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KAJIMAダイジェスト

Reviewing how the tower came into being

「AKASAKA K-TOWER」誕生までの秘話を,プロジェクトの設計・施工に携わったおもな担当者に聞いた。
その背景,コンセプト,デザイン,技術・・・,6年を超える時の中には,ものづくりへの熱い思いと様々なドラマがあった。

写真:座談会 出席者

座談会 出席者

写真:山本敏夫 常任顧問

山本敏夫(やまもと・としお)
常任顧問(元専務執行役員
建築設計本部長)

写真:長谷川俊雄 専務執行役員

長谷川俊雄(はせがわ・としお)
専務執行役員

写真:播 繁 播設計室 代表

播 繁(ばん・しげる)
構造設計家
播設計室 代表取締役
(元当社建築設計本部
構造設計部長)

写真:乕屋 正 (株)イリア シニアプロデューサー

乕屋 正(とらや・ただし)
インテリアデザイナー
(株)イリア シニアプロデューサー (元当社建築設計本部
インテリアデザイン部長)

写真:鈴木聡一郎 建築設計本部 グループリーダー

鈴木聡一郎(すずき・そういちろう)
建築設計本部
グループリーダー

写真:川上敏男 東京建築支店 所長

川上敏男(かわかみ・としお)
東京建築支店 
AKASAKA K-TOWER所長

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鹿島の精神を受け継ぐプロジェクト

山本 「AKASAKA K-TOWER」がこの2月に,無事竣工の運びとなりました。本日は,2005年の企画スタート以来,長い道のりを共にした皆さんに集まって頂きました。
 春空に向かって伸びるKタワーの風景は格別ですね。感無量な思いです。
乕屋 広場の木々も芽吹き,そこを通り抜ける人々の姿を見ていると,この街の新たなスポットとして受け入れられたことを肌で感じています。
山本 さて,今日は最初に「AKASAKA K-TOWER」が計画された背景についてお話することで,改めてこのプロジェクトが当社の歴史の中で大きな意義を持つことを,我々関係者間で再認識したいと思います。
長谷川 身が引き締まりますね。
山本 このプロジェクトの背景には,歴史的価値のある旧本社ビル・旧赤坂別館を取り壊すことを決断し,最新性能の新本社,新別館にその機能を移すという経営的判断がありました。旧本社ビル跡地の開発に相応しい,鹿島の精神を生かしたビルにつくりかえるという使命のもと,開発事業本部とともに様々な事業プランを検討した結果,賃貸オフィス・住宅の超高層ビルという企画で,当社の最新技術を合理的に結集して,耐久性や更新性に優れた100年以上使える建築を目指しました。
長谷川 次の100年もこの赤坂地区のランドマークでありたいという関係者一同の熱い思いが込められたリーディングプロジェクトなわけです。
川上 大変貴重なプロジェクトに関与できたことを実感する次第です。

写真:新本社(左)と解体前の旧本社ビル1棟(右)・2棟(中央)

新本社(左)と解体前の旧本社ビル1棟(右)・2棟(中央)。白のグリッドと濃灰色のガラスが織りなすファサードデザインは,鹿島の建築を象徴するデザインとして確立され,新しい鹿島本社ビルはじめ鹿島赤坂別館,AKASAKA K-TOWERと受け継がれている

構造美・機能美を追求したアウトフレーム構造

山本 1968年に竣工した旧本社ビルは,鹿島最高相談役を中心に設計されたものでした。Kタワーの設計についても,最高相談役の様々な方針に基づいて行われました。このプロジェクトの設計統括に鈴木君を抜擢したのも,「若くて柔軟な設計担当者を選ぶように」との最高相談役のご指示からでしたね。
鈴木 2005年10月だったでしょうか。当時の山本本部長に呼ばれ,設計担当を命ぜられました。最高相談役からは,対話の中から色々なキーワードを頂きました。中でも,当初から話されていた設計の重要なコンセプトが,構造体と設備,インテリアの明確な分離でした。構造には最大限の耐久性を与え,耐用年数が比較的短く技術進化の著しい内装材や設備はできるだけ更新し易い設計にして,全体として永く使い続けられる建物にするという考え方です。それから,「構造そのものによる表現」というキーワードも大切にしました。建築は,使う人たちに安心感を与える必要があり,それにはスケール感や建物の構成を明快にすることだと思いました。柱や梁,制震装置まで露出させたKタワーの「アウトフレーム構造」は,こういった理念を実現していくために導き出されました。
山本 建築は,理念に基づき構造美・機能美を追求し,最終的にデザインとしての美しさ,存在感に繋がります。アウトフレーム構造を語らずしてKタワーは語れないですね。初期の設計プランのつくり込みの段階から構造設計家の播氏に参加頂きましたね。
 2006年頃だったでしょうか。鹿島を卒業して久しい私に,突然お話を頂き驚きましたが,とても嬉しかったのを覚えています。
山本 最近の建物はガラスと金属で構造体を隠すものばかりの中で,構造美というものを我々は表現することを目指しました。そのためには播さんの力が必要だったと思います。
 最高相談役からはコンクリートで超高層建築をつくりたい,100年以上を目指す建築にしたいというキーワードもありました。コンクリートを素材に,超高層のオフィスビルをつくるというのは,今まで国内では多分なかったと思います。構造体を隠さず表現するということを考えた時に,だったら柱と梁という建物の構造体全てを外に出して,それをデザインとして見せてしまおうという「アウトフレーム構造」に到達したのです。柱型のない自由度の高い室内とすることで賃貸ビルの価値を高めることも狙いでした。そして,旧本社ビルのデザインの流れも継承することができました。
山本 旧本社ビルのシンボル性,ランドマーク性を継承しつつ事業ビルの機能性を追求する過程では,建物のあらゆる部位のエレメントのプロポーションというものを大事にしながら大変な数のスタディをやった結果,一番強い形の正方形の平面と,すごく明快なストラクチャーにたどり着きました。機能から形が触発された存在感のある建物になったと思います。

写真:ランドマークを意識し,建物のプロポーション,見え方にも様々な検討が行われた

ランドマークを意識し,建物のプロポーション,見え方にも様々な検討が行われた。青山通りからの本社(左)とAKASAKA K-TOWER(中央)の景観の統一も大切にしている

ライフサイクルを考えた設計

山本 設備的にはどういった点を重視して設計されましたか。
長谷川 私も「この建物は構造と設備が主体の建物だ」という言葉を,最高相談役から言われて驚いたのを覚えています。それは,機能美を追求したいということだったのでしょうね。設備的な機能,構造としての機能,この二つを追求して,最終的にデザイン化されると,そこに機能美がそこはかとなく出ているというのがKタワーの美学でしょうか。そして,ライフサイクルで物事を考えることは重要です。設備の耐久年数は熱源で40年程度。建物を100年以上使うとすれば,設備は3回更新する可能性があるわけです。Kタワーでは,設備の更新性,拡張性,メンテナンス性を重視した設計となっています。
山本 イニシャルとランニング両方における,コストコンシャスな設備計画ということですね。建築のディテールも同様に,外装材やサッシなど耐久年数が違う材料に対して更新性に留意した計画を行っています。建物の持続性を担保する非常に優れた思想だと思います。
長谷川 そうですね。Kタワーでは,通常地下に設置することの多い機械室を2階に配置しました。この意図は,機械・電気機器の更新時の搬入出を考慮しての大胆なレイアウトです。浸水回避など防災の観点からも有効です。100年のスパンで考えた時,更新作業の時間を少しでも短縮することはコストメリットがおおいに期待できます。
鈴木 4分割可能の賃貸オフィスであることを意識し,各フロアの四隅に設備バルコニーを配置して,テナントごとの設備の拡張などにも対応できる平面計画となっているのも特徴ですね。
長谷川 眺望などの観点から,建物のコーナーを設備として使用するのは贅沢なのですが,賃貸オフィスということになると,各テナントにあったフレキシブルな設備環境を用意すること, 100年後の設備機器の進化への追従性,汎用性ということを視野にいれての計画です。
 四隅が設備バルコニーになったことで,その外壁部に制震装置を設置できました。アウトフレームが庇効果をもたらして,結果的に室内の熱負荷低減に効果があったというのも,構造と設備のコラボレーションみたいで嬉しかったです。
長谷川 これからの建物では省CO2や省エネを避けて通れません。だからといって,省エネのために全く窓のない建物を建てるとか,そういうナンセンスなことは必要ないわけで,建築設計者,構造設計者,設備設計者が一体となって,きちんとしたデザインがなされて計画を進めれば,こうやって成果がついてくるのですね。
山本 当社では,ZEB(ゼロ・エネルギー・ビル)の実現に向けて,積極的に技術開発を展開していますが,Kタワーでは?
長谷川 空調や熱源,照明の制御システムなど様々なZEB関連技術を導入しています。Kタワーはテナントビルでありながら東京都内の一般的なビルと比べ,CO2排出量40%削減が可能になったのはとても画期的です。
山本 アウトフレームであることが環境上有利な結果にもなり,CASBEE(建築環境総合性能評価システム)2010年版でSランクの第三者認証を取得し,建物の環境効率を示すBEE値は,賃貸オフィスビルで最高の4.4を獲得したのは大きな成果でした。

オールPCa化の実現

山本 川上所長が参加したのは2007年頃でしたね。アウトフレーム構造の実現は,所長なくして語れないですね。
 アウトフレームをすべてPCa(プレキャストコンクリート)部材で組み立てたのは,国内初だろうと思います。
鈴木 あの構造美はオールPCaじゃないと実現できなかったですね。それを創意工夫で成し遂げたのが,川上所長をはじめとする東京建築支店の皆さんでした。
川上 施工法を決めないと構造の実設計が始められないということで,旧本社の解体工事をしている時に呼ばれました。
山本 当社の新技術「鹿島カットアンドダウン工法」での解体工事も川上さんの担当でした。旧本社の解体からKタワーの施工まで通しで面倒をみられたわけですね。
長谷川 それも,常に新技術にチャレンジしてくれましたからね。
川上 「挑戦」が信条なもので。
 アウトフレーム構造は, 1本80cm角の柱4本を組み柱にして,それを80cm×120cmの梁で繋いでいく構造なのですが,一分の隙間もないぐらいの施工精度で建物をつくらなくてはいけない。そして,この80cm角という柱の細さ。これは現代の技術,高強度コンクリートの業ですよ。昔だったらこれはできないプロポーションでした。
鈴木 技術研究所が150ニュートンの高強度コンクリートを開発した成果ですね。
山本 PCa化というのは,簡単にいえば巨大な鉄筋コンクリートの積み木を組み立てて行くイメージですが,160mの超高層となると簡単にはいかない。
川上 一つひとつのパーツを非常に精密につくっていかないと全体が綺麗に仕上がらないのです。PCa部材の分け方を,東京建築支店と建築管理本部と協働で10パターンぐらいつくったのですが,どうしても現場打ちの部分が出てきてしまう。この複雑な建物の足場の上でコンクリートを打つことは非常に大変だということと,どうしても工場でつくるPCaと現場で打つコンクリートでは精度も色も違うわけです。多分,見るとわかってしまう。
 コンクリートをファサードの素材として使う難しさですね。
川上 様々な施工法が羅列された資料の一番下に,実現が難しくてバツがついている案があったんですよ。それが唯一コンクリートの現場打ちのない「横挿し工法」でした。打つのも難しいけど,打たないのも難しい。だったら綺麗にできる方にしたいということで,「横挿し工法」にチャレンジしたということです。
 そしてやはり難しかったわけですね。
川上 PCa部材を横から挿して組み立てるというのは,鹿島ではやったことがなかったのですが,そう難しいことだとは私は思いませんでした。ただ,4本の柱をそろえて真っすぐ立てないと次のピースが挿さらないというので,その精度を出すのは非常に難しかったです。
 模型じゃないわけで簡単にはいかないよね。それも超高層。柱を真っすぐ立て込む施工の創意工夫もしてくれて,現場でのコンクリート打ちによるジョイントがなくなったということは大変画期的なことで,それはデザインにとっても有難いことでした。
鈴木 PCaの組立てに必要な目地だけが見えているところが,「構造を隠さず表現する」というキーワードにぴったりはまりました。
川上 どうやって組み立てていったか,見たら全部わかります。
 これはもう鹿島のエンジニアリングの素晴らしさを全部詰め込んだプロジェクトですね。

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図:横挿し工法施工手順

横挿し工法施工手順。工場生産された高品質のRC造のPCa部材を順番に組み立て,アウトフレームを施工した

写真:アウトフレーム施工の様子

アウトフレーム施工の様子。4本の組み柱を真っすぐに立て込む施工法も開発した(⑥の作業)

インテリアとアートでワンランク上の空間創出

山本 建築とインテリアの関係について,乕屋さんにお話頂きましょうか。今まで技術的な話をしてきましたが,このビルに入ってきた人が一番感じるのはインテリアであり,アートの豊かさだと思います。Kタワーには,様々なアートを使って空間演出をしました。この上質な空間はワンランク上のテナントビルの価値を創出していると思います。
乕屋 インテリアは人間でいえば服飾そしてアクセサリーのようなものですね。アクセサリーはただつけるだけではだめで,全体との調和を考え,全体を引き立たせるアクセントになることが大切な要素なのです。
鈴木 働いている人は,人生の相当な時間をオフィスで過ごすわけですから,安らぎや気持ちを豊かにする環境を用意してあげることは,大切なサービスだと思いますね。
山本 Kタワーのアートは水をテーマとしたストーリーがあるようですが。
乕屋 もともとは外構について考えている時に,隣のビルの後ろが見えるのを隠したいという話になり,物理的に隠すというのではなく,水を持ち込んで,水の動きや表情に人の視線をもっていくことを提案したのです。また,人間にとって一番大切なものが水だということで,テーマになりました。
 広場の噴水と彫刻と緑がつくる風景は美しいですね。
乕屋 ランドスケープは,新宿御苑から明治神宮,東宮御所と続いてくる緑を赤坂見附まで引っ張ってくるというコンセプトです。敷地の中から湧き出る水は水盤をつくり,広場の樹木を豊かにする。そして,その水の息吹は建物の中にはいりエントランスホールの天井アート「Water Flower」となって華ひらくわけです。これがKタワーの水のストーリーです。
山本 あのガラスのシャンデリアは乕屋さんが見たオーロラのモチーフから始まりましたが。
乕屋 アメリカのガラスアーティスト・ニコラス・ワインスタイン氏との偶然の出会いなど,この作品には様々なエピソードがあるのですけど,それはまたゆっくりと。このシャンデリアは,天井内に独自の制震装置を開発してもらい設置できました。地震国の日本で,こうしたアートによって大空間を彩ることができるのは凄いことです。
山本 広場の彫刻は五十嵐威暢氏の作品でしたね。
乕屋 かつてKAJIMA彫刻コンクールで入選された方で,赤坂別館のエントランスホールにも,五十嵐氏のアートがあります。
山本 いろいろと話題は尽きませんね。竣工するとあっという間のようにも思えますが,施工中には東日本大震災もあり,現場の影響はいかがでしたか。
川上 この建物で組み上げたPCaは約4,200ピースあります。昨年3月11日は,ちょうどその最後の1個を取り付ける日でした。それを見ようと現場の皆が屋上に上がっていたのです。そして,これからという時に地震がありました。結局,後日取り付けることになりましたが,とても印象深い最後の1ピースとなりました。
山本 まさにキーストーンだったわけですね。こうして,多くの人々と共に英知と汗,時間をかけて完成したKタワー。皆さんの話から浮かび上がってくるのは,やはり鹿島の思想で今の当社技術を駆使してできた,一番鹿島らしい精神を持ったビルだということです。間違いなく今後100年の鹿島を代表する作品になると思います。

写真:緑と水と彫刻で創られた広場

緑と水と彫刻で創られた広場

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