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水力発電「水」 水力発電のこれから── 大型ダムの再開発

図版:小丸川発電所

小丸川発電所(宮崎県児湯郡木城町/発注者:九州電力)

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水力発電は再生可能・純国産・クリーンなエネルギー

高いところから低いところへと流れ落ちる水── この自然の原理を利用した水力発電は,100年以上昔から,わが国のエネルギー供給を担ってきた。自然の力のみを利用するCO2を排出しない環境にやさしいクリーンなエネルギーである。

東日本大震災以前,原子力発電の拡大を中心に据えたエネルギー政策では,電源構成の約3割が原子力発電,6割強を火力発電,残り1割が水力発電を中心とする再生可能エネルギーという比率だった。しかし,今後の原子力発電の稼働が不透明ななか,暫定的措置として9割近くを火力発電に頼る状況となっている。輸入化石燃料に依存する火力発電の増加は,環境負荷低減に取り組む世界に逆行するかたちとなり,これに替わる新たなエネルギーの開発が喫緊の課題となっている。こうしたなか,高度に確立された技術を持つ水力発電は,最も期待されるエネルギーの一つといえよう。

ピーク時対応の揚水式発電所

再生可能エネルギーの拡大に向けて,水力発電では河川や農業用水路等を利用した小中規模発電と大型ダム等の大規模発電による取組みがあげられる。小中規模発電は,「再生可能エネルギーの固定価格買取制度」開始後,事業化に向けた河川調査や行政手続き等の準備段階にある案件が全国に多数あり,2~3年後には運転開始となることが見込まれる。一方,老朽化した水力発電設備を改修し事業継続を見直す施設も増えている。大規模発電においては,揚水式が注目されてくるのではないかと話すのは土木管理本部・土木工務部ダムグループの菅原俊幸グループ長。「1日の電力消費量は時間帯により大きく異なります。揚水式は,電力需要のピーク時に対応できる発電方式です」

図版:土木管理本部・菅原俊幸グループ長(左)と岡山誠課長

土木管理本部・菅原俊幸グループ長(左)と岡山誠課長

揚水式発電所は主に,地下に発電所を設け,その上部・下部に位置する地点に池(ダム)を構築する。昼間のピーク時には上池の水を下池に落として発電を行い,下池に貯まった水は夜間の余剰電力を使って上池にくみ揚げ,再び昼間の発電に備える仕組みだ。当社JV施工で2005年に完成した東京電力・神流川発電所や九州電力の小丸川発電所(2006年完成),施工中の北海道電力・京極発電所(当社JV)等が揚水式発電所である。

「いまの時点では,大規模発電の開発に適した地点の発電所建設は,ほぼ完了している状態です。今後は,既存のダムを利用して揚水式発電所を新設する等,今まであった施設を見直して再開発していくアイディアもあると思われます」

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大型ダムの再開発

「揚水式発電と併せて,既存の多目的ダムにおける発電能力の増強や,治水・利水目的のダムに発電機能を付加するといったダムの再開発も今後見込まれるのではないでしょうか」と既存ダムの可能性を語る土木管理本部・土木工務部ダムグループの岡山誠課長。ダム堤体を嵩上げする技術や堤体に穴を開け放流管を増設する等のリニューアル技術が適用できると説明する。2003年,奥只見ダムでは電源開発による発電能力増強を目的とした放流管増設工事が完了している(当社JV施工)。ダムを供用しながら堤体に穴を開ける作業には,仮締切構築,深度での潜水技術等,多くの土木技術が投入された。「発電能力の増強が目的の工事ではありませんが,現在,鹿児島県の鶴田ダムで奥只見ダムの技術を応用・発展させたかたちでの放流管増設工事が進行中です」(岡山課長)。大規模なダム堤体の嵩上げ工事としては,2001年に竣工した山王海ダム(当社JV施工)等があげられる。

図版:山王海ダム(岩手県紫波郡紫波町/発注者:農林水産省東北農政局)

山王海ダム(岩手県紫波郡紫波町/発注者:農林水産省東北農政局)

図版:山王海ダム嵩上げ工事の様子

山王海ダム嵩上げ工事の様子

図版:奥只見ダム(新潟県魚沼市,福島県南会津郡檜枝岐村/発注者:電源開発)

奥只見ダム(新潟県魚沼市,福島県南会津郡檜枝岐村/発注者:電源開発)

図版:施工中の「鶴田ダム施設改造・増設減勢工工事」(鹿児島県薩摩郡さつま町/発注者:国土交通省九州地方整備局)

施工中の「鶴田ダム施設改造・増設減勢工工事」(鹿児島県薩摩郡さつま町/発注者:国土交通省九州地方整備局)

「わが国では,絶対に決壊しないダムをつくってきました。国土交通省はじめダム関連の各種団体,ゼネコンが一体となって技術開発に取り組んでいます。日本のダム技術のレベルは非常に高い。この技術力があれば,大型ダムの再開発で電力増強を図っていけると思います」と自信を見せる菅原グループ長。また,施工中においてもダムは環境へのインパクトを最小限に抑えていると説明する。「地形の改変を最小限にとどめる努力や周辺の動植物保護,CO2排出の少ない施工法等,環境配慮技術も多数持ち併せています。そういった意味でも水力発電は,クリーンな電力と言えるでしょう」

世紀を超えてわが国のエネルギー供給を支えてきた水力発電に,新たな光がさす日も近い。

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