現場から:

ダムの現場は温泉街
浅虫治水ダム本体建設工事



 青森市から車で30分,“青森の奥座敷”と言われる浅虫温泉は,古く平安時代より伝えられる温泉街だ。そこを流れる浅虫川の上流に向かって細い道を通りぬけると,突然開けた土地に出る。現在,当社JVで進めている浅虫治水ダム工事の現場だ。今月の「現場から」は,この浅虫治水ダムを紹介する。


全景
下流側から見た浅虫治水ダムの全景

●氾濫から温泉街をまもる

 温泉街を流れる浅虫川は流域面積6.3km2,流路延長5.0kmの2級河川。実際に見ると小さな川だ。しかし,この浅虫川は停滞前線による豪雨や台風でしばしば氾濫を繰り返してきた。。1969(昭和44)年の台風9号では,浸水家屋170戸,被害総額2億4,600万円の大被害を受けたという。こうした浅虫川の氾濫から,温泉街をまもるために計画されたのが,今回の浅虫治水ダムだ。


完成予想図
完成予想図

●地下水を通すコンクリートダム

  浅虫の温泉はおよそ70度。これに地下水を混ぜて利用されている。この地下水を今までどおり温泉街へ流しながら,浅虫川の水量を調節するのが,浅虫治水ダムの特徴だ。一般には,基礎岩盤からコンクリートを打って,地下水も含めて水を遮断するダムが多い。しかし,この浅虫治水ダムは基礎岩盤に打った杭(場所打ち杭)によって堤体が支えられている。地下水は,ダム本体を支える杭と杭の間を通って,下流へと流れていくのである。フローティング形式と呼ばれるこの工法を採用したダムは,全国的にも珍しい。

標準断面図
標準断面図
78本の場所打ち杭が堤体を支える。遮水矢板は地下水の流速を抑え,度粒子の流出防止や揚圧力を弱める働きをする

●近隣住民への配慮

 ダムと言えば,人里離れた山奥にあるイメージだが,ここは民家が目の前にある。ダムのすぐ傍の道も,地元の人が普段利用しているそうだ。  現場では,工事によって温泉や地下水・浅虫川に影響が出ないように,常に細心の注意を払っている。また,作業中の騒音や振動も,最小限に抑えるように工夫している。その一つが杭キャップ。杭の上部にキャップをはめてコンクリートを打ち,完成後そのキャップを外す。これによって,杭の上部を撤去するためのはつり作業がなくなり,それに伴う騒音も減らすことができた。

コンクリート打設の様子
堤体のコンクリート打設の様子

●温泉街の新しいスポットに

 浅虫治水ダムの周辺は森と湖(貯水池)に親しむ公園になる予定だ。また,ホタルの住めるような環境づくりも進められている。温泉街の人々が期待を寄せる浅虫治水ダムは,2002年の春に完成する予定である。


浅虫治水ダム本体建設工事
<工事概要>
場所 青森県青森市浅虫地内
発注者 青森県
設計 青森県
用途 治水ダム
規模 重力式コンクリートダム 堤高9m
堤頂長215m,堤体積10,425m3
総貯水量300,000m3
工期 1996年12月〜2002年3月
施工 東北支店JV施工