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KAJIMAダイジェスト

SAFE+SAVE 支援と復興の土木・建築

CASE3 水くみが楽しくなる遊具(南アフリカ)

途上国における水汲みは,主に子どもや女性の仕事である。これがあるために,子どもたちは十分に学校へ行くことも遊ぶこともできない。女性も学んだり就業するのが難しい。しかし,南アフリカでこうした問題を解消する画期的な2種類の遊具が生まれた。

「プレイポンプ」は,その名のとおり遊具になったポンプであり,子どもが遊ぶエネルギーで水をくみ上げる。子どもたちが遊具を回転させることによって,地下40mから水が汲み上げられて地上7mに設置された貯水槽に溜まる。集落の人たちは自宅の蛇口をひねれば貯水槽の水を手に入れることができるという仕組みだ。1996年にデザイナーのトレバー・フィールドが風車によるポンプをヒントにしてつくりだした。

遊具を1分間に16回転の割合で回すと,1時間で1,400リットルの水を汲み上げることができる。貯水槽の容量は2,500リットルであり,オーバーフローした水は地下へ戻るようになっている。この仕組みを使えば,地下100mまでの水を汲み上げることができる。

子どもたちが集まりやすいように,ポンプは,学校の近くに置かれることが多い。集落の自治会によって設置されるが,問題はコストである。設置費と15年分の管理費を合わせて1基あたり85万円。通常のポンプの3倍だ。そこで,この費用を広告費でまかなうことにした。地上7mの貯水槽の四面に看板を設置し,二面に企業広告を,残り二面には健康や教育に関するメッセージを掲載することにしたのである。

写真:ポンプで遊ぶ子どもたち。ポンプを回すと背後上空のタンクへと水が吸い上げられる。タンクを囲う看板には保健省の広告が掲げられている

ポンプで遊ぶ子どもたち。ポンプを回すと背後上空のタンクへと水が吸い上げられる。タンクを囲う看板には保健省の広告が掲げられている

写真:子どもたちが回転遊具で遊ぶと(写真左下),給水タンクに水が貯まり(右上),水道の蛇口をひねれば水が出てくる(右下)

子どもたちが回転遊具で遊ぶと(写真左下),給水タンクに水が貯まり(右上),水道の蛇口をひねれば水が出てくる(右下)

当初,南アフリカの集落に掲げた看板に広告主は現れないだろうと言われた。ところが実際には多くの広告主が集まっている。企業がCSRとして広告を出す場合もあるし,行政が住民に知らせたいメッセージを掲げることもある。たとえば南アフリカの電力省は,電気の危険性や注意事項などを看板に掲げている。集落にはテレビはもちろん,ラジオもほとんどない。必要な情報を伝えるための媒体がほとんどないからこそ,看板が価値を持つのである。

これによって集落の人たちに経済的な負担をかけることなく,手軽に地下水を集落に分配することができるようになった。ポンプにはフリーダイヤルの番号が記されており,故障したら誰でもすぐに連絡できるようになっている。

写真:回転遊具は子どもたちに人気だ。遊べば遊ぶほど地下水がくみ上げられる

回転遊具は子どもたちに人気だ。遊べば遊ぶほど地下水がくみ上げられる

こうした仕組みを考え出したのは,デザイナーのトレバーたちにほかならない。「水や衛生設備の不足によって毎日6,000人が命を落としている。こうした悲劇は安全な水を供給することによって回避できる」とトレバーは語る。「一方,アフリカでは毎日6,000人がエイズによって亡くなっている。感染しやすいのは地方に住む若い女性だが,彼女たちは予防のための情報が得られない。看板にエイズに関する適切な情報が掲載されれば,多くの集落で正しい認識を持つことができるだろう」

清潔な水とエイズの知識。プレイポンプは,持続可能な仕組みによって二つの課題に取り組んでいるといえよう。

改ページ

1991年,南アフリカのデザイナー,ジョアン・ジョンカーとぺティ・ペッツァーは,転がして運ぶことのできるローラー型のタンクをデザインした。

それまで南アフリカの女性や子どもが生活用水を運ぶ際に使っていたポリバケツは,約20リットルの水しか入らなかった。それを頭や肩の上に載せて運ぶため,それ以上重くなると持ち運べなくなるからである。場所によっては生活に必要な水量を確保するために,給水地と自宅を1日に3往復しなければならなかった。時間を拘束するだけでなく,さらに,20kgの水を頭上に載せて歩くことによって背骨が圧迫され,子どもの健全な成育に支障が出ることも多かった。

「ヒッポウォーターローラー」と名づけられたこのローラーは,一度に90リットルの水を運ぶことができる。地面を転がす仕組みになっており,ポリウレタン製のローラーは地面の凹凸に反発するデザインになっているため,90kgの水を運んでも体感としては10kg程度の重さにしか感じないという。頭上に載せていたポリバケツの4倍以上の水量であり,長ければ7人家族が1週間の生活を営むことができる。

写真:ウォーターローラーは子どもでも簡単に転がすことができる

ウォーターローラーは子どもでも簡単に転がすことができる

写真:ローラー以前はバケツを頭や肩に載せて水を運んでいたため,子どもや女性の身体への負担が懸念されていた

ローラー以前はバケツを頭や肩に載せて水を運んでいたため,子どもや女性の身体への負担が懸念されていた

写真:ローラーは地面の凹凸に反発するようなつくりになっているため,舗装されていない道路でも水を運ぶことができる

ローラーは地面の凹凸に反発するようなつくりになっているため,舗装されていない道路でも水を運ぶことができる

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写真:水くみに出発する一団。水を運ぶために要していた時間を短縮することができた結果,子どもが学校へ行けるようになったり,女性が起業できるようになった

水くみに出発する一団。水を運ぶために要していた時間を短縮することができた結果,子どもが学校へ行けるようになったり,女性が起業できるようになった

これによって,時間とエネルギーが節約されると同時に,背骨への負担を減らすことができた。女性や子どもたちは学んだり遊んだりする時間を手に入れた。実際,多くの集落において教育レベルや識字率が向上し,なかには女性起業家の数が増えた集落もあるという。

ローラーの耐用年数は7年間で,販売価格は9,000円。発売された1991年以降,南アフリカ共和国を中心にアフリカ全土で3万2,000個以上のローラーが使われており,22万5,000人以上の生活を変えている。

ヒッポ(Hippo)はカバを意味する。樽のような胴体,しっかりした足,大きな口を持つカバは,きれいな水へのアクセスが失われることによって絶滅危惧種になっており,このローラーの象徴的な存在である。

改ページ

写真:給水地でハンドルを外し,ローラーの蓋を取って水をいれる

給水地でハンドルを外し,ローラーの蓋を取って水をいれる

写真:ローラーの価格は9,000円。アフリカ全土でこれまでに3万個以上売れている

ローラーの価格は9,000円。アフリカ全土でこれまでに3万個以上売れている

写真:アメリカの非営利団体「Water People」がまとめて購入したローラーが,井戸をもたない3つの集落に届けられることもある

アメリカの非営利団体「Water People」がまとめて購入したローラーが,井戸をもたない3つの集落に届けられることもある

山崎 亮 やまざき・りょう
ランドスケープ・デザイナー。studio-L代表。1973年生まれ。Architecture for Humanity Tokyo / Kyoto設立準備会に参画し,復興のデザインの研究を行う。著書に『震災のためにデザインは何が可能か』(NTT出版)など。Architecture for Humanityはサンフランシスコを拠点に世界各地で復興や自立支援の建設活動を主導する非営利団体。

参考資料

  • Design Like You Give a Damn: Architectural Responses to Humanitarian Crises, Edited by Architecture for Humanity, Thames & Hudson.,Ltd. 2006
  • Design Revolution: 100 Products That Empower People, Edited by Emily Piloton, Metropolis Books. 2009.
  • Hippo water rolle ウェブサイト: http://www.hipporoller.org/
  • Water for people ウェブサイト: http://www.waterforpeople.org/

(写真提供:©The Hippo Water Roller Project/©Roundabout Water Solutions)

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