特集:都市の地下を築く

Chapter0 地下空間の担う役割

 政治・経済・文化の中枢として機能する都市。地上には超高層ビルが建ち並び,人々の生活圏は上空へとひろがりを見せている。さまざまな交通機関や人が行き交い,ますます複雑化する都市にあって,光や緑のある地上は,人々に潤いをもたらす憩いの空間でもある。
 一方で,人々は地下空間にもひろがりを求めてきた。もともと都市の地下は,70年以上も前に初めて東京に地下鉄(浅草〜上野間)が建設されたように,多くは交通・エネルギー供給・上下水道など都市のインフラを担う空間として利用されてきた。
 現在の都市における地下の役割はどうであろうか。都市は,主に先進的な産業活動の場としての整備が優先して進められ,慢性的な交通渋滞や集中豪雨による水害の発生など,暮らしや生活を支援するインフラ機能の整備は未だ十分とはいえない。都市の魅力と国際的な競争力を高める「都市再生」を推進する上でも,これから都市の地下を高度に利用し,インフラ機能の整備を進めることがますます重要となっている。
 地下の利用に関する法的な整備も進められてきた。2001年4月から「大深度地下の公共的使用に関する特別措置法」(大深度地下利用法)が施行されている。この法律は,通常は利用されない大深度の地下で公共の利益となる目的で事業を進める場合は,事前に補償を行うことなく使用権を設定できるようにしたものだ。この施行によって,地下利用の権利取得が円滑に進み,事業が計画的に実施できること,合理的な地下利用ルートの設定が可能となり事業期間の短縮・コスト縮減が期待できることのほか,「早い者勝ち」や「虫食い」的な利用による無秩序な開発を防止することなどが期待されている。
 厳しい経済環境,多様化する人々の価値観,環境意識の高まり・・・。効率の追求を大命題としながらも,高密度に利用された地上の都市機能や人々の憩いの場とのつながりも確保するなど,都市の地下でインフラを構築するための課題は多様だ。今月の特集では,これからの都市の地下利用のあり方,そこで当社が果たすことのできる役割を紹介していく。
column 錯綜する都市の地下
東京都区内の国道地下に収容されている管路延長  大都市の地下には,鉄道,エネルギー,電気通信,上下水道などのインフラ機能を担う多くの構造物が敷設されている。そして,これらの多くは公共用地である道路下にあり,東京都の国道1kmあたりに埋設されている管路の延長は実に約36kmにも達している。
 また,これまでの地下の利用は,浅い地下から順に進んできている。東京の地下鉄トンネルにおける最大深度の構築年度推移からもわかるように,新たに建設される施設は,既存施設を避けてさらに深い地下に設置されるようになっている。
 地下構造物にかかる土圧の増加や,地上からのアクセスの困難さなど,地下利用の深度が大きくなるほど,建設条件も利用条件も厳しくなることは否定できない。錯綜する都市の地下で,いかに効率的にインフラ構築を進めていくか。建設技術者の課題は大きい。
東京の地下鉄におけるトンネル部最大深度の推移


|Chapter0 地下空間の担う役割
|Chapter1 より快適な暮らしのために
|Chapter2 地下を築く最新技術
|Chapter3 都市の明日をみつめて