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吾妻川に架かる国内最長の中央径間を持つPRC斜版橋
JR第二吾妻川橋梁JV工事

八ッ場ダム建設事業(群馬県長野原町)に伴い,JR吾妻線は一部区間が水没する。
これに備え,吾妻線の線路付替工事(延長約10.4km)が進行中だ。
当社JVは,このうち「第二吾妻川橋梁」の架橋工事を担当している。完成するとPRC(プレストレスト鉄筋コンクリート)斜版橋としては,国内最長の中央径間を有する鉄道橋となる。
JR第二吾妻川橋梁JV工事 工事概要
JR第二吾妻川橋梁JV工事
場所:群馬県吾妻郡東吾妻町/発注者:東日本旅客鉄道/設計:八千代エンジニヤリング/規模:単純PRC中路箱桁橋・3径間連続PRC斜版中路箱桁橋 橋長431.0m 軌間1,067mm 最大支間167.0m 最高主塔高41.8m/工期:2005年7月〜2010年3月(予定)
(関東支店JV施工)
  新しくなる吾妻線
全景 JR吾妻線は1945年の開通以来,半世紀以上に及ぶ長い歴史を持つ。渋川駅(群馬県渋川市)から大前駅(同県嬬恋村)間を結ぶ約55.6km の路線である。利根川支流の吾妻川に沿って伸びる沿線には,草津,四万,万座などの名湯が並び,終着の嬬恋村周辺は高原野菜の産地としても知られる。しかし渓谷沿いの地形などから,降雨などで列車の運行が制限されるなどの弱点があった。
 八ッ場ダム建設に伴って水没する地域は、川原湯温泉駅を含む約6kmである。このため,前後の岩島駅から長野原草津口駅間の線路付替が行われることになった。延長10.4kmのうち約8kmがトンネルになる。これにより降雨,積雪などに対する防災強度の向上による安全,安定輸送の確保が図られるという。
鉄道橋の安全性と快適性
斜版内斜材ケーブル配置イメージ図 第二吾妻川橋梁は,岩島駅より上流側の約1.0kmの地点から,曲線半径600mの左曲線を描きながら吾妻川を渡河する橋梁である。単径間PRC桁橋と3径間連続PRC斜版橋で構成された橋長431.0mの中央スパン167.0mは,完成するとPRC斜版橋では国内最長となる。
 「PRC斜版橋」という構造形式が採用されたのは,鉄道橋には乗客の安全性と快適性の確保が求められること,吾妻川をまたぐ大スパンを実現することの二つの理由による。この構造は,長大支間に適した斜張橋に似た形状で,主塔を介してケーブルを斜めに偏心させて配し橋桁を吊り上げて荷重を支えるとともに,斜材ケーブルを版状のコンクリートで被覆し,更にプレストレスを導入することにより,主桁の揺れの軽減を図る。剛性と列車走行性に優れた,鉄道橋に適した構造形式となっている。
 世界的に珍しいという独立4本柱の主塔形状は,地域住民の結束を意味し,みんなで力を合わせて支えるイメージを表現した。また,柱の断面を上下で変化させることで,釣合と安定感を創出している。
第二吾妻川橋梁
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高さ50mでの作業
 訪れた時(8月下旬)は,主桁の張出施工を行っていた。工事進捗率は75%なのに,すでに圧倒的な存在感があった。
 第二吾妻川橋梁は,橋面の高さが川底から約50mある。「このため河川上は移動作業車(ワーゲン)を,他の径間は設置式支保工を用いて張出施工を行い,『やじろべえ』のように左右のバランスをとりながら施工を進めています」と,大沼孝司副所長が説明してくれた。
 ワーゲンによる張出施工は,橋脚側からワーゲンを用いて橋桁を延ばしていく工法である。地上からの支保工を必要としないので,架設地点付近の橋梁直下の地形(河川,渓谷)や利用状況(道路,鉄道)に左右されずに,安全で経済的な施工が可能というのが最大の特長という。
 通常,張出施工を終えたワーゲンは柱頭部付近まで後退して解体するか,その場で解体する。しかし,ここでは斜材があるため柱頭部への後退や,橋面にクレーンをのせたその場での解体が困難だった。そこで,当社機械部と現場で開発した新工法が採用された。「ワーゲンを分割し,後退させるというこの工法が使われるのは国内で初めて」と機電を担当する朝霧秀人次長が説明してくれた。
河川上の作業には移動作業車が使用された
主桁柱頭部の配筋 型枠窓からコンクリートの充填・締め固め状況を確認する
施行順序図:基礎,橋脚を構築後,支保工上で柱頭部を構築し,中央径間側に移動作業車を組立てる
施行順序図:中央径間側を移動作業車による張出施工,側径間側を設置式支保工による場所打ちで施工する。橋桁の施工と平行して主塔を立ち上げた後,橋桁を斜材で吊り上げながら主桁の施工を進める
施行順序図:主桁の施工完了後,斜材ケーブルを追加し斜版コンクリートを打設後に,斜材ケーブルに張力を導入して,橋桁を完成させる
コンクリートの品質を徹底的に追求する
 この工事で最も難しかったのがコンクリートの打設だ。「小さな断面に多くの鋼材が入り組んでいるため,隙間なく密実なコンクリートを打設するのは至難の技」と,この現場に計画段階から携わっている大岡隆工事課長はいう。ここでのコンクリートに対する要求品質は非常に高く,「耐久性にすぐれた長寿命の高品質コンクリートを目標に、徹底的に品質にこだわりました」。
 複雑で高密度に配置された鉄筋,PC鋼材の配置には3DCADを活用したが,ここに隙間なく密実なコンクリートを打設するには,通常よりも流動性の良いコンクリートが求められた。型枠には打設窓を設置。コンクリートを圧送するホースを入れる場所の確保と,打設状況を直接目視できるようにして,確実な締め固めを行った。
 「中でも主塔上部は,主塔の鉄筋,斜版の鉄筋,斜材のサドル管(斜材ケーブルが主塔を通過するための鋼管)が入り組んでいるため,難易度の高い打設となった」と宇津木一弘工事課長。主桁,軌道面上方には合成単繊維を混入した繊維補強コンクリートを使用して,剥落を防止。主塔横梁には高強度コンクリートを使用したという。
 11月からはいよいよ斜版の施工が始まる。
完成予想パース
30数年の架橋経験を活かして
松渕得郎所長 現場での松渕得郎所長のフットワークは軽い。「これだけこまめに現場を回り,作業員に声をかける所長も珍しい」と,大沼副所長がびっくりするほどよく動く。「作業員や職員とコミュニケーションを図ることで,緊張感を持ちつつモチベーションを高めていきたい。やることは一緒。どうせやるなら明るく元気にやればいい」と松渕所長は言う。
 松渕所長は入社以来,浦戸大橋を手始めに,第2・第3阿武隈川橋梁,青森ベイブリッジなど多くの橋梁現場を経験した。
 30数年に及ぶ経験の中には,失敗やトラブルも多かった。それをもとに注意点やスローガン,方針などをまとめた「私の現場運営」を現場従業員に配布して,安全喚起や信頼関係の構築に努めている。例えば,所長方針の項には「議論・コミュニケーションを活発にせよ!」「先の流れを想像せよ!」「メリハリをもって緊張感を持続せよ!」といった7ケ条が並んでいる。
 そんな松渕所長のリーダーシップに,作業員たちの信頼は厚い。所長も「ここにいるメンバーなら,どんな事でもできる」と全幅の信頼を寄せる。「我々の仕事は上手くいって当たり前。可能な限り先を予測して,危険やトラブルの回避に努めることが大切。これまでの経験を踏まえて,現場のメンバーが同じ失敗をしないようにするのが,私の使命と思っています」と話してくれた。
 竣工予定は2010年3月。吾妻川に架かる新たなシンボルが誕生する。
工事を支える現場の皆さん。後列左から,大岡工事課長,福田工事係,阿部工事係,宇津木工事課長,平野事務係 前列左から,朝霧次長,事務の篠原さん,松渕所長,大沼副所長
主塔から起点方向を望む。大きな曲線がよくわかる