テクノプラザ:
内湾の食物連鎖の修復を目指して 
  〜葉山水域環境研究室発 カニ護岸パネルの開発

 皆さんの中には小さい頃,海や川でカニを捕って遊んだ経験をお持ちの方も多いだろう。しかし,近年コンクリート護岸の普及によってカニのすみかが減少し,数が減ってきている。カニが減ったことでゾェアやメガロパというカニの幼生を餌にしているハゼなどの沿岸の魚も減っているという。カニが住める護岸を作り,カニが戻ってくれば,食物連鎖の修復になり,カニを餌としているハゼやハゼを餌にしているウナギやカレイ,スズキなど内湾資源の復活に役立つだろう。そこで,技術研究所葉山水域環境研究室では,カニの住めるコンクリート護岸の研究を開始,実用化に目途が立った。今回のテクノプラザでは,建設会社ならではの環境修復へのアプローチを紹介する。



●コンクリート護岸になぜカニは住めないのか?

 葉山水域環境研究室では,東京湾のハゼやウナギが減少している原因調査を食物連鎖に着目して進めてきた。この調査の中で,ハゼやウナギの餌となるゴカイやカニのすみかが護岸のコンクリート化などの環境改変のよって減少していることがわかった。これまで,建設会社の造ってきたコンクリート護岸はカニにとってとても住みにくいものだったのだ。

内湾の食物連鎖

●江戸城の石垣をモデルに

 カニ護岸パネルの試作品は,実際にカニが住む江戸城の石垣をモデルに作られた。照り返しを少なくするために,色を黒く着色し,カニが上りやすいよう表面の凸凹の調整を繰り返し,カニによる上り下り試験を行った。更に,カニが移動するための目地を設け,カニのすみかとなる穴をある程度の間隔で開けておき,パネルの裏に小石や土,砂で裏詰めを行った。つまり,石積みの護岸と同じ機能を持たせたのだ。クロベンケイガニ20匹による実験を開始して約6か月,開けた穴の奥にカニが巣穴を作っているのが確認されている。今後も,目地の深さや幅の検討,穴の数の検討などの調査を引き続き行ってカニの住み心地を調べることで,カニの住みやすいパネルへの改良を試みていく。

カニ護岸パネル実験
葉山水域環境研究室でのカニ護岸パネル実験
実験中のカニの様子
実験中のカニの様子 カニが巣穴を作っている
断面図
カニ護岸パネル断面図
●食物連鎖の修復を目指して

 この護岸は従来あるコンクリート護岸や土留めの前面に簡易に設置することができるため,護岸のリニューアルにも採用できる。また,対象とする生物と地域にあった色調,表面,目地の形状,裏詰め材等を検討し,パネルを製造,供給することができる。カニのすみかを提供することで,かつてあった食物連鎖を蘇らすことができるこのカニ護岸パネル。また昔のように護岸でカニ捕りをする子供達の姿が見られる日も遠くないかもしれない。

お問い合せ先
技術研究所 葉山水域環境研究室
TEL 0468-76-1018