特集:東京・城南エリア再生

ThinkPark Towerの完成――。
2007年10月25日,東京・大崎駅西口に誕生した再開発都市「ThinkPark」の中核施設である「ThinkPark Tower」。
21世紀の城南エリアを象徴する街に相応しい先進的なビジネス機能を備え,「森の中のオフィス」という新しい発想で,働く人,住む人に癒しの空間を提供する。
 
thinkpark
ThinkPark Tower
【工事概要】
場所:東京都品川区/発注者:明電舎,世界貿易センタービルディング/設計・監理:日建設計
規模:S造一部SRC造 B2,30F,PH2F 延べ151,938m2
2007年8月竣工(東京建築支店JV施工)
開発計画の推移
 大崎駅西口地区は,「明電舎地区」,「ソニー地区」,「南地区」,「中地区」の4つの地区に分けられ,「ThinkPark」はこのうち明電舎地区内の「大崎西口E東地区」と「大崎西口E南地区」を指す。
 「大崎西口E東地区」で計画された大規模プロジェクトは,オフィスと商業施設からなる超高層ビル「ThinkPark Tower」を建設するもの。同ビルは明電舎と世界貿易センタービルディング(WTC)が共同で明電舎大崎工場の跡地(東京都品川区)の一部1万8,850m2に建設し,「ThinkPark」の中核施設となる。両社は出資比率50対50の共同建設方式で事業を進め,明電舎が土地の50%をWTCに譲渡し,土地を共有。建設後,明電舎所有フロアをWTCに一括賃貸すると共に,ビル運営・管理も委託し,WTCが一括管理する。また,明電舎は本社機能を同ビルへ移転する。
 
 大崎は明電舎が1913(大正3)年に大崎工場を開設以来,昭和後期まで発電機やモーターなど主力製品の生産拠点だった。その後旺盛な需要に対応するため,静岡県や群馬県に新工場を建設して生産機能を移した。
 こうした中で,東京都は1982年に大崎を副都心に指定。明電舎も1985年から大崎再開発の検討を開始した。数度の計画変更や修正を経て,2002年に,品川区は「大崎駅西口地区再開発地区計画」を決定。その後「大崎西口E東地区」は2004年に都の「都市再生特別地区」第1号となることで,容積率の最高限度が300%から750%へと緩和された。
 これを受けて,明電舎とWTCの共同再開発事業が発表され,当社JVは,2004年8月に解体工事,2005年2月に本体工事に着手した。

アイディアが成長する街 where ideas grow
 「ThinkPark」は「アイディアが成長する街where ideas grow」の発想に基づき計画された。地上140mの超高層オフィスタワー「ThinkPark Tower」と,「ThinkPark Tower」の低層階に入る商業施設「ThinkPark Plaza」,敷地の約4割を占める緑地「ThinkPark Forest」,それに隣接する「大崎西口E南地区」で2007年9月にオープンしたホテル・フィットネス施設と施工中の住宅棟(共に他社施工)で構成される。
 デザインコンセプトは「グリーンアーバニズム」。「都市と田園,人工と自然,外部と内部」といったそれぞれに異なる特性を融合することで,快適な都市環境を創造する。

最先端のオフィスファシリティ―「ThinkPark Tower」
 高い安全性と居住性を持つ「ThinkPark Tower」は地上30階,地下2階,延床面積15万1,938m2。収容人数は約1万人。24時間体制の有人管理,非接触型のICカードによるセキュリティシステムを導入し,開放的な大空間オフィス・エントランスホールを持つ。エントランスロビーの一画には無線LAN環境を備えたビジネスラウンジを設置した。
 基準階の貸室面積は約3,000m2,天井高2.8m,奥行き20mで,無柱で明るく開放的な空間を確保し,業務内容に合わせたさまざまなレイアウトプランにフレキシブルに対応できる。
 建物には,当社開発の制震技術「HiDAX-e」が導入された。「HiDAX-e」は地震エネルギーを吸収するオイルダンパの制御機構に電力を使わないため,停電や電力系の故障時にも性能を発揮する。また,「CFT柱」※1の採用をはじめ,「ウェブダンパー梁」※2や,「アンボンドブレース」※3を用いて主要構造を大地震から守る。
 また,都市ガスを用い電気を供給すると共に排熱を利用し冷暖房を行う「ガスコージェネレーションシステム」,「蓄熱式空調システム」,「NAS電池」※4などを導入し省エネ,CO2削減を実現している。

※1. 鋼管の中に高強度コンクリートを充填することで優れた耐久性と耐火性を持ち合せた構造
※2. 地震エネルギーを吸収する極軟鋼を取付けた外周梁
※3. モルタルと鋼管等で構成された鋼製ブレース。柱を座屈拘束することで耐力向上を図り地震エネルギーを吸収する
※4. 液体ナトリウムと液体硫黄,特殊セラミックスを利用した蓄熱能力の高い蓄電池。夜間充電し昼間にその電力を使うことにより電力負荷のかかる日中のピークカットが可能になる
森の中のオフィス「ThinkPark Tower」
「ThinkPark Tower」オフィス基準階。無柱で明るく開放的な空間を実現した
様々な樹木が植えられた「ThinkPark Forest」。奥に見えるのが商業施設「ThinkPark Plaza」 敷地内は四季折々の自然が楽しめる
 「ThinkPark Tower」の低層階に入る「ThinkPark Plaza」には,レストランやコンビニエンスストア,トラベルサービスなどオフィスワーカーをサポートする利便性の高い25のショップがオープンした。その他,都市型医療モールにはMRIやCTなどの大型医療機器を備えた健康診断センターを併設しており,質の高い医療サービスを提供する。
 
 「ThinkPark Forest」の敷地は,約7,540m2。センペルセコイヤ,シラカシ,桜など四季折々の自然が楽しめる人々の憩いの森になる。フットサルなどの運動もでき,またオフィスワーカーの交流,リラクゼーションの場としても活用できるスペースとなる。
 東京工業大学で開発されたコンピュータシミュレーションで樹木の配置計画を行い,東京湾からの海風を有効利用することで「風の道」をつくり,ヒートアイランド現象の緩和にも寄与する。
「ThinkPark Tower」の完成により大崎駅西口の景観は一新した
column
 当社は,大崎駅西口とタワー2階を結ぶペデストリアンデッキおよび,その周辺工事も担当した。大崎駅西口周辺における品川区公共施設整備の一環で,歩行者用デッキ,駅前交通広場,地下駐輪場を建設するもの。駅前広場にはタクシー乗り場,ロータリーを整備。その地下に駐輪場を設けた。隣接する両工事は場所の提供等で協力し,円滑に工事が進められた。
交通広場 大崎駅と「ThinkPark Tower」を結ぶペデストリアンデッキ
【工事概要】
場所:東京都品川区/事業者:品川区/発注者:都市再生機構/設計:URリンケージ
規模:ペデストリアンデッキ―鋼単純鈑桁橋および鋼ラーメン 橋脚6本/地下駐輪場―RC造 B1 943台 延べ1,546m2/駅前交通広場―整備面積2,000m2 排水工,植栽工一式
2007年9月竣工(東京土木支店JV施工)
interview グランドオープンを迎えて
(仮称)大崎西口開発計画工事事務所 水上 覚工事事務所所長 「安全で工程通り,高品質のものをお客様に提供するという当初の目標を達成できたことを嬉しく思います」。グランドオープンしたばかりの「ThinkPark Tower」を見上げて水上 覚所長はほっとした表情をみせた。30ヵ月という短工期を,施工計画段階から綿密な打合せと,合理化工法の採用で克服。「環境負荷低減にも寄与できました」と工事を振り返った。
 
 施工効率の向上にはどんな方法を採られたのですか
――地上鉄骨工事を早期着手するために地下基礎躯体後,1階床工事を先行して構築する工法を採用しました。
 鉄骨建方工事では通常3階分を1節とするところ,4階分を1節としました。そのほか,デッキプレート床版と小梁の大型ユニット化,設備配管やアルミカーテンウォールのユニット化を進めることで,搬入車両の削減と揚重時間の短縮を図りました。ユニットが大型になるので,搬入に問題がないか,事前に車両試走も行いました。

 環境保全にもずいぶん配慮されたそうですね

――環境配慮への取組みでは「リサイクル率99.9%への挑戦」「CO2の排出削減」「資材総搬出入の削減」を目標にしました。
 具体的には現場内の車両に対しアイドリングストップを徹底し,東京ドーム約10個分のCO2削減効果を上げました。また,地下部分の掘削による残土を埋め戻しなどの別工事に再利用したり,現場に搬入される資材を極力無梱包化することで廃棄物削減に努めました。
 特に揚重管理,建設副産物管理を一括管理する「リレーションセンター」のシステム構築は効果的でしたね。この現場で3ヵ所目の設置でしたが,リサイクル率は96%に達しました。環境の負荷低減だけでなく,作業の効率化,安全への寄与,コストの削減という波及効果も生みました。
 
 工事中は「グリーンアジェンダ活動」も話題になりました
――この活動は,森林を保護するために植樹を行う団体を援助するものですが,使用済みの切手やテレフォンカードを回収するBOXを現場の仮囲いに設置し,近隣の方々にも協力してもらいました。予想した以上に沢山集まって,最終的に190本の樹木が植えられたと聞いています。

 以前も大崎で現場を担当されたと伺いましたが
――約10年前,大崎駅東口の「ゲートシティ大崎」の現場で副所長をしていました。再びこの工事で大崎に戻ってきた時,地元の方に「また一緒に仕事ができますね」と声をかけていただき感激しました。
 毎月1日の早朝,現場近くの居木神社へ現場スタッフと職長全員で安全祈願に行きました。宮司の森田義則さんとはその頃からのお付き合いで工事中も暖かく見守ってくださり,力づけられました。

 グランドオープンを迎えた今の気持ちはいかがですか

――安全で,高品質のものを工期内にお客様に提供するという目標を達成し,引渡しできたことが何より嬉しい。工期はきつかったですが,お客様の要望を伺いながら施工を進めました。きっと満足していただけたと思います。維持管理もしやすい建物になったと思います。
 大崎駅西口のリーディングプロジェクトですから,やりがいのある仕事でした。工事中に定年を迎えましたが再雇用となり,こうして完成を見届けることができ,感謝しています。

 現場を指揮するに当たって心掛けたことは
――仕事は厳しくても常に「明るく,楽しく,元気よく」をモットーとしてきました。餅つき,花見,バーベキュー大会などで,お客様や,地元近隣,JV現場内のコミュニケーションを図り,一体感を持って仕事をすることを大切にしました。
 みんなで良い思い出を共有する。それが良い仕事につながるのです。現場の仲間には,これだけの規模のものを造ったという自負と誇りを持って次の仕事につなげてもらいたいと願っています。
グランドオープンを迎えて グランドオープンを迎えて
グランドオープンを迎えて グランドオープンを迎えて
明電舎石原金春 執行役員 今年,当社は創業110周年を迎え,長年の悲願ともいえる「大崎開発計画」が実現しました。共同事業者である世界貿易センタービルディングさんと共に「ThinkPark Tower」をこうして皆様にお披露目することができて,大変感慨深いものがございます。
 大崎は1983(昭和58)年頃まで当社大崎工場のあったところで,移転後も登記簿上の本社所在地でした。「ThinkPark Tower」が完成し,思い入れのあるこの地に本社を回帰させました。9月に入居しましたが,以前と比べ大崎は交通アクセスが良くなり社員にも好評です。また,当社は,水処理などの環境ビジネスも手がけており,環境には高い関心を持って取り組んでいます。CO2の排出削減や,ヒートアイランド現象の抑制にも対応した21世紀をリードする先進のビルになったと満足しています。
 建設地の近くには当社二代目重宗たけ社長(創業者重宗芳水の妻)が寄贈した品川区立芳水小学校があります。工事中の現場の仮囲いに生徒さんが描いた絵を掲げました。これは私が発案したのですが,現場JVも学校のPTAも賛同してくださり,工事終了までその絵が我々の眼を楽しませてくれましたよ。
 こうした再開発は自分たちだけでやっても意味がありません。敷地の約4割を占める緑の空間「ThinkPark Forest」は地元の方々にも活用していただける場です。引き続きこれからも大崎の地に根をおろし,近隣の皆様と共生を図りたいと思っています。このプロジェクトを通して沢山の方々と知り合い,ご協力をいただき,私自身,得がたい貴重な経験をしました。それまでの近隣との良好な関係を維持し,安全に工事を進めていただき,鹿島さん,特に現場の水上所長には感謝しています。
 今後,この大崎駅西口の全体開発が完了し,シナジー効果により「ThinkPark」が更に活気に溢れ,副都心大崎にふさわしい南東京のランドマークとしていつまでも発展していって欲しいですね。
世界貿易センタービルディング宮崎親男専務取締役 当社は浜松町(東京都港区)の世界貿易センタービルディング(鹿島施工)建設から30年以上経過し,長年に亘り超高層ビルの運営管理業務に携わって参りました。これまでのノウハウを活かして新たなビル建設を図ることが,当社にとっての最大の課題であったところ,2001年に鹿島さんに明電舎さんをご紹介していただき,縁あって今回の共同事業が実現いたしました。
 稼動したばかりですが「ThinkPark Tower」はレイアウト効率が良いことがテナントに好評です。やはり柱の無い大空間を実現できたことが大きかった。また設備が細かく区切られているために空調など様々なテナントのご要望にきめ細かく応えることができます。
 浜松町のビルは改修を重ね,大切に使ってきました。今では信じられませんが,当時のJR浜松町駅の周辺は住宅街でした。街の成長と共にビルが成長してきたように思います。こうした経験を大崎でも活かしていきたいですね。
 大崎のプロジェクトでは,空間だけを提供するのではなく,テナントや地域に何かを提供できうる施設にしたいという思いがありました。樹齢100年のけやきも植えた「ThinkPark Forest」では様々なイベントを予定しています。ぜひ地元の方々にも足を運んで憩いの場として活用していただきたいです。
 これまで明電舎さんと幾度も協議を重ねて進めてきました。グランドオープンを迎え,やっとここまで来たという思いでいっぱいです。「ThinkPark Tower」も長く地域の方々に愛され,活用していってもらえることを期待しています。これからも,鹿島さんには建物の維持管理を含め,長くお付き合いをお願いしたいと思っています。

 ThinkPark Towerの完成――。
 大崎駅周辺の変遷と当社
 現在進行中のプロジェクト