計算精度のさらなる向上を図っている。とくに近年は,証券化やPFIといった事業手法の展開にともなって,建物の資産評価が大きなポイントとなっているため,環境性能の評価ツールの開発に力を入れている。
 当社の風力発電に関する技術の背景には,人々の生活環境の快適性を追求する思考と建設技術が脈々と流れているのである。
風況シミュレーション技術
超高層ビルの建設計画におけるコンピュータでの風況シミュレーション。周辺街区への影響(左),ビル付近の温熱分布をメッシュで割り出した(右)
風を知る
風と生きる
 新エネルギー施設の建設から都市再生事業,室内環境設計まで幅広く活用される風況シミュレーション技術。当社ではその技術を大きく三段階に分けて使用している。
 まず,ビル風対策が専門家でなくても簡単に評価できるように,イントラネット上に簡易予測システム「KAJIMA Wind Web 」を構築している。ビル風の発生を左右する建築計画の初期段階はもちろん,建設現場の工事対策としても利用できる。
 2番目の技術が,前頁で紹介したコンピュータによるシミュレーションだ。
 そして,もっとも精密なシミュレーションが可能なのは,当社技術研究所の有する大型風洞実験施設である。近年のコンピュータ技術の発展はめざましいものの,精密なモデル実験のレベルまでには達していない。建物やインフラ施設による“風の道の影”は複雑に影響しあうからだ。
 こうした技術は,大規模ウィンドファームにおける風車の配置計画にも役立っている。風の力を活かすためのデザインともいえよう。
 自然換気を採り入れた超高層ビルが登場しているように,風と共生する環境づくりが着実にはじまっている。電力に生まれ変わる“強い風”だけでなく,街を吹き抜ける日常的な“弱い風”とうまく向き合うことも可能なはずだ。当社は,風を大地の呼吸としてとらえ,“風通し”のよい環境づくりをめざしている。
当社技術研究所での大型風洞実験の模様。大型ウィンドファームにおける風車の配置計画でも活躍している
風車の環境アセスメント
 風力発電の適地は,自然環境に恵まれているケースが多い。風車の大型化が進むなかで,景観をふくめた環境保全の検討は,さけては通れない道である。野鳥や景観への影響の懸念によって事業計画そのものを凍結した例もあるほどだ。
 こうしたなかでますます重要になるのが,環境アセスメントである。事前の現況調査と影響予測,その結果による環境保全策の立案といった一連の検討手法であり,関係者間での合意形成をもとに進められていく。具体的には,景観面における自然と風車のテクスチュアの背反がポイントとなり,配置計画やデザイン面で総合的な対策が求められる。また,「バードストライク」と呼ばれる野鳥と風車の“衝突事故”を防ぐために,十分な調査と対策が必要となる。
 当社では,都市開発などの建設事業と同様に,風車建設にともなう環境アセスメントを実施している。調査から環境保全策の提案に至るまで,トータルなサービスのなかで活かされるのが,リゾート施設の総合開発などで培ってきた数々の実績とノウハウだ。自然環境の保全と事業の効率的推進の両立を図るとともに,エネルギーの面でも施設の存在面でも地球環境にやさしい施設づくりをめざしているのだ。
風車建設における環境アセスメント。上は野鳥などの猛禽類(もうきんるい)調査の模様。背景のCGは大型ウィンドファームの施設計画および景観のシミュレーション
風の望

日本の風力発電は今後どのように進んでいくのだろうか──
その展望を松宮(ひかる)九州大学教授にうかがった。流体力学が専門の松宮教授は,日本の風力発電技術のオピニオンリーダーとして,長年にわたり国際会議の舞台で活躍している。
今日の新エネルギー開発の発端は,第一次オイルショック(1973年)を契機とした「サンシャイン計画」がよく知られているが,この産官学をあげた開発・実用化計画に松宮教授は当初から参画し,以来,風車一筋の研究開発活動を行ってきた。

profileまつみや・ひかる
松宮 /まつみや・ひかる
九州大学工学研究院教授
(機械科学部門 熱流体講座)
1943年生まれ。1974年東京大学工学系大学院修了。
1974年より工業技術院機械技術研究所で流体関連の研究に従事し,1978年より風力研究(旧通産省「サンシャイン計画」)を推進。
NEDO,日本電機工業会,新エネルギー財団などの風力関連委員会委員のほか,IEA(国際エネルギー機関)風力共同研究執行委員会委員,IEC(国際標準会議)委員などを歴任。
2004年7月より現職。
2005年3月,世界風力エネルギー会議(Global Wind Energy Council)設立にあたって11名の理事のひとりに選出された。

風力も使えないようでは地球環境は守れない

風力のあゆみ
 日本の風力発電の歴史は,オイルショック後の1978年にスタートしました。つまり石油を代替できる再生可能エネルギーが求められたのです。80年代後半になって石油供給が安定するとその灯火は消えかけそうにもなりましたが,90年代以降の地球環境問題の発生によって再び脚光を浴びるようになり,今日に至っています。
 さまざまな自然エネルギーがあるなかで,風力発電はとくにクリーンな一次エネルギーの技術です。この21世紀から将来にかけて伸びていくのは間違いありません。70%という高い成長率は,過去5年と過去10年の統計のいずれでも,世界でも日本でも記録された数値ですが,これはシリコンバレー産業以来の伸び率なのです。
 風力は「地球環境を守るエネルギー」といえますし,風力も使えないようでは地球環境は守れません。
「日本の風車」を世界に

日本の風事情
 以前の日本では,地形と気候が風力発電に適していないといった議論もありました。しかし実際に調査してみると,日本は風に恵まれていたのです。ただし,風が荒くて強い。穏やかで安定した風という発電の理想とは正反対です。この風の性質が弱点であり,課題なのです。
 現在の日本の電力会社による電力系統は,非常に安定していますから,変動の激しい“風まかせ”エネルギーは発電施設と認められていません。われわれ風力関係者からみれば,風は冷遇されているようにみえますが・・・・・・。EUでは,この不安定さをカバーするために,各国間で風力発電量をお互いに交換しています。国際的な視野でみれば,“孤立した電力系統”となる日本では,たとえばバッテリーによる電力のバックアップ技術の研究もはじまりました。
 そしてもうひとつの課題が,台風によるダメージです。実は2003年ごろには,日本の風車技術はもはや成熟したとさえいわれていました。ところが実際に,風車が倒れ,ブレードが破損したのです。台風などの日本独自の外部環境を考慮して設計する必要性は,私たち研究者が以前から訴えてきましたが,現実のものとなってしまいました。
 現在の国際基準には,後発国である日本の経験は加味されていません。台風に耐えうる風車は,「Sクラス」にあたり,設計基準を逸脱する“スペシャル”となります。ここまでの技術レベルはどこの国も手掛けていない“空白地帯”なのです。しかし,日本の技術力をもってすれば実現できるでしょうし,“S-Jクラス”“Jモデル”といった日本の標準をつくるべきです。政府も動いていますから,おそらく数年先には成果が得られるでしょう。
 日本独自の基準をつくり,国際基準の空白に埋め込んで,海外メーカーも日本用の風車を製作できる。そんな関係が望ましいですね。
波崎漁業協同組合の風力発電施設
海外よりもさらなる努力を

洋上発電に向けて
 オフショア(洋上発電)では,日本は世界から5年遅れています。ヨーロッパが90年代から開発してきたのに比べると,正式なオフショアは未着手の段階で,堤防と浜辺の中間に立つ「セミオフショア」に留まっています。基礎工事があるという面では,陸地での建設と変わりません。
 ヨーロッパは“遠浅”の海岸ですが,いわば“急深”の日本では新しい技術の開発が求められます。風車を水面に浮かべるフローティング技術のほかに,船上に乗せることも夢みているのです。
 また,景観への配慮も重要です。ドイツではこの問題を重視し,海岸部からの視野の邪魔にならないように,海岸から沖合い10km以上を洋上風車の建設地としています。日本に置き換えると,無制限に風車を建設すれば全国の海辺は鳥かごのような風景になってしまう。日本の海は,欧州の遠浅に対し急深ですので,そもそも適地は欧州に比べそれほど多くありません。日本の技術開発は,海外よりもさらに努力しなければなりません。
 こうした点でみると,国際議論をできる機関が日本にないのが若干の心配材料ですね。たとえば, IEA(国際エネルギー機関)の風力国際共同研究ではアメリカを幹事国として「ディープオフショア」の研究会が立ち上がり,世界各国が参加しましたが,日本からはまだ手が挙がっていません。5年以上のスパンでオフショアを研究しなければ着手さえできないでしょう。長期的視野の欠落は産官学それぞれの反省点だと思います。
 といっても,日本の風力発電量は世界8〜9位ですから,決して悲観的なレベルではありません。私自身が楽観主義者ということもありますが(笑)。もっとも大切なのは,日本が主体的に“本当の自国技術”を開発し,台風や落雷,電力系統といった対策で国際的な主導権の獲得をめざすことなのです。オフショアでは台風被害の二の舞は絶対に避けねばなりません。
 風車は耐久商品ですから,安定稼動と壊れないことが第一です。台風で被害を出した宮古島の風車は,導入に際しての台風などの風加重の想定といった外部条件の見積もりや,基礎工事の施工などが,私の目から見れば甘かったように映りました。事業者や政府がきっちりと調査を行っています。
国際主導権の獲得へ

CO2削減と風力発電
 最大の心配事は,地球温暖化は予想しきれないことです。石油文明の黄金時代だった20世紀後半のわずか50年のあいだに地球環境は急激に変化しました。温暖化を真に防止するためには,CO2などのガス排出量を即刻50〜60%に削減しなければならない計算になります。ところが画期的といわれる京都議定書でさえも,その目標値は6%なのです。
 日本の風力発電量は,2010年で300万kWを目標とし,現在ほぼ1/3が達成され,まちがいなく実現できると思います。しかし,CO2削減の“真の目標”とは10倍の開きがあるのに,このような悠長な変化で本当によいのでしょうか? そして2020年までのつぎの10年に何をすべきなのでしょうか?
 EWEA(欧州風力エネルギー協会)とグリンピースは, 2020年までに全世界の総電力の12%を風力で賄おうと提唱しています。これを日本にあてはめると6,000万kW。2010年の国内目標の20倍です。しかし,やらなければ世界レベルには追いつけません。事実,デンマークでは現状で20%を達成しており,ドイツやスペインの一部の州では数10%にもなっていますから,決して日本でも不可能ではありません。
 風力だけで環境問題のすべてが解決できるとは思いませんが,やはり風力は地球環境保全を支える不可欠な自然エネルギーなのです。
風力発電の目標を20倍に

世界のなかの日本

 日本の大型風車メーカーは三菱重工業さん一社ですが,その技術は世界トップレベルです。わが国の技術力はやはり世界のトップレベルですから,しっかりとした研究開発と将来展望を持てば,風力はまだまだ発展します。かつて1,000kWの風車は日本で立たないといわれていましたが,いまでは予想をはるかに上回る大きさとなり, 2,000kWを超える国産機も生まれました。
 まだどの国も達していない,飛び切り耐久性の優れたSクラスの標準をつくり,日本の技術を世界に発信したい,売り出したいと思っています。国際会議でも,「いまのままでは日本で通用しない」と口うるさく発言していますから(笑)。これからも風力発電の発展に少しでも役立てればと思っています。