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当社は,長周期地震動を抑える制震技術「D3SKY」を開発しました。
数百tの巨大な“振り子型のおもり”を超高層ビルの屋上に設置することで揺れを抑える技術です。

長周期地震動と超高層ビル

東日本大震災以降,社会的に防災・減災の考えが重要視されるようになり,BCP(事業継続計画)に対する企業の関心が高まっています。既存ビルの耐震性能を強化する改修工事が盛んに行われ,非常用発電機設置やエレベータの耐震化,帰宅困難者対策などのBCP対策を施す企業も増えています。こうしたなか注目されているのが,既存超高層ビルへの長周期地震動対策です。ゆっくり大きく揺れる長周期地震動は超高層ビルに被害をもたらすことがあるため,都市部を中心に超高層ビルが林立する現代では,この対策が喫緊の課題となっているのです。

地震に対するリニューアルの手法には,建物自体の強度を高める「耐震化」や地盤と建物を構造的に絶縁することで揺れを抑える「免震化」など様々な方法が存在しますが,超高層ビルでは制震装置の設置により建物の揺れを吸収する「制震化」が代表的な対応策になっています。オイルダンパーなどの制震装置を居室階の窓際などに設置するのが一般的ですが,ダンパーが窓からの眺望を妨げてしまう点や有効床面積の減少,室内工事の発生などのデメリットがあります。工事による養生や騒音などによる就労環境の悪化がテナントに不利益をもたらし,場合によってはテナントが一時退避する必要も出てきます。

そこで当社が開発したのが,新型の大型制震装置「D3SKY」です。

※Dual-direction Dynamic Damper of Simple Kajima stYle:鹿島2方向制御ダイナミックダンパー

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「D3SKY」

「D3SKY」は超高層ビルの屋上に巨大な“振り子型のおもり”を設置することで建物全体の揺れを抑える技術です。屋上に装置を設置するため眺望の阻害や有効床面積の減少もなく,工事が室内で行われないためテナントへの影響も大幅に低減することができ,これまでになかった画期的なものです。

この巨大な振り子は「TMD(Tuned Mass Damper)」と呼ばれる風揺れ対策などで知られる既存の技術です。風揺れ対策では50t程度のものが使われますが,大地震対応であるD3SKYでは300tのおもりを複数台設置し,おもりが地震時のビルの揺れと逆方向に振れることで建物の振動エネルギーを相殺して揺れを抑えます。

TMDが超高層ビルの大地震対策に利用されるのは国内初で,第1弾として三井不動産が所有・運営する新宿三井ビルディング(東京都新宿区,1974年竣工)に導入が進んでいます。軒高210m,地上55階建ての超高層ビルの屋上に鉄骨で構築されたやぐらを6基設置し,それぞれ300tのおもりを長さ8mの鋼製ケーブルで吊り下げます。この振り子を全方向に最大約2m振幅させて揺れを抑制し,長周期地震動から直下型まで様々な揺れに対応します。特に長周期地震動には効果が大きく,揺れを半減させることを可能にしました。もちろん,台風時などの風揺れにも大きな効果を発揮します。

図版:振動実験の様子。おもりが最も奥に移動した状態

振動実験の様子。おもりが最も奥に移動した状態

図版:TMDの構成と屋上設置方法

このTMDはおもりがワイヤーで懸垂された振り子式であり,鋼板を重ねた300tのおもり,8本のワイヤー,4本の水平オイルダンパー(RiDAM),4本の上下オイルダンパーおよび支持フレームから構成されている。屋上の限られたスペースのなかで,各構成要素の干渉を避けながらおもりの可動範囲を十分に確保することが設計上の重要なポイントとなった。
TMDは屋上階既存梁の上に直接構築せず,梁せい1,000mmの新設梁を介して設置することで既存梁への負荷を回避している(三井不動産と共同特許申請中)。

図版:D3SKYの仕組み

巨大なおもりのついた振り子が建物の動きと逆方向に動くことで地震の揺れを制御する

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新開発オイルダンパー「RiDAM」

D3SKYの実用化には,いくつもの課題がありました。限られたスペースのなかで,各構成要素の干渉を避けながらおもりの可動範囲を確保するため,屋上という高さの自由度を活かした,シンプルなケーブル懸垂式のおもり支持方法を採用しました。鋼板を重ねた300tのおもりの形状やオイルダンパーの取付け位置を工夫することで,あらゆる方向に最大2mもの動きを可能にしています。D3SKYのために開発されたオイルダンパー(RiDAM)は,電気を使用しないパッシブ型でありながら,おもりの速度に応じて抵抗を自動で切り替える新開発の油圧回路を搭載した最新技術です。このオイルダンパーにより,制震効果と装置の安全性を高い次元で両立させています。

2014年2月には,当社機械技術センター(神奈川県小田原市)でD3SKYのモックアップ試験が行われました。本工事で使用するものを地上で実際に組み立てて装置の動きを検証し,所定通りの性能を確認しました。新宿三井ビルディングで行われている設置工事も順調に進んでいて,D3SKYが実際に6基稼働するのは2015年2月の予定となっています。

【工事概要】
場所:東京都新宿区
発注者:三井不動産
設計監修:日本設計
設計:当社建築設計本部
規模:RC・SRC造(地下)・
S造(地上) B3,55F
延べ179,579m2
改修内容:屋上─D3SKY 6基
低層部コア─HiDAX-e 48台
工期:2013年8月~2015年4月予定
(東京建築支店施工)

図版:D3SKYモックアップ実大試験体

D3SKYモックアップ実大試験体。工事を前に施工方法の検証のほか,性能確認などの実験が当社機械技術センター(神奈川県小田原市)で実施されている

図版:D3SKY屋上設置イメージ(外壁カバーを除いた概念図)

D3SKY屋上設置イメージ(外壁カバーを除いた概念図)

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オール鹿島メイドで世界初の挑戦

今から40年前の1974年に竣工した新宿三井ビルディングは,今なお新宿の超高層ビル群のなかで存在感を放つ軒高210mの超高層ビルである。東日本大震災以降高まっている安全・安心,BCP(事業継続計画)ニーズへの対策強化を進めている事業者の要望は,「既存の構造性能で現行基準に照らして充分安全であるが,来たるべき長周期地震動に対するこのビルの揺れを最新鋭の超高層並みに抑え,テナント入居者の安心感を高めたい」かつ「入居者の利便性を損なわない方法で」というものであった。常識にとらわれない発想で最適解を模索した結果,前例のない巨大TMDに行き着いた。部品開発や選定,製作から組立てに至るまでオール・鹿島メイドのD3SKYは,当社の技術力を結集した世界初の挑戦である。

建物は,一つひとつ構造形式や使われ方が異なる。技術のサンプル化ではリニューアル工事に対応できない。どんなに難易度の高い注文にも柔軟な発想とスピード感を大切に,これからも鹿島でしかできないソリューションを提供していきたい。(開発担当者一同)

図版:開発担当者一同

左から建築設計本部構造設計統括グループ小田衛グループ員,狩野直樹チーフ,栗野治彦グループリーダー,機械部技術4グループ水谷亮グループ長,建築設計本部構造設計統括グループ黒川泰嗣グループリーダー,瀧正哉チーフ,機械部技術4グループ長谷川義秀課長,建築設計本部構造設計統括グループ中井武チーフ

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