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岐阜県営公園 世界淡水魚園水族館新築工事

木曽川を挟み愛知県との県境に位置する,岐阜県羽島郡川島町笠田町では,
現在,日本最大級の淡水魚水族館の建設が進行中だ。民活を導入した新たな事業形態で,
これまでの水族館とはひと味違う娯楽性追求型の施設が誕生する。

世界淡水魚園水族館
現場空撮。
工事概要
岐阜県営公園 世界淡水魚園水族館新築工事
場所:岐阜県羽島郡川島町笠田町 
発注者:(有)ジー・エフ・エー
設計・監理:安井建築設計事務所
規模:RC造一部S造 地上4階 延べ8,411.1m2
建設工期:2002年10月〜2004年3月
長期修理期間:2004年4月〜2034年3月(30年間)
(名古屋支店施工)
民間活力で水族館事業を実現
 世界淡水魚園水族館は,岐阜県と国土交通省が整備を進める,国営公園・県営公園からなる「河川環境楽園」内に建設される。園内は自然と親しむユニークなレクリエーション施設が多数備わり,一般道をはじめ東海北陸自動車道川島パーキングエリアからも直接入園できる,新しいタイプのレジャー施設だ。
 水族館の規模は,地上4階,延床面積約8,400m2。岐阜県のシンボルマークであるローマ字の「G」をモチーフに,扇形の建物を組み合わせた斬新なデザインが特徴だ。岐阜県を源流とする長良川をはじめ世界の淡水魚をテーマに,生物たちが生息する水辺環境を建物内に再現し,来館者に自然を疑似体験してもらう。研究・教育施設の域を脱し,娯楽性も追求した“エデュテインメント”な水族館を目指す。
 この水族館事業は,県に代わって民間の資金力・技術力を投入し建設・運営を行う,PFI的手法を導入する。三菱商事を核とするSPC(特別目的会社)の(有)ジー・エフ・エーが事業主となり,水族館の企画,設計,施工,維持管理(30年間)および資金調達を行い,水族館は岐阜県に30年間リースした後無償譲渡される。事業計画の背景には,岐阜県の梶原拓知事の水族館づくりへの夢があった。海のない岐阜県に,県が誇る長良川の魚たちを展示した水族館を,という強い思いが,民間の力によっていま実現される。
完成予想パース
県営公園の東端に位置する現場。
館内イメージ。
水槽展示のイメージ。
水槽のアクリル板設置工事の様子。
水槽内の展示工事もスタート。
水族館建設に不可欠な水槽工事
 現場を訪ねた10月上旬は,屋根・水槽・設備の工事が最盛期を迎えていた。水族館建設に不可欠なのは水槽工事だ。当水族館は,コンクリート製の水槽が大小28ヵ所,アクリル製の水槽を含めると計82ヵ所,総水量約470tにおよぶ。現場を統括する秋田所長に水槽工事の流れについて伺った。
 「鉄筋コンクリート製の水槽躯体をFRP(プラスチック樹脂)で防水加工した後,アクリル板を取り付けます。大きいものですと1t以上の重量があるので,作業員の安全,躯体へ秋田所長の損傷回避等,細心の注意を払います。アクリル板設置後は,一旦水槽に水をはり1週間程漏水試験を行います。問題がなければ水槽内の展示工事に入ります。この際も防水層にダメージを与えないよう,作業には気を使います。工事が完了すると,再度水槽に水をはり漏水試験を行うと共に,暫く放置してコンクリートのアルカリ成分を抜いて,生物に影響のない水質を確保します」。
 アクリル板の設置を行う現場は,緊張感が漂っていた。作業を見守る秋田所長の顔もいつになく厳しい。アクリル板を滑車で吊り上げると,破損のないよう少しずつ丁寧に何度も角度や方向を変えて取付け工事は進む。こうした丹念な作業の繰返しが,良質な水槽をつくる絶対条件なのだ。
事業者・請負者の立場での “ものづくり”
 公共工事が多い水族館は,通常建設会社が建物を施工し,設備・展示工事は専門業者に別発注される。しかし今回は,建築・設備・展示の工事を一括して当社が施工するという珍しいケースとなった。さらに,当社はSPCへの出資や事業企画・展示魚類計画に関わる社員出向も行っており,事業者の立場にもある。水族館の企画段階から施工まで“ものづくり”全般を通じて係わってきた秋田所長は――。
 「今回のプロジェクトには着工の10ヵ月前から参加し,関係者と共に多くの水族館を視察し企画・検討しました。当社は,事業者・請負者であるほかに,完成後30年間の修理業務も担当します。設計者の意図を反映した建物建設,30年以上の建物使用期間を念頭に置いた品質の確保,使い勝手やメンテナンスを考慮した設備配置など,関係者と協議を繰り返し,施工しています。計画段階から携わってきましたから,思いも強いし責任も感じます。リピーターがつくような魅力ある水族館にしたいですね」。

 現場を一歩出ると,水と緑に包まれた県営公園が広がる。ここは地元幼稚園の格好の遠足場所だ。園児の一人が「ここに水族館ができるんだよ!」と得意気に説明する。工事の進捗を来園者の方々にも見てもらいたいと,敢えて仮囲いを低くした現場の試みは,子どもたちの心を捉えたようだ。
 2004年夏,世界淡水魚園水族館は,高さ65mの観覧車とともにオープンする。子どもたちの歓声を聞く日が待ち遠しい――。
内装・展示は水族館のいのち
(株)鬼工房 企画課長 中山一郎さん
 意匠を凝らした内装・展示は水族館の要だ。当現場では展示工事を,専門業者の鬼工房へ委託し,本物さながらのダイナミックな滝や岩,樹木を配した環境展示を試みる。中山さんは,東京ディズニーランドをはじめ数々のアミューズメント施設の内装・展示を手掛けるスペシャリスト。当水族館では,米国ラーソン社の展示設計の意図を読み取り,実際に具現化していく影の功労者だ。中山流“ものづくり”のこだわりは,お客さんを騙すこと。一目で偽物とわかる作品はつくりたくない。環境展示では,生物の生息する環境を観察し,自然の摂理を理解しなければリアルな作品はできないという。今回も現地に赴き長良川の自然環境を観察し,イマジネーションを膨らませた中山さん。当工事に対する思いを語ってくれた。
 「我々人間にとっても淡水は必要不可欠なもの。この水族館を通じ,身近にある水辺の環境を大切に思ってもらいたい。そのためには,魚たちが生息する環境をリアルに表現した展示が必要。鹿島の皆さんからも新鮮な意見を頂戴し,パターン化を避けたよい作品が生まれそうです」。
アマゾン河の板根のサンプルの前で,中山さん(左)。隣接する国営公園には,鬼工房が手掛けた木曽川水園がある(右)。