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KTMS-2017 現場ルポ……① ICTツールとBIMの連携で生産性向上を目指す

現場を率いる平野所長が,超高層マンションのBIMモデルを見せてくれた。柱や梁,床などが色分けされ,躯体の製作状況と施工状況を“見える化”している。躯体部材の約85%をプレキャスト(PCa)化し,柱や梁,床などを工場で製作,現場では決められたサイクルで部材の取付けを行っていく。ポイントとなるのは,仮囲いの外にある部材の製作状況をリアルタイムにBIMで確認できていることだ。

「現場内で活用している“検タス”を躯体のPCa部材を製作している工場でも活用してみようと考えました。協力会社が工場で行う配筋検査,製品記録などに使ってもらっています。そして,クラウド上のデータをBIMに反映させているのです。これまでの現場では,各担当者が把握している躯体の状況を,所内で周知・連絡により情報共有していましたが,BIMモデルを見るだけで一瞬にして皆が同じ情報を持てるのは現場を運営する上で大きなメリットです」と話す。

写真:中部支店 御園座共同ビル工事事務所 平野智康 所長

中部支店 御園座共同ビル工事事務所
平野智康 所長

特に強調するのは,協力会社の工場での検査業務の軽減だ。“検タス”の利用範囲を工場まで広げたことで,数万枚にもおよぶ写真管理や検査帳票の作成業務の削減効果が大きくなった。協力会社の検査業務を大幅に低減できたと見る。KTMS-2017が目指す協力会社も含めた「働き方改革」は,既にスタートしている。

もう一つ注目すべき取組みがある。超高層マンションの現場管理では,住戸毎に複雑な内装工事の進捗管理が求められる。耐火間仕切,床,壁下地,壁や天井のボード,クロス,フローリング,クリーニングなど工程は数十にもなる。「ここは約300戸の住戸がありますが,住戸毎の内装工事の進捗度についてもBIMで可視化しています」。各工事を担当する職長は,日々“e‐現場調整Pro”に作業状況を入力している。各工程が終わると部屋番号を入力するルールを決めて,この情報をBIMへと引き継いでいるのだ。部屋毎に内装の進捗状況を記載する煩雑な作業を無くした。また,工程表ともリンクし,工程の遅れなどのトラブルが発生した場合,BIM上でワーニング(警告)を出す仕組みも採り入れた。これら一連のシステム構築は,建築管理本部,技術研究所,支店と連携しながら進めている。

「この現場は,名古屋の芸術文化を育んできた劇場“御園座”の再建も含まれます。舞台装置は複雑な構造で,BIMによる3次元表現は関係者間の合意形成に効果的でした。新たな取組みとして,超高層マンションの躯体や内装工事を“見える化”したことで,現場の皆がBIMの有効性を実感したはずです」。

この現場での様々な取組みが全国の現場へと展開され,全社レベルでの生産性向上へとつながっていく日も近い。

改ページ

図版:躯体工事におけるBIMとの連携

図版:内装工事におけるBIMとの連携

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工事概要

(仮称)栄一丁目御園座共同ビル計画

場所:
名古屋市中区
発注者:
積水ハウス
監修:
隈研吾建築都市設計事務所
設計:
当社建築設計本部
用途:
共同住宅,劇場,店舗,駐車場
規模:
RC造一部S造(制震構造) B1,40F,PH2F 住戸数304戸 劇場1,198席 延べ56,111m2
工期:
2015年4月~2018年1月

(中部支店施工)

Voice 近未来の建築現場の先駆けとして

この現場の取組みの中に,私たちが目指す近い将来の建築現場の姿を垣間見ることができます。それは,現場にある資機材全てに関する情報を一元的に管理したうえで,QCDSEそれぞれの要素を現場に携わるあらゆる関係者にわかりやすく“見える化”し,伝達することにより,さらなる業務品質と生産性の向上を図ることができるからです。建築現場における基幹情報のトレーサビリティと言っても良いかもしれません。

躯体部材の工場での製造から物流,現場内での取付状況,そして製造管理履歴や数量及びコスト,精算に至るまでの情報などは,実は今も現場に存在しています。しかし,それらは個別情報でしかなく,その関連性の確認や時間軸に則った管理には多大な労力を要していました。そこで,これらを有機的に結びつける仕組みを構築し,大きな業務改善を実現していこうと考えています。

写真:建築管理本部 加藤昌二 建築工務部長

建築管理本部 加藤昌二 建築工務部長

労務情報管理についても同様です。2017年度から国土交通省は「建設キャリアアップシステム」の展開を予定しており,技能や経験を蓄積する技能者個人カードが発行されます。入退場管理システムによりカードに記録された就労履歴を収集することで,技能労働者の適切な評価や処遇改善,施工品質の向上につなげていきます。当社では,将来を見据えて顔認証による入退場管理システムの試行も開始しました。

このような環境のもと,KTMS-2017が始動します。ICTツールの活用が一層広がり,各ツール間の情報を共有する土台も整備されました。この現場のように,既にある貴重な情報をつなぎ合わせ有効利用することで,業務品質と生産性の向上を図っていきます。その際に重要なことは,ICTツールが連携し,現場で本当に生きたかたちで活用されているのかという視点です。このことが確実に実施された先にこそ,私たちの求める近未来の建築現場が存在するのです。

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