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復興まちづくり 女川町―復興モデルのルールを築く

写真:宮ケ崎水産加工団地の予定地

宮ケ崎水産加工団地の予定地。雪化粧の盛土はその一部

目に見える復興を

昨年末,宮城県女川港の一画に,高さ1mあまりの盛土が姿を現した。わずかな変化かもしれないが,これは復興まちづくりのスタートの合図でもある。ここに水産加工場などが並ぶ計画であり,全国有数の港町にとって再生の旗印となる。

「職と住と,生活基盤の両輪が整ってこその復興。それが目に見える工事がやっとはじまった」。地元の漁業組合で支所長を務める平塚正信さんは,水産加工団地の復活を心待ちにしてきた。港だけでは漁業のまちは成り立たない。

高さ20mもの津波に襲われた女川町は,船や工場など漁業施設のほとんどを失った。昨年のサンマ漁船の受け入れは震災前の7割まで回復したが,50社を超えた水産加工場は現在5社。町外で再開した施設も少なくない。

漁業従事者は,多額の再投資,高齢化や後継者不足といった問題を抱え,時間が経つほど廃業者も増える。「何もないところに人は戻ってこない」。平塚さんは一刻も早い整備事業の完成を訴える。

写真:何もないところに人は戻ってこない。 平塚正信さん(宮城県漁業協同組合 女川町支所長)

女川港の水揚げ量は回復してきたが,それを受け入れる水産加工場の再建が待たれる

まちづくりを丸ごと担う

女川町は中心市街地が壊滅的な被害に見舞われ,離半島部にも深い傷跡が残された。その再建は,あまりにも広範囲にわたる。

こうした被災市町村の復興を支援しているのが,都市再生機構(UR)である。震災直後から各地に職員を送り,復旧活動に取り組んできた。そしていま,助けを要する自治体に対し,復興まちづくりを丸ごとURが担う事業がはじまっている。

その第一弾が「女川町震災復興事業」である。住民の結束力が強く,いち早く意思がまとまり,町とURとが「パートナーシップ協定」を締結。住まいの集団移転から市街地の再構築まで,個々の建物を「点」で考えるのではなく,まちを「面」でとらえる画期的な整備として,全国の注目を集めている。

写真:まちを面でとらえて整備する。

再建の槌音が高まってきた女川町

高低地の機能を入れ替える

「あの日から変わらない風景がつづいてきた。公営住宅ができる宅地を一日も早く見せてほしい」。いまも仮設住宅に家族5人で暮らす齋藤智枝さんはそう願ってやまない。町民共通の思いだ。

齋藤さんが勤める女川町商工会は,高台の復興商店街の一角に移転し,地元経済の再生に取り組んでいる。その近くの山林が,今年はじめに切り開かれた。当社JVによる住宅用地の造成工事がスタートしたのだ。

女川の復興まちづくりの骨子は,土地の高低に即した機能の入れ替えにある。漁港を囲むように低地に広がっていた宅地を高台に移し,低地には水産加工団地などの公共施設をつくって防災に備える。15もの集落が点在する離半島部では,海に面した山あいの地それぞれに,高台の宅地を整備していく。

「個々の工事は,特別な技術を要するわけではない。求められるのは早期復興への総合的なマネジメントの力」。当社JVの指揮をとる髙橋秀充所長は,統括管理技術者としての命題を掲げる。

写真:宅地を一日も早く見せてほしい。 齋藤智枝さん(女川町商工会 職員)

(左)氷点下のなか工事が進む宮ケ崎水産加工団地、(右)新たな高台の宅地のひとつ荒立西地区

スピード感と透明性の確保

「スピーディさが町の最大の期待。そのためには町とURと私たちが一丸となり,前例のない方式を模索しながら,新しいルールを築かなければならない」

髙橋所長が取り組む課題は,コンストラクション・マネジメント(CM)方式を用いた震災復興事業。女川町のプロジェクトが,今後の復興まちづくりのモデルとして注目される理由だ。宅地造成,道路や上下水道などのインフラを総合的に整備していくなかで,当社JVは施工業務だけでなく,調査,測量,設計などを一体的にマネジメントする。

CM方式の導入によって,復興事業を各地で行う発注者URを当社JVがサポートできる。計画段階からの参画となるため,技術提案(VE)の機会も広がり,準備が整ったところから順次着工できるメリットもある。目的は,工期短縮による早期復興にほかならない。

また,一連の業務の透明性を確保するために,全コストを開示する「オープンブック方式」を採用したのも新しい試みだ。一般に,公共工事の金額は契約時に決まり,施工者は計画にもとづいて予算を執行するなかで利益を生み出す。それに対して今回の方式では,原価に対する一定比率のフィーが報酬となり,透明性の高いよりよいまちづくりを追求できる。

原価の適正性は,第三者機関の監査法人による会計監査で確保される。都市整備での国際監査基準の適用も,わが国初となる。

写真:スピーディさが町の最大の期待。 髙橋秀充所長(おながわまちづくりJV工事事務所)

朝礼で恒例の「体操の前・体操」(右)。ラジオ体操の準備体操だが,身体がじつによくほぐれて気持ちよい。寒風のなかで安全工事に邁進する

ないものを生み出す醍醐味

このプロジェクトでは,地元企業を最優先に活用することが,基本方針に掲げられている。復興の一助となるためだ。

被災地では労務不足による賃金の高騰も予想されるが,コスト開示と第三者の監査によって,透明性を保ちながら地元の人材と資材を採用できる。オープンブック方式の試みは,結果的に地元活用に寄与することにもなる。

女川町は,原子力発電所やトンネル,運動施設の工事などで,当社とはゆかりが深い。「この地では,できないとは言えない。前例がない方式ゆえのルールづくりは大変だが,ないものを生み出す仕事の醍醐味ととらえ,所員の士気は高い」

髙橋所長が率いるJV職員は現在33名。早期の復興のために,全国の精鋭が小さな仮事務所に乗り込んできた。これまでは地元建設会社に間借りしての奮闘だったが,新しい事務所が間もなく完成し,増員もつづく。

髙橋所長は,県内の大規模宅地開発を数多く経験した造成工事のエキスパート。女川町での土地勘も買われ,10年ぶりの現場登板となった。「ただ復興のために,全力をつくす」

所員たちの意気込みは,「おながわまちづくりJV工事事務所」という名前に表れている。たんなる造成工事ではなく,まちの再建を支援する。新しい仕組みを築けば,ほかの被災地でも生かされる。苦しくもやりがいのあるルールづくりこそが,彼らの復興支援なのだ。

写真:全国の精鋭が小さな仮事務所に集結。 おながわまちづくりJV仮事務所

Column きぼうのかね商店街 中心市街の再生にむかって

写真:被災地ツアーを見るのは辛かったがそれも頼みの綱。 遠藤進さん(女川町商工会 経営指導員 主幹)

遠藤進さん(女川町商工会 経営指導員 主幹)

「いまも通常業務には戻れていない」。女川町商工会の遠藤進さんは,本来の担当である年末調整のシーズンになっても,震災対応から手が離せない。国などの補助金の申請に,被災会員が繰り返し殺到するためだ。低地の市街に集中していた商店のほぼすべてが津波で流失した。

あの日,港近くの商工会館にいた遠藤さんは,水没していく建物の屋上で,給水塔に男性4人でしがみつき,九死に一生を得た。その後は労災担当として,会員の家族探しで避難所回りの日々。明け方まで仕事に没頭する日がつづいた。

「被災地ツアーで他県から来る人々が,カメラを向けあう姿を見るのは,当初辛かった。しかし女川の商店には,それも頼みの綱となる買い物客」。被災地ツアーが遠のく将来を懸念し,地域通貨や宅配サービスなどの導入によって地元商店の活性化に取り組む。

昨年4月にオープンした「きぼうのかね商店街」は,50の仮設店舗が連なり,銀行・郵便局・交番からなる建物も隣接する。がれきから見つかった「希望の鐘」をシンボルに,高台の県立高校のグラウンドに建てられた。

地域に親しまれてきた飲食店が復活し,お昼どきは行列もできる。漁港とともに女川の復興の中心となるこの商店街に,ぜひ足を運んでほしい。

写真:市街にあった50の商店が再集結した「きぼうのかね商店街」

市街にあった50の商店が再集結した「きぼうのかね商店街」

●工事概要

女川町震災復興事業

場所:
宮城県女川町
発注者:
独立行政法人都市再生機構
受注者:
鹿島・オオバ震災復興事業共同企業体
対象地区:
[早期整備エリア]中心市街地7ha(荒立西,荒立東,宮ケ崎水産加工団地の一部), 離半島部14ha(防災集団移転促進事業等の7地区:指ヶ浜,御前浜,尾浦,桐ヶ崎,高白浜,大石原浜,寺間)
[次期整備エリア]中心市街地約100ha,離半島部約15ha(防災集団移転促進事業等の最大8地区:竹浦,横浦,野々浜,飯子浜,塚浜,出島,江島,小屋取)
業務:
震災復興の造成工事に関するマネジメント業務,地質調査,地形測量,詳細設計,許認可に関わる図書作成および施工業務
工期:
[早期整備エリア]2012年10月~2016年3月
[次期整備エリア]未定

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