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シリーズ 東日本大震災から5年 東北の春2016 復興への道を築く人たち 漁業再興

我々以外にはできないという使命感をもってやってきた

漁業の復興も進められている。三陸沖は,黒潮と親潮がぶつかる世界3大漁場の一つ。沿岸には全国有数の水産都市が並ぶ。石巻はその代表格で旧魚市場は全長640mと東洋一の規模を誇った。おながわまちづくりなどで培ったCM方式のノウハウを活かして当社が手がけたのが,震災で壊滅した石巻魚市場の再建である。新施設の全長は876mを誇り,弾力的な対応で5年~10年かかる事業を約2年で完成させることが求められた。そこで導入されたのが,国内公共建築では初となるアットリスクCM方式である。

「通常の請負方式では仕事ができる状況ではなかった」と話すのは,現場を率いた岡野春彦所長だ。工事には周辺制約条件がつきまとった。仮設市場の水揚げエリアとして岸壁250mを確保する必要があり,同時施工中の岸壁工事や周辺道路工事などの調整を行う必要がある。可能なところから施工していく「ファストトラック」だからこそ成し遂げられたという。地中埋設物を取り除きながら行う杭打設には高度な施工技術が求められた。敷地は北上川河口の軟弱地盤で,杭長は77mにおよぶ。施工数量は408本。杭1本の打設に1日かかった。

写真:岡野春彦所長

岡野春彦所長

現場が力を入れたのが,建築向けのオープンブック運用に関する取り決めと監査制度の構築だ。建築は工種が多いため発注件数が膨大になる。オープンブックでは“鉛筆一本から”というように,原則的にすべての費用で事前承認が必要になるが,ここでは,復興まちづくり事業の事例などを参考にしながら事前承認の対象を限定して発注業務の効率化を図った。最終的に検証は行うものの事前承認を1,000万円超の外注費とし,1,452件の発注件数のうち事前承認を82件まで絞った。これで工事費の約75%をカバーして網羅性も確保している。この成果は「石巻型アットリスクCM方式」として高く評価されている。

工事は2015年8月に終わり,9月から市場の完全供用がはじまった。事業は書類検査なども含めて2016年3月に完了した。

写真:再建を果たした石巻魚市場

再建を果たした石巻魚市場

石巻市水産物地方卸売市場石巻売場建設事業

場所:
宮城県石巻市
発注者:
石巻市
業務内容:
設計・施工の調整と事業全体のマネジメント,基本設計の確認と実施設計,
建築・電気設備・機械設備・付帯施設・外構工事,被災荷捌き所・仮荷捌き所撤去,
平面駐車場・立体駐車場・連絡通路・荷捌き所付帯施設等の撤去
基本計画・基本設計:
漁港漁場漁村総合研究所
実施設計・監理:
横河建築設計事務所
規模:
S造 1F一部4F 延べ50,536m2
工期:
2013年8月~2016年3月

(東北支店施工)

改ページ

岡野所長は,震災から継続して石巻で復旧工事に従事している。

山形に勤務していた岡野所長は,復旧工事に自ら手を挙げ,震災1ヵ月後に石巻に着任した。日本製紙や石巻専修大学,石巻赤十字病院,笹かまぼこで有名な「白謙」の工場などの現場で昼夜を問わず,作業を指揮した。「どこから手をつけていいのかわからない状況で,難度・危険度が高い仕事がたくさんありました。いかに安全に復旧していくか。我々以外にはできないという使命感をもってやってきました」。岡野所長は現在,女川町の魚市場建設工事に携わる。石巻魚市場の実績を引っ提げ,そのメンバーで現場に乗り込んだ。

この工事は,被災した女川町地方卸売市場を再整備するもので,産業復興の根幹をなすプロジェクトだ。「技術提案・交渉方式」が採用されていることが特徴で,施工者が実施設計の段階から事業に参画し,施工技術・施工実績を活かして合理化を図る。いわゆる「ECI(Early Contract Involvement)方式」と呼ばれるもので,復興事業では新たな試みとなる。「まず施工予定者として設計のお手伝いをしました。スタッフも協力会社も石巻魚市場の経験者で固めています。いいところは活かし,反省すべき点は反省していく」。駅舎と駅前のプロムナードを意識し,船を受け入れるようなフォルムは,まちづくりのシンボルになると期待されている。「復旧・復興の最先端で仕事をさせてもらい,復興に建設業が参画する意義を改めて感じている。この工事でも関係者の期待をひしひしと感じる。復興の工事に携わることに誇りをもって,いいものをつくっていきたい」。

魚市場の建設が進む一方で,まちの中心部では,災害公営住宅の建設が急がれている。離半島部でも宅地造成が行われて高台移転が進む。「そろそろ事業をどう閉じていくかも考えていかなくてはいけない」と宮本所長はいう。まちづくり全体では,まだ50%程度の進捗だというが,復興が成し遂げられたその先も見据えなくてはならない。

御前屋の佐藤社長が話す。「目に見えてまちがつくられていく。鹿島JVがまちづくりに参加してくれて本当によかった。ただ,造成されて,施設ができただけでは真の復興とは呼べない。町民が戻ってきて,町民一人ひとりが新しいスタートを切ってはじめて復興になる。私も町民のひとりとしてまちづくりに励んでいきたい。女川を楽しいまちに。3月11日以前よりもいいまちに」。

写真:女川魚市場の現場では鉄骨工事が進む

女川魚市場の現場では鉄骨工事が進む

写真:完成イメージパース

完成イメージパース

写真:復興が進む女川町

復興が進む女川町

※写真:大村拓也

女川町地方卸売市場荷捌場・管理棟建設工事

場所:
宮城県牡鹿郡女川町
発注者:
女川町
設計者:
漁港漁場漁村総合研究所
規模:
S造 4F 延べ12,425m2
工期:
2015年9月~2017年3月

(東北支店施工)

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