特集:知的財産創出へのテクニカルアプローチ

2 発想をかたちにする組織力
 スーパーRCフレーム構法にみる知の連携


ニーズを先取りするR&D
 経営方針と直結する知財戦略を探ることは,R&Dという視野から特許を考えることにほかならない。ここでは「スーパーRCフレーム構法」を例に,知財創出の多様なあり方をR&Dのプロセスに沿って紹介したい。
 スーパーRCフレーム構法は,地震国日本での長年の夢であった,RC構造による,居住空間に柱・梁のない超高層フリープランを実現した構法である。構造躯体は,建物中央のスーパーウォール,最上階のスーパービーム,コネクティング柱,制震装置の4要素に集約され,巨大な1階建てのイメージで構成されている。各階の部屋は平面(間取り)・断面(階高)ともに自由になり,将来の間取り変更やリニューアルも容易になる。すでに芝パーク・タワーや秋葉原3-2街区マンション計画(仮称)など,超高層マンションを中心に多数のプロジェクトで採用されている。
 この構法の開発は,A/Eにおける構造設計からの躯体技術のアイディアと,建築設計からのプランニングの発想が,ほぼ同時に発案された約10年前にはじまった。SI(スケルトンインフィル)の理論,都心居住やフリープランのマンションといったブームが起こるのは90年代後半以降だから,社会ニーズが発生したころには,すでに当社は時流を見越して特許を出願していたのである。


スーパーRCフレーム構法
建築設計エンジニアリング本部(A/E)のアイディア


既存財産とのコラボレーション
 スーパーRCフレーム構法がニーズを先取りできた要因は,発想の先進性にくわえて,短期間で推進したR&Dである。当社がそれまでに蓄積してきた既存技術の応用と,全社的なコラボレーションが生んだ結果だ。
 おもな既存技術の利用として,たとえば小堀研究室が研究・開発してきた制震装置「HiDAM」が挙げられる。今回の壮大な構法に合わせて,従来より機長の長い装置を応用開発した。また,構造体を集約したスーパーウォールも,すでに実用化していた「HiRC工法」でのコア壁の技術を応用したもので,技術研究所と建築設計エンジニアリング本部が共同開発することとなった。さらに,前例のない構造を解析するには,技術研究所やITソリューション部による新たな解析手法の開発が不可欠であった。
 そしてスーパーRCフレーム構法の実現のために新たに生み出された技術としては,巨大な躯体をつくる施工方法が好例である。1本あたり約100kgの鉄筋を高密度かつ安全に配筋する自動昇降装置「スーパーステージ筋太郎」,大型システム型枠を内蔵する自昇式足場「スーパークライマー昇太郎」などの技術は,建築技術本部,A/E構造設計グループ,工事事務所が連携し,工事現場での実大施工実験を経て開発された。
 このようにR&Dは,研究室や実験室のなかに限った活動ではない。新しいアイディアと既存の知的財産の連携によって生まれたスーパーRCフレーム構法は,研究・開発や企画・設計部門から工事現場までの知力を連携・結集することで,当社の総合力のシンボルとして軽やかに時代を先駆けたのである。


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技術に裏打ちされた「ユーザー志向の商品企画力」
フィットプランセレクトシステム
特開2002-61400号
「集合住宅住戸の間取り計画方法及び間取り計画プログラムを記録した記録媒体」
 超高層フリープランニングに関連して,マンション購入者の希望をより具体的に叶える技術が「フィットプランセレクトシステム(略称:FIT)」だ。住友不動産と当社の共同開発マンション,パークスクエア[ネオス]横浜では6,480通りもの間取り組み合わせを購入者自身がパソコンで選択できる物件として,話題・人気を集めた。
ユーザー志向の商品企画力 従来の固定概念を覆して水回りの配置も選択でき,購入者のライフスタイルや価値観に合致した間取りをデータ管理する。柱・梁のない空間に適したソフトな技術である。建築の企画力と設計力,システムを実現したIT力,そしてデベロッパーとしての商品開発力といった総合的な技術力が,ユーザー志向のベクトルで結実した一例といえる。




0 知的財産と建設業
1 技術力をつつむ知財戦略
2 発想をかたちにする組織力
3 知力で進化するゼネコン鹿島