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世界初の台形CSGダム

当別ダム建設事業本体工工事

北海道で当社JVが建設を進めている当別ダムには,
世界初となるダム型式が採用されている。材料選定の自由度が高く,低コスト。
環境負荷を低減して高速施工も可能になる。
ダムの合理化要素を全て備えた「台形CSGダム」が,ダム史に新たなページを刻む。

工事概要

当別ダム建設事業本体工工事

場所:
北海道石狩郡当別町
発注者:
北海道空知総合振興局札幌建設管理部
規模:
台形CSGダム
堤高52.0m 堤頂長432.0m
堤体積806,000m3
総貯水量7,450万m3
工期:
2008年10月~2012年12月

(北海道支店JV施工)

完成予想パース

完成予想パース

地図

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地域住民の願い

札幌市の中心部から北東15kmほどに位置する当別町は,米どころとして知られ,花卉(かき)の生産も盛んな田園都市。この町で当別ダムの建設が進められている。当別ダムは,石狩川水系当別川の治水と河川環境の保全,水道・灌漑用水の供給を目的とした多目的ダムである。

当別町はこれまで,洪水の被害に悩まされ続けてきた。町の広報誌『広報とうべつ』2005年12月号によれば,1961年から2001年までに,台風や集中豪雨による川の氾濫が26回を数えたという。町は独自に洪水対策を講じながら,当別川の抜本的な治水対策を道に陳情し続けた。当別ダムの建設は住民が待ち焦がれた事業で,2005年11月に開催された早期完成を求める町民緊急大会には,約1,100名もの町民が集った。

その願いが届き,2008年10月,ダム本体の工事がはじまった。堤体基礎掘削や仮設備設置などが行われ,2009年5月には堤体の構築に着手。2010年11月末に堤体が完成して,現在は当別川の二次転流などが進められている。

この現場を統括してきたのが山村法男工事事務所長。24時間体制で突き進む現場の舵を取ってきた。「不測の事態があるかもしれませんから,工程を前倒しできるよう常に現場はフル稼働でここまできました」。現場の管理と同時に山村所長が力を割くのが地域住民との交流。現場見学会の開催や地元の祭りへの参加,ミニコミ誌の発行などを積極的に行ってきた。「地域住民の方は非常に協力的で,話を聞くほどに完成を待ち侘びる思いが伝わってくる。全力で応えたいと職員一同工事を進めています」。

写真:堤体構築の様子。ダムの建設は地域住民が待ち望んだ事業(右岸から)

堤体構築の様子。ダムの建設は地域住民が待ち望んだ事業(右岸から)

写真:1981年8月には2度の洪水が町を襲った(提供:当別町)

1981年8月には2度の洪水が町を襲った(提供:当別町)

写真:地元小学生が参加した現場見学会。これまでに延べ2,700名が現場見学に訪れている

地元小学生が参加した現場見学会。これまでに延べ2,700名が現場見学に訪れている

写真:山村法男所長

山村法男所長

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世界初のダム型式

当別ダムの最大の特徴は,世界初となる台形CSG(Cemented Sand and Gravel)ダムであること。このダム型式はわが国で開発されたもので,台形ダムとCSG工法の特長を併せ持つ。設計・施工・材料というダム建設における3つの合理化を同時に達成することができる画期的なダム型式である。

CSGとは砂礫に水とセメントを加えて混合したもの。分級や洗浄などを施さずに現場近傍で採取した土石を利用することができる。材料調達が容易で材料の製造や運搬コストが抑えられるが,強度は小さい。「台形にすると安定度が増して必要な強度が緩和されますから,強度の小さいCSGを使用できるのです」というのは,入社以来20年余り全国各地のダム工事に携わり,現在,監理技術者として現場を指揮する武井昭副所長。「これまでに品質管理手法が確立されたことで,当別ダムに本格的に台形CSGダムを導入できたのです」。当別ダムは,有識者が精力的に行ってきた研究開発の成果なのだという。

当初,当別ダムは重力式コンクリートダムとして計画されていた。しかし,現場近辺では良質な骨材を採取できなかったため,発注者はダム上流の河床から採取した砂礫を調査した上で,台形CSGダムの採用に踏み切った。「環境負荷が低減される点も大きなポイントです」と武井副所長はいう。原石山による自然の改変がなく,骨材の洗浄が不要になるため現場から排出される濁水量も減少する。台形CSGダムは自然にやさしいダムなのである。

図:台形CSGダムの特徴

台形CSGダムの特徴

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図:台形CSGダムの標準断面

台形CSGダムの標準断面

写真:武井昭副所長

武井昭副所長

写真:CSGの母材の採取は,ダム上流の河床で行った。自然改変が小さく,環境に優しい点も大きな特長

CSGの母材の採取は,ダム上流の河床で行った。自然改変が小さく,環境に優しい点も大きな特長

写真:堤体から採取したCSGのボーリングコア。ハンマーで叩くと「カーン」と響く

堤体から採取したCSGのボーリングコア。ハンマーで叩くと「カーン」と響く

81万m3の打設を15ヵ月で

「とにかくはじめての施工方法ですから,試行に試行を重ねました」と武井副所長はいう。発注者が数年かけて実施してきた試行に加えて数ヵ月の実地試験を行い,有識者の指導を仰ぎながら堤体の工事がはじまった。

CSGの打設は,ブルドーザで敷きならしたCSGを振動ローラーで転圧して行うため,従来のコンクリートダムに比べ高速大量施工が可能になる。加えて現場では,55tの重ダンプが直接堤体に乗り入れることで従来型コンクリートダムの倍以上の施工速度を確保した。CSGを先行打設し,上・下流面のプレキャスト型枠を取り付けて保護コンクリートを打設する手順で工事が進む。CSGの撒きだしと転圧の管理にはICTを採用。GPSなどを利用して効率的な品質管理を実現した。武井副所長は振り返る。「様々な工夫を凝らしても厳しい工程で,技術研究所や機械部等関連部署の支援が大きな力になりました。その上で,1ヵ月7.5mの堤体構築という具体的な目標を定めて工事を進めていったのです」。

写真:設備プラント全景

設備プラント全景

写真:セメントサイロ下部のエアレーション装置(エアーノズルにより送気する装置)を制御しセメントの密度を一定に保つ

セメントサイロ下部のエアレーション装置(エアーノズルにより送気する装置)を制御しセメントの密度を一定に保つ

写真:CSGの打設は汎用重機を使用できる

CSGの打設は汎用重機を使用できる

写真:プレキャスト型枠の設置状況。ここに保護コンクリートを打設する

プレキャスト型枠の設置状況。ここに保護コンクリートを打設する

写真:24時間体制で工事が行われた

24時間体制で工事が行われた

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この高速施工に対応するためには,安定した材料供給も大きな課題となった。CSGの製造には当社が共同開発したCSG混合装置「SPミキサ」を中心に最新設備を導入。250m3/hの設備ライン2列を駆使し1時間あたり450m3の供給を続けた。機械設備管理を担当する長谷弘行次長は「連続高速大量製造と高精度な材料供給制御が鍵でした」と話す。CSGを供給し続けることができなければ工事が止まるため,設備の維持管理が工事の進捗を左右するのだ。「雨で打設が中止になり,設備が止まった日には重点的に点検・整備を実施していました。連続稼働しているため,砂礫による摩耗で設備鉄板に穴があいたりするので補強や改造が中心でした」と長谷次長。その時々の状態で密度が異なるため安定した連続供給が困難とされていたセメントについては,設備供給口付近に取り付けたエアレーション装置を制御することで供給セメントの密度均一化に成功した。

実打設期間15ヵ月,携わる人々の努力で81万m3の台形CSGダムの打設を実現させた。

写真:長谷弘行次長

長谷弘行次長

図:当別ダム本体CSG工 施工フロー

当別ダム本体CSG工 施工フロー

防災事業に携わる

「防災設備がいかに大切か,この現場で痛感しています」と山村所長はいう。当別ダムの建設は,治水を目的の一つとした防災事業である。水害を防ぐためのダムをつくるこの現場だが,2010年8月,思わぬ災害に見舞われた。設計時想定数値を超える豪雨に,転流した当別川が氾濫したのである。人的被害こそなかったが,ダムサイトの一部が水没して工事は一時中断を余儀なくされた。「20年に一度の河川の増水が想定されていましたが,自然は人間の想定など意に介さなかった」と山村所長。その思いがいっそう強まったのは,東日本大震災だった。1,000年に一度ともいわれる大災害に,防災事業に携わる者として意を新たにしたという。「災害は待ってはくれない。当別ダムを確実に仕上げなければならないと思ったのです」。

写真:ダムサイトに押し寄せた濁水により施工機械の一部が水没した

ダムサイトに押し寄せた濁水により施工機械の一部が水没した

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現在,改めて防災事業の重要性が見直され,土木技術が評価されている。土木技術は実地経験を活かしながら発展し,人々の生活を支えてきた。当別ダムで培われた台形CSGダムの技術も今後,各地で利用されていくだろうと山村所長は予想する。「CSG工法は,材料選定の自由度が高く品質管理の手法が確立されていますから,ダム以外の構造物にも適用していくべきでしょう」。

当別ダムでは,北の大地らしく融雪水を使用して試験湛水が行われる。試験湛水がはじまるのは,2012年3月の予定である。

写真:ダムサイト全景を下流側上空より望む

ダムサイト全景を下流側上空より望む

写真:堤体打設完了を祝う関係者

堤体打設完了を祝う関係者

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