テクノ・ライブラリ


Techno Library

液状化対策技術
地震の際に,それまで安定していた地盤が,突然液体のように流動する「液状化現象」。1995年に起きた阪神・淡路大震災でも大きな被害をもたらしたことは記憶に新しい。今月のテクノライブラリでは,最新の工法を中心に,液状化対策工法を紹介する。

液状化のメカニズム
 液状化は,砂粒と砂粒の間が水で満たされた状態(飽和状態)の砂地盤で発生する。こうした地盤は,平常時は砂の粒同士がかみ合って安定しているが,地震の激しい揺れが加わると,砂粒同士のかみ合わせが外れてしまう。こうなると,まるで砂粒が水の中に浮いたような状態となり,全体が泥水のように流動し,地盤が支持力(建物を支える力)を失って,その上の建物が倒れたり沈下することになる。
 液状化が問題となって以降,様々な新しい対策工法が検討されてきた。このうち,地盤固化工法および薬液注入工法を紹介する。

阪神・淡路大震災で沈下した東神戸フェリー埠頭のエプロン部 液状化のメカニズム
阪神・淡路大震災で沈下した東神戸フェリー埠頭のエプロン部
液状化のメカニズム


地盤と固化材を翼で混合:機械式攪拌(かくはん)工法
 液状化しやすい砂地盤と,セメント系の固化材などを混合し,地盤自体を固めることで液状化を回避する工法が,地盤固化工法だ。この工法では,固化材と地盤を均一に混合することが重要となり,その方式には様々なものがある。
 混合を機械式の攪拌ブレード(翼)によって行うのが,「機械式攪拌工法」だ。この工法では,ブレードのついた軸を回転させて地盤を攪拌しながら押し進め,同時に軸の先端にあるノズルから固化材あるいはそのスラリー(固化材を含む溶液)を注入し,直径1m程度の均一な固化地盤の柱を地中に構築する。大型の施工機械が必要となるが,構造物を新設する際の地盤固化工法としては,もっとも経済的な工法として普及している。


ジェットの力で地盤を改良:高圧噴射攪拌工法
 超高圧水の噴射力(ジェット)によって,地盤と固化材を効率的に混合するのが「高圧噴射攪拌工法」である。当社と関係会社のケミカルグラウトは,液状化対策用に特化した「ジオパスタ工法」を有している。この工法は,回転する軸の先端にあるノズルから,30MPa以上の超高圧で固化材スラリーを噴射し,その力で地盤を「切るように」乱しながら,同時に固化材と混合する。ジェットの力は,ノズルから最大で2.5m程度の範囲におよび,一度の施工で最大直径が5mにも達する固化地盤の柱を地中につくることができる。機械式攪拌工法に比較してコストは高くなるが,地上から開ける穴が直径150mm程度と小さく,装置の高さも低く設置スペースも小さいなどから,地上にわずかなスペースがあれば,その直下の地盤を改良することが可能である。

ジェットの噴射状況(地上での実験の様子)
ジェットの噴射状況(地上での実験の様子)

ジオパスタ工法によって,地中に構築された直径5mの巨大な固化地盤の柱
ジオパスタ工法によって,地中に構築された直径5mの巨大な固化地盤の柱


攪拌翼とジェットの力が合体:交差噴流式複合攪拌工法
 ケミカルグラウトらが開発したJACSMAN (Jet And Churning System MANagement)工法は,機械式の攪拌ブレードとジェットを組み合わせたものである。上下二段に配置された攪拌ブレードの先端から,超高圧スラリーを交差するように噴射しながら,地盤を固化してゆく。一度の改良面積も最大で7m2程度に達し,コストも高圧噴射攪拌工法より大幅に低減できる。コスト,効率,装置の大きさなどの面で,攪拌翼とジェットの中間的な性格を有する工法である。また,先行して構築した地中固化地盤の柱の表面をジェットが洗いながら,隣接する新たな柱を構築するため,柱の相互の密着性が高まるメリットもある。このため,柱を連続して施工することで,接合部も柱と同等の性能を持つ,信頼性の高い壁などを地中に構築することが可能である。
 このJACSMAN工法の特長を最大限に活かし,地盤を部分的に固化して液状化を防止する技術が,当社が都市基盤整備公団と共同開発したJAMPS(Jet And Mix for Partial Solidification)工法である。高度な液状化解析技術と構造設計技術により,全面固化の場合と同等の液状化防止効果を発揮する,経済的な部分固化の形状を決定することができる。

JACSMAN工法の概要 JAMPS工法で可能となる部分固化での護岸液状化対策
JACSMAN工法の概要
攪拌ブレードとジェットの両方で地盤を効率よく混合する
JAMPS工法で可能となる部分固化での護岸液状化対策


既存構造物直下の液状化対策を可能とする新しい薬液注入工法
 地盤中に薬液を注入して地下水と置換し,地盤全体に“ねばり”を与えることで液状化を防止するのが薬液注入工法である。  最近,当社は独立行政法人・港湾空港技術研究所とケミカルグラウトと共同で,カーベックス(CurveX)工法を開発した。この工法の最大の特徴は,薬液を注入する孔を,地上から自在な方向に掘り進むことができることだ。掘削パイプの先端に取り付けられた特殊なビットは直進時は回転しながら掘り進む。曲がる際には回転を停止し,「そり」の先端が向いた方向に曲がりながら掘り進む。このため,地中の既設構造物を避けながら,構造物直下などの目標位置まで薬液を注入するパイプを到達させることができるのだ。また,先端の位置は,独自のセンサーシステムによって100mの掘削距離に対して半径30cmの精度で正確に検知することができる。到達したパイプの先端からは,環境に配慮した中性の薬液が注入され,一回で直径2〜3mの球状の改良体がつくられ,この改良体を連続させて地盤全体の液状化を防止する。



 阪神・淡路大震災以降,液状化に対する各種の基準が見直された結果,大規模地震の際に直下の地盤が液状化する恐れのある,既存構造物の存在が指摘されている。こうした構造物にも適用できる工法や,コスト削減,効率向上などの社会ニーズに応える努力が,液状化対策の分野でも続けられている。

カーベックス工法の専用機と先端ビット カーベックス工法による既存橋梁直下の改良の概念
カーベックス工法の専用機と先端ビット
カーベックス工法による既存橋梁直下の改良の概念