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現場社員の言葉で知る「1F」の今 Part 1 海側遮水壁と陸側遮水壁

KAJIMAダイジェスト

現場社員の言葉で知る「1F」の今

「1F(いちえふ)」。福島第一原子力発電所に勤務する人々が呼ぶ略称である。
ここで働く社員の多くが,「建設技術者として復興に尽くしていることを誇りに思う」,
「1Fと鹿島の歴史を考えれば,安定化・廃炉へ取り組む責任がある」,
「福島復興に向けた作業は,一歩一歩だが着実に進んでいる」と,語ってくれた。
技術的な課題を克服し,計画の見直しに柔軟に対応しながら,
史上初となる作業に挑む社員の言葉のなかに「1F」の今,そして未来を見つけていく。

Part 1 海側遮水壁と陸側遮水壁

福島第一原子力発電所では,山側から海に流れ出ている地下水のうち,
1日あたり約300tが原子炉建屋に流れ込み,新たな汚染水となる。
そのため,現在,様々な地下水対策が実施されている。
当社は,1~4号機側の敷地から港湾内へ流れる地下水を堰き止める「海側遮水壁」と,
地下水の流れを原子炉建屋の山側で迂回させる「陸側遮水壁」の構築を担う。

写真:海側遮水壁

海側遮水壁

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自信を持って、遮水できていると言える

海側遮水壁を担当したのは,東電福島遮水壁工事事務所の田中秀昭所長だ。2006年から東電福島土木工事事務所に勤務し,構内で耐震工事などを担当。震災直後は構内道路や電源ケーブルの復旧にあたっている。復旧作業のなか,3号機の水素爆発を目の当たりにした。「想像を絶する光景が,今も脳裏から離れない」。

2011年10月から準備工事に着手した海側遮水壁の工事では,高線量に苦しみながらも,長さ約25mの鋼管矢板404本の打ち込み,鋼管矢板間をつなげる継手へのモルタルの充填を行い,約520mの壁(他社工区も含めると全長約780m)を構築した。求められる遮水性能は高く,継手内にゴムを入れて全てカメラで確認し,性能を確保した。ここまでは通常の工事では行わない。「自信を持って,遮水できていると言える」。幾度もの実証実験,さらに1本毎に施工状況を確認してきたからこそ,口にできる言葉である。2015年10月,海側遮水壁の閉合作業が終了。全面マスクで拭うことができない涙をこらえながら,工事関係者全員で喜びをかみしめた。

一方,陸側遮水壁は,1~4号機を取り囲むように遮水性の高い凍土壁を全長約1,500m構築し,大量の地下水を原子炉建屋やタービン建屋に近づけさせない対策である。この工事を率いるのは,福島第一凍土遮水壁工事事務所の阿部功所長。入社間もない頃に,東京湾アクアラインの海底地中接合で,凍結工法を経験した。「当社が,凍土方式による遮水壁の提案を始めた頃から,ここで仕事をすることを意識していました」。

2014年8月に着任。構内での実証実験が終わり,本格的に工事が始まった頃である。凍土壁は,マイナス30度の冷却液を移送管で圧送し,約1m間隔で地中に設置した長さ約30mの凍結管の中を循環させ造成する。地盤を凍結させることから,地下に多数存在する埋設物との交差箇所でも施工が可能だ。「他の工事や作業と同様に,作業員と重機を集めることが苦労した点です。特に,ボーリング工や配管工といった専門性の高い工種ということもあり,日本全国の作業員とボーリングマシンがここに集まりました。施工を共に行ったグループ会社のケミカルグラウトをはじめ,協力会社各社の頑張りに大変感謝しています」。全面マスク,タイベック,遮蔽ベストなど放射線対策用の装備では,水分補給やトイレ休憩もできないため,1人あたりの作業時間を3時間とした。4交代,12時間体制で,2,200人以上の職員・作業員が従事し,延べ約30万人が現場で働いた。2016年2月に予定どおり設備の設置を完了し,3月より凍結を開始。光ファイバーによる測温システムも導入し,1万点以上で温度のモニタリングを行い,長期にわたる凍土の状況を把握できるようにした。凍結管と測温管を合わせると1,927本もの削孔を行ったことになる。地下水の流速などの関係で,凍結に時間を要する箇所については,地盤中に薬液を注入する補助工法を適用する。

写真:田中秀昭 所長

東京土木支店
東電福島遮水壁工事事務所
田中秀昭 所長

写真:鋼管矢板の打設状況

鋼管矢板の打設状況

写真:阿部 功 所長

東京土木支店
福島第一凍土遮水壁工事事務所
阿部 功 所長

図版:凍土壁造成イメージ

凍土壁造成イメージ。マイナス30度の冷却液を移送管で圧送し,凍結管の中を循環させ造成

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これだけ注目を集めている現場はありません。鹿島の総力を結集して,国難に立ち向かいましょう

「これだけ注目を集めている現場はありません。鹿島の総力を結集して,国難に立ち向かいましょう」。2人の所長は声を揃え,社員へ呼びかける。海側遮水壁は,2013年末に閉合による地下水上昇の影響を検討するため,残り9本の鋼管矢板打設を残して一旦打設を終えている。その間,田中所長は,陸側遮水壁の計画や実証実験,本体施工を工事長として担ってきた。「絶対に壊れないと言われていた原子炉建屋が壊れた。その姿を現場で見つめていくことは,建設技術者としての責務ではないか」と,田中所長は続けた。

現在,凍土壁は陸側に敢えて凍結させていない箇所を残している。地下水が流れ込まなくなり,遮水壁で閉合した域内の地下水位が下がり過ぎることにより,建屋内滞留水が漏えいすることが懸念されているからだ。今,最後の凍結管に冷却液を流し,全面凍結が開始されるのを待つ。

写真:凍結プラント内では,凍結状況をリアルタイムに確認できる

凍結プラント内では,凍結状況をリアルタイムに確認できる

図版:汚染水対策の概要

汚染水対策の概要。「汚染源を取り除く」,「汚染源に水を近づけない」,「汚染水を漏らさない」という3つの基本方針のもと進められている ※太字は当社が担当する工事

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