特集:ハイ・ファッション & テクノロジー
都心に「氷山」を築く The Iceberg
徹底したガラスファサードがつくり出す見上げ。強化合わせガラスに用いられた2色の中間膜がシャープな造形を引き立てる
The Iceberg都市のクリスタル
 東京・原宿の神宮前交差点から明治通りを渋谷方面へ250mほど歩くと,足を止めて見上げてしまう大胆な造形のビルが現れる。「The Iceberg(氷山)」と名づけられた7階建ての商業施設ビルは,ファサード全面がガラスで覆われ,大きな傾斜が連なって通りにそびえ立っている。
 通りに面した垂直のガラス面は中央のエレベータ・シャフトだけ。さらにガラスに用いられたブルーとメタリックの2種類の中間膜が,建物の立体感を際立たせている。その名のとおり,“氷山”を思わせる建築デザインは,スタイリッシュなビルが立ち並ぶ原宿・表参道エリアでもひときわ強い存在感を放つ。
 夜になると,街の灯りが乱反射して華やかさをいっそう引き立てる。デザインコンセプトの「都市に投げ込まれたクリスタルの結晶」を強く印象づける。

部材はすべて特注品
 「The Iceberg」のファサードのガラスは1枚ずつほぼすべて形状が異なる。これに合わせてガラスを支持する「マリオン」や,ガラスを固定する「ノード」と呼ばれる部材の形状も少しずつ違う。これらはすべて特注品だ。
 ファサードのガラスは内側から留められており,継ぎ目に余計な部材がなく,すっきりとしている。エレベータ・シャフトには,高透過ガラスを用い,コーナーの部材を最小限にとどめていることが「透明な箱」の印象を強めている。ファサードに用いられる強化合わせガラスは,最新の加工技術や貼り合わせ技術を駆使し,たしかな品質を誇る。徹底的なガラスファサードが「クリスタルの結晶」のイメージをつくり出しているのだ。
 建設にあたって最も苦心したことのひとつが施工図の作成である。「3次元CADと3次元トランシットを用いないと不可能」と現場を担当した八隅竹水所長は語る。ガラスや構造支持部材,鉄骨は3次元CADで形づくられて製作図面に置き換えられた。さらに模型とモックアップ(試作品)による施工検証や,実大の振動試験での検証が加えられ,ディテールが決まった。

イメージをつくるディテール
 「体験したことのないディテール」と八隅所長が語るのが,ビル最上部。斜めに延びるガラスが,垂直なエレベータ・シャフトを突き抜けている。エレベータが動くシャフトのところだけ,斜めガラスがくり抜かれて,エレベータ本体を支えるワイヤーなどが通っているのである。
 「クリスタルの結晶」のイメージをつくり上げるのはこうした技巧的なディテールの積み重ねだ。もはや精密機械と呼べる細やかさが,最先端の建築デザインに鮮烈な輝きをもたらすのである。
エレベータ・シャフトの最上部では,垂直なガラスのシャフトが斜めガラスを貫通している エレベータ・シャフトのコーナー部分。ガラスを固定するノードが取り付けられている。三方のガラスの荷重を3本の片持ち梁が支持することでシンプルなつくりが実現した 3次元CADの画面上で割り付けられる斜めのガラス。3次元トランシットとの組み合わせによって,より高精度にディテールの検証が行われる
斜めのガラスは床スラブに取り付けられたマリオンが支えている。2枚のガラスが縦に継がれる2,4,6,R階は,マリオンも長さ6m,重量約360kgの特大サイズとなる(写真左) ガラスとマリオンが割り付けられた立面図。ガラスやマリオンの角度はひとつとして同じものがない
建物概要
場所:東京都渋谷区/発注者:ヴェロックス明治通り特定目的会社/設計:シー・ディ・アイ青山スタジオ/用途:商業施設,事務所/規模:S造一部SRC造 B1,7F,PH2F 延べ4,412m2/工期:2004年8月〜2006年4月
(東京建築支店施工)

 都心に「氷山」を築く The Iceberg
 ねじれるファサード (仮称)ピアス銀座ビル
 軽やかに包む石のカーテン ザ ジュエルズ オブ アオヤマ
 銀座をうるおす垂直の庭 ニコラス・G・ハイエックセンター
 紙工作のような白い塔 (仮称)青山プロジェクト